誰かに嫌がらせされたり、あるいはパワハラを受けたりしたときに、キッチリ言い返すことができたらどんなにいいでしょう。結局、そのあとの自分の立場や周囲の空気を考えたり、仕返しが怖かったりして、実際行動に移せる人は、たくさんいないかもしれません。
では、自分の代わりに誰かが、やり返してくれるとしたら? しかも、自分が首謀者だとバレないかたちで。
このパターンの拡大版と言えるのが、『葬いの共犯者』です。発端は嫌がらせではなく、人の死。本作は、大切な人の命を奪われた者たちが集まり、命を奪った相手に対して、その命でもって償わせる"復讐殺人"を行う物語。
ただしこれは個人による復讐ではありません。チームとして復讐を実行し、個人はチームの一員として別の誰かの復讐を手伝う、というシステムなのです。
主人公・山吹朝人(やまぶきあさと)は、大切な弟・夕人(ゆうと)を自死というかたちで失ってしまいます。失意の朝人は生前、弟が悩みを書き込んでいたネット掲示板を発見。
学校に相談するも、イジメの犯人は見つからない……どころか、学校側はイジメの存在自体を否定。
そこで朝人は、決意をします。
そんなある日、朝人のもとに一本の電話が。相手は、夕人が書き込んでいたネット掲示板の管理人だと名乗ります。素性は明かさず変声機を使っての通話に警戒する朝人でしたが、管理人がとある提案をするこの見開きは、まるでストーリーが動き出す音が聞こえてくるよう。
謎の掲示板管理人によって集められた「復讐共有会」は、朝人、そして管理人をはじめとする7人のメンバーで構成されています。ただし、管理人は正体を明かしていないため誰が管理人なのかは不明のまま。つまり朝人以外のこの6人の中の誰かが、掲示板管理人というわけです。
それぞれに復讐したい相手がいて、それには確かな理由もあって。
復讐の物語では、共感できるかどうかが重要なポイント。朝人は、何者かによるイジメによって弟を亡くし、かつ学校側の対応も酷いものでした。イジメをした張本人と隠ぺいを図った学校側への復讐、となれば感情移入もしやすいというもの。夕人が受けたイジメは、それこそ窃盗、暴行、殺人未遂など明確な罪名が付きそうなものばかり。
そして、「復讐共有会」最初のターゲットとなる、リリィの復讐相手・唐沢慎吾も、許しがたき罪の持ち主。リリィこと、紺野ゆり子を電車内で痴漢し、それを咎めたリリィの恋人・三枝美々子を、結果的にではありますが事故死させてしまうのです。
許せます? 「ざまぁみろ」の捨て台詞、もしその場で聞いたら、一生耳に残るでしょうね……。結局この唐沢も痴漢の証拠はなく、美々子の死に関してもやはり事故死で処理され、直接法律で裁くことはできませんでした。あげく、ヤツは今もなお、痴漢のターゲットとなる女性を物色する毎日を送っている。
最初のターゲットからしてこれですから、この後出てくるであろう第2、第3と続くターゲットたちも、よほどの悪行で復讐共有会のみならず、私たち読者の復讐心までたぎらせてきそう。
イジメ(という表現が一般化していますが、内容によってはれっきとした犯罪)や痴漢など、何十年とこの国にはびこってきた忌むべき行為そのものもひっくるめて、復讐の対象として描いているのかもしれません。
そして、その復讐が果たされても、亡くなった大切な人は帰ってこないという当たり前の現実。さらに理由はあれど、人を殺してしまった事実に対する罪悪感。避けて通れないこの2点と、朝人たちはどう向き合っていくのかも気になるところ。
「復讐共有会」は、決してプロの殺人集団ではありません。復讐したい相手がいる一般人が7人集まっただけ。逮捕者を出すことなく、いや、疑われることすらなく対象を消すことなんてできるのか。もし実行するなら、いったいどんな手段を選ぶのか。
朝人があえて「痴漢の殺し方」と表現した意図は――!? こちらはぜひ、本作を手に取ってその目で確かめてみてください。
1巻終盤には、復讐共有会の根幹を揺るがす事実も明らかに。同じ痛みをもった7人が果たす、復讐の物語。その結末はハッピーエンドなのか、それとも……?
ちなみに、復讐という重いテーマにどっぷり浸かったあとに登場する巻末のほっこり系4コマ漫画は、現実世界に戻る際のちょうどいいワンクッションになってくれる、めちゃくちゃありがたい存在です。こちらも必読。
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009