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2024.01.26

レビュー

忍者×陰陽師。運命に導かれし最強バディ!! 京都事件解決アクション!

どんな職業でも、伝統を重んじ、世襲をしきたりとする世界では、若き継承者の葛藤はつきもの。本作は由緒正しい「忍び」の家系に生まれ育った高校生が、ある出会いを通じ、己の宿命と対峙する物語である……といっても、肩肘張った堅苦しい話ではまったくない。現代的な軽快さと楽しさに満ちた痛快エンターテインメントである。

主人公は京都の高校に通う15歳の少年、静鵬一郎(しずかほういちろう)。先祖伝来の「鞍馬鬼一流忍法」を幼い頃から叩き込まれてきたサラブレッドだが、彼自身は忍者という家業を時代遅れと切って捨て、その身の上を周囲にはひた隠しにするほどであった。あるとき、彼の前に「陰陽師の末裔」を名乗る少女、御子神今日花(みこがみきょうか)が現れる。彼女の使命は、何者かが流布した“忍法帖”により人ならざる力を得た者たちの脅威を封じ、元凶を突き止めるというもの。そのためには静家の協力がぜひ必要なのだという。最初は相手にしなかった鵬一郎だが、あれよあれよという間に事件の渦中へと巻き込まれ、ついに彼は「百年に一人の逸材」といわれた秘めたる能力を解き放つ!

少年漫画の主人公としては一見冷めすぎな感もある鵬一郎のキャラクターだが、そのクールで不遜な態度が現代的でもあり、彼が本領を発揮するまでのストロークとギャップが本作の見どころとなる。けっこうノセられやすく、いざというときは忍者としてのプライドと血が騒ぐ性格にも、ヒーローらしさと危なっかしさが背中合わせに共存している。この主人公の温度差の移り変わりが、すなわち作品全体の作劇的魅力=どこか危うさをはらんだ成長ドラマとしての面白さにも直結している。

対して、ヒロインであり相棒ともなる今日花は、陰陽師となる宿命を受け入れ、常に毅然とした態度で敵に立ち向かう。むしろ彼女のほうが正統派主人公っぽい。それでいて「爆誕」なんてイマドキな語彙もナチュラルに放ち、飄々とした言動で鵬一郎を煙に巻く小悪魔的可愛らしさも振りまいてみせる。

未熟さを条件付けられがちな少年漫画特有の主人公像より一歩も二歩も先を行く存在で、このふたりのバランス/アンバランスが面白い。陰陽師としては未熟者と謙遜する今日花に、鵬一郎が「この子って忍者に換算したらかなり上位の術者なのでは!?」と気づいてしまう場面は、ジャンルミックス作品に発生しがちな矛盾を正面から撃ち抜くような、勇気ある場面でもある。

ストーリーも意欲的だが、作画レベルも高い。「勢いに頼らず的確な線を引く」ことへのこだわりを強く感じさせる作風だ。精緻さはアクションシーンでも際立っており、この先どんなビジュアルを見せてくれるか楽しみである。

もともと細かなコマ割りを好む作家だと思うが、見せ場では効果的に大ゴマを配置し、背景のボリューム、コマ(カット)運びのリズムをコントロールする術も心得ている。敢えてちょっと恥ずかしい言い方をすれば、漫画愛を感じる画面構成が快い(こんなことを言うと主人公のように「フン」と一蹴されてしまうだろうが)。

「すでに自分たちを必要としていない時代に生まれた」若き忍者と陰陽師が、互いに補い合いながら共闘する伝奇ミステリーアクションという作品コンセプトは、これ以上にないほど魅力的だ。あとは両者のパワーバランスや関係性のドラマをどれだけ発展させ成熟させていくかで作品の豊かさも決まるだろう。そのためにも長期シリーズ化が望まれる一作である。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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