現代の日本を舞台にした
大ヒット転生モノの公式スピンオフ
同名ライトノベルのコミカライズとして『マガジンポケット』にて連載され、300万部を超える大ヒット作となった『転生したら第七皇子だったので、気ままに魔術を極めます』。2024年4月クールでアニメ化もされた同作のスピンオフ作品が『現代転移の第二王子』だ。
本作の主人公は、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』の主人公、ロイド=ディ=サルームの兄である、アルベルト=ディ・サルーム。王位継承権を持つサルーム王国の第二王子として、魔術の才能あふれる第七王子・ロイドを溺愛する“兄バカ”だ。
物語はアルベルトとロイドの二人が、ロイドが寝言で唱えた「魔術束」によって現代の日本に飛ばされてしまったところからスタートする。
魔術の使えない世界で路頭に迷いそうになっていた兄弟を救ったのは、有栖川棗(ナツメ)と名乗る家出少女。彼女の紹介で働き口(書店)と住まいを見つけたアルベルトは、ロイドとともに元の世界に戻る方法を探し出すため、まずはこの世界で働くことに。
まず驚くのは、魔術の使えない日本でもほとんど困ることなく、あっという間にさまざまなスキルを身に着けるアルベルトの、まさにチート級の能力だ。
わずか一晩で日本語をほぼ完ぺきにマスターし、初見の食材や調味料を使っての料理や、職場である書店でのさまざまな業務もあっという間に習得。おまけに優しさと礼節を極め、正義感も強いイケメンときた(ズルくない?)。
そんなアルベルトがタチの悪い万引き学生を懲らしめたり、近隣のスーパーを特売日に巡って売り切れ続出に嘆いたり、それらのスーパーで特売の野菜を大量に買い込む迷惑なラーメン店と対決したり……。
ヒロイン的な立ち位置のナツメが「ツッコミ」として機能し、アルベルトやロイドのさまざまな「俗世離れした言動」や「さすがにチート過ぎる能力」に的確なツッコミを入れていく。
アルベルトとナツメがアルバイトする書店の店長はナツメの叔父であり、書籍や映像作品をこよなく愛する男。スキンヘッド&丸顔&ヒゲ面のファニーフェイスに似合わず、剣道師範代の腕前を誇るという一面も持つ。彼らを中心に、本編ではあまり語られなかったキャラクターを深堀りしているのも、本作の魅力になっている。
獣や魔人が巣くう異世界で、どこか気楽ながらも絶大な魔力で敵を圧倒していく魔術バトルが展開されていく元作品と異なり、本作は完全な「日常系スピンオフ」。
元作品の主人公・ロイドも本作では「ほぼ可愛いだけの無力な子ども」と化しており、そんな弟を守るために勝手のわからない異世界・現代日本で奮闘する兄・アルベルトのドタバタな毎日が描かれている。
まさに「現代の日本にアルベルトやロイドがいたら……」というワクワクする妄想を、思い切り気軽に楽しめる一作だ。
レビュアー
編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』、『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。