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女装!下着着用禁止! 武闘家を育てる男子校でノーパン決闘お色気バトル!!

雄!マスラオ学園(1)
(著:車戸 亮太)
2023.09.24
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その学園の名は、武闘マスラオ学園。「武闘家は常在戦場」「女装は魔除け」をモットーに掲げ、生徒には女装の似合う美少年ばかりが集い、日々ルール無用の戦いが繰り広げられる漢(おとこ)の花園である。そこにやってきた転校生の坂本春親(さかもとはるちか)は、暴力によって興奮する己の性癖をひた隠し、目立たず平穏な学園生活を送ろうとしていた。しかし、転校初日から彼の前には続々と挑戦者が立ちはだかり、否応なく股間のテントは張るばかり……。そんな春親の圧倒的格闘センスを見出だした学園長・天條院黒住(てんじょういんくろずみ)は「マスラオ計画第壱弾」を発動。学級対抗決闘大会の開催を宣言し、全校生徒に下着着用禁止令が発布される!

こう、あらすじを書いていても「一体何を言ってるのか」と自問せざるをえないが、本当にそういう話なのだから仕方がない。読み始めてもしばらくは「自分はいま何を目撃しているのか」という目眩(めまい)にも似た感覚、異郷に迷い込んだような戸惑いを覚える人が大半であろう。難なく作品世界に入り込める一部のエリートへの羨望・嫉妬すら覚えるかもしれない。だが、安心してほしい。単行本1巻を読み終える頃には、読者はいつの間にかその世界の住人になっている。実に恐るべき作品である。

転校生キャラの主人公・坂本春親は「暴力をふるうと興奮して我を忘れてしまい、ある学校を崩壊に導いたことがある」という過去の持ち主。この設定も大概だが、周りを取り巻くキャラクターも相当なクセ者ばかり。多種多様な武器や武術を操り、いずれも自分の性癖に正直なところが特徴である(それが校風?)。すべてのバトルが性的興奮と直結しており、立ち合いの大半において決闘者が股間を押さえて終わることが多い。あと、何かが漏れることも。

あまりのバカバカしさに爆笑しているうちは、まだいい。異常なシチュエーションやタガの外れたキャラクターで巧みに笑わせる冷静さや客観的視点もありつつ、次第に読者を「こちら側」に引き込んでいくのが、この漫画の恐ろしさだ。美少女にしか見えない美少年たちが、学校指定の鋼鉄製パンツの締め付けと戦いながら、禁忌的興奮に全身を紅潮させる姿には、大変イケナイものを見ている過激な魅力がある。

いわば、学園バトルアクション漫画としての頑強なエンターテインメント性と、偏った性癖を否応なく開発されていく少年たちのサバイバル青春群像劇の融合。そこに『炎の転校生』のギャグ要素を濃縮抽出してぶち込んだような、「読む脱法ドラッグ」ともいうべき作品である。かといって、健康に害を及ぼす内容ではまったくない。むしろ清々しさすら覚えるのは、バトル漫画の要である「肉体の激突と勝利の快感」を、臆面もなく性的エクスタシーと結びつけた潔さの賜物(たまもの)だろう。限りなく死に接近する戦いの決着が性的絶頂に酷似することは『シグルイ』でも描かれた真理であり、そういう意味では本作も「人はなぜ戦うことに惹かれるのか」という有史以来のテーマの核心をついていると言えよう(任侠映画もガマン劇と言ったりするし)。

エキセントリックな筆致で描かれるアクションシーンも、本作の中毒性の源である。その演出のタメ・ツメ、決めゼリフの配置などには、荒々しさとともに正統派バトル漫画作家のセンスとテクニックが息づいている。そこに投入されるニッチな性的嗜好まるだしの描写にも、手加減がない。ちゃんとエロティックで、ちゃんと危うい(だからといって「笑えない」ところまではギリギリ踏み込まない、そのコントロールも見事)。女装男子コメディも、学園バトル漫画も、好きでなければ描けないジャンルの筆頭である。その点、本作は「どっちも好きで描いている」という信頼感が非常に高い。



単行本1巻は、まだまだ序の口に過ぎない。このあとも多彩なライバルキャラや共闘するチームメイトたちが続々登場し、名勝負の目白押しである。たとえば、学級対抗格闘大会の劈頭を飾る壱組・小町シュウVS弐組・伊藤宗矩の忍術合戦は、極めて上級者向けのプレイ、もといトリッキーな体液バトルが個人の解放や救済にまで到達するという感動的展開に、思わず唸ってしまった(ほらやっぱり文章では説明できない)。

その筋のエリートの方々はもちろん、まったくこの世界に触れたことのない人にこそ読んでほしい、そして衝撃を受けてもらいたい作品である。もしかしたら新たな扉が開かれてしまうかもしれないが、その先の展開についてはすべて読者自身の責任なので、覚悟するべし。

  • 電子あり
『雄!マスラオ学園(1)』書影
著:車戸 亮太

武闘家養成学校「マスラオ学園」に転校してきた高校1年生の坂本春親。平穏な暮らしをしたい春親だったが……。
話題沸騰! ノーパン決闘お色気ギャグ格闘バトル、開幕━━!! 世界よ、これが日本の男子校だ!!! 

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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