双子の陰陽師が再会し、旅へ!
『陰陽事変』は、陰陽師の家系に生まれた双子の兄弟が、呪いを撒き散らす黒い狐に戦いを挑むという怪奇アクション作品だ。
主人公の蘆屋北斗は、自分の誕生日にカノジョの千花と「キスできるかも」と期待で胸を膨らませる、ごく普通の高校生。そんな彼の前に、10年間生き別れとなっていた双子の兄・蘆屋南斗が現れる。
陰陽師の家に生まれたふたりだが、両親の死をきっかけに、兄の南斗は家業を継いで陰陽師になり、弟の北斗は養父母に預けられていた。そして再会して早々、北斗は南斗から「行方不明になった師匠の代わりに仕事を手伝ってほしい」と頼まれる。その仕事は難なく片付くのだが、北斗の誕生日の朝、悲劇が起きる。
北斗は警察で「千花は黒い狐面に呪い殺された」と主張するが、取り合ってくれない。そこに現れた南斗はこう告げる。
南斗ら七曜陰陽連が総力を挙げて追う「黒い狐」。その呪いの主に、北斗は既に“匂い”をつけられていた。それは、北斗がどこに逃げようとも、黒い狐につきまとわれることを意味する。
逃げるも凶、向かうも凶……。
兄の南斗は弟を思い、記憶を消して元の高校生に戻れと忠告するが……。
こうして双子の陰陽師は、黒い狐を追う旅に出る。
北斗の陰陽師デビュー、相手は鬼熊!
と、物語だけを追うとダークな怪奇アクションだけど、このマンガは決して重くならない。というのも、北斗も南斗も軽い性格の似た者兄弟。コミカルなキャラクターの力でどんどん読ませてしまう。この感じ、コミックでまとめ読みもいいけれど、毎週追っかけたくなる(隔週金曜更新中!)。つまり、少年漫画の王道を行く作品なのです! そして少年漫画とくれば、次は仲間!
旅に出た北斗と南斗は、女性マタギの狩野美香と知り合う(旧日本軍が採用していた九九式小銃を使用するというマニアックすぎる設定!)。彼女が狙っているのは、人を襲う「鬼熊」。その熊は12年前に陰陽師とマタギたちによって祓われたが、また現れたのだという……。
鬼熊を追って山に入った美香。そこに凶暴化した鹿が襲い掛かる。彼女は難なく一撃で仕留めるのだが、その鹿が再び背後から迫る! と、そのとき
出た! 北斗の術、ドーマン!
ここで確信したことがある。
誰もが知る陰陽師といえば安倍晴明だが、鎌倉時代の『宇治拾遺物語』から浄瑠璃や歌舞伎まで、安倍晴明のライバルとして描かれる人物がいる。彼の名は蘆屋道満。そして蘆屋姓を名乗る北斗が繰り出した術はドーマン。これはドーマンセーマン(セーマンドーマンとも言われる)という魔除けの印を元にしているが、ドーマン(格子柄)は蘆屋道満、セーマン(星形)は安倍晴明に由来するといわれている。陰陽師で蘆屋ときてドーマンとくれば、北斗と南斗のご先祖は蘆屋道満に違いない。
……これ、なにかあるよね。出てくるか? 安倍晴明、もしくはその子孫!
ちなみに蘆屋道満は、正義の安倍晴明に対して悪役として描かれるのが普通。そんな蘆屋道満の血筋と思しき北斗と南斗を主人公にしているところも気になる。
さてさて第1巻はまだ序奏のうち。存在は明かされているが、まだ登場していないキャラも多い。黒い狐を追って消息不明になっている南斗の師匠(スゴ腕らしい)。七曜陰陽連の実態も多くは語られていないし、敵となる黒い狐にいたっては禍々しい呪いをあちこちで撒き散らしているとしか説明されていない。そうしたキャラクターが登場し、背景が明らかになるにつれて、陰陽師としてはほぼ駆け出しの北斗も成長していくに違いない。双子の陰陽師の旅は、まだ始まったばかりだ。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。