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愛犬と過ごした大切な時間と悲しい別れ。実話を元にした感動のオムニバス 

2023.01.30
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ペットを飼う際にどうしても避けて通れないのが、別れです。基本的にペットとして飼われる生物の多くが、人間よりも寿命が短いため、その最期を看取ることになります。飼う前、あるいは飼い始めの頃にはなかなかリアルには想像しづらい、そんな別れと直面して、深く大きな悲しみに襲われる飼い主。

最初は飼い主とペットという関係性だったものが、いつしか生まれる“家族”としての絆。愛が深まれば深まるほど、逆につらくなるのが、いずれ訪れる「死」という別れなのです。

この『老犬とわたし~妹は64歳になりました~』という作品では、5組の“家族”が育んだ絆と、死別を経て残された側の、その後のエピソードを描いています。

第1話「私の妹は64歳〜シェルティのメイたん〜」は、“私”とメイたん(シェルティ)の物語。学校生活にうまく馴染めなかった“私”に寄り添ってくれたメイたんは、大人になってからもずっと“私”の心の拠り所になるような存在です。

時が経ち、12歳になったメイたん。人間で言えば還暦を過ぎた頃。老いてもまだ“私”のことを気にかけるメイたんの描写から、これまでもずっとメイたんは“私”に寄り添って生きていたことが伝わります。

信頼関係で結ばれたふたりですが、ある日、メイたんに脳の病気が発覚。老齢のため治療自体にリスクがあり、治療は断念してメイたんの看病をしながら、その最期を看取ることになるのです。





飼い主と愛犬とのかけがえのない時間にほっこりさせられればさせられるほど、そのあとに訪れる死別に、感情を揺さぶられてしまうことでしょう。さらに言えば、愛犬の命が削られていく、あるいはその灯が消えてしまう瞬間をしっかりと描いており、その描写はショッキング。



しかし、生き物の死を決して曖昧にせず描くことで、これはファンタジーではなく、この世界の誰かが味わった体験なんだと感じさせてくれるのです。

自分にも愛犬と過ごした大切な思い出があります。ララと名付けられた女の子のシェットランドシープドッグで、“私”と同じように、学生生活での人間関係がうまくいかなった時期、自宅の庭で“彼女”と無邪気に戯(たわむ)れる時間が、自分を救ってくれました。

また、両親が飼い始めたタロという犬は、生まれて間もない頃わが家にやってきました。ちょうど自分が実家から出るタイミングとも重なり、一緒に暮らしたのは1年くらいだったと思いますが、実家に帰るたびに一緒に遊んだものです。

15年以上生きた“彼”の最期は母が看取ったのですが、その瞬間、前足をゆっくり動かしながら、眠るように旅立ったそうです。晩年は足腰も弱くなり大好きな散歩もできない状態でしたが、亡くなった日の夜、母から「きっと天国で自由に駆け回っているんだね」とメッセージがきたことを覚えています。

『老犬とわたし』には、メイたんの物語「私の妹は64歳〜シェルティのメイたん〜」以外に4つの作品が掲載されています。

犬はもちろん、猫や鳥などペットを飼ったことがある人なら、この5つの作品に、自分と家族の物語を重ねてしまうのではないでしょうか。出会い方も別れ方も、飼い主とペットの数だけありますが、共に生きた時間が与えてくれた喜び、そして別れの際に生まれる悲しみにはきっと共感する部分があるはず。





愛する存在を失って、悲しみに沈んでいたとしても。愛犬と過ごした大切な時間は、決して色褪(あ)せることも、失われることもありません。もう隣にいない喪失感を、心の中の思い出で埋めながら、ゆっくりでもいいから前を向いて、これからの人生を進んでいく。

一般的には“ペット”ですが、飼い主にとっては“家族”。そんな存在と共に過ごしている人、過ごしたことがある人。そして今、“家族”を失ってしまった人に、ぜひ読んでほしい1冊です。

  • 電子あり
『老犬とわたし~妹は64歳になりました~』書影
著:青色 イリコ

「寂しいけど、悲しいんじゃない」
犬が残してくれた温かい思い出に涙する読者、続出。

5組の老犬と飼い主の、最期のひとときを描いたオムニバスエッセイ。

-第1話-
飼い主の元気がない時、いつもお腹を出して元気付けてくれていた、シェットランド・シープドッグのメイ。
「年老いて治療を断念せざるを得なくて、動くのもやっとな状態でも、必死にお腹を出して元気付けようとしてくれたね」

-第2話-
長期にわたって介護が必要になったトイ・プードルのケリー。
「どれだけ大変な介護でも、ケリーがくしゃみをするとまだ元気だって思えて、頑張れたよ」

-第3話-
おてんば犬で言うことを聞かない、ラブラドール・レトリバーとスタンダード・プードルのミックスのココ。
「いつも完璧であろうとしていた私にとって、あんたとの泥まみれの日々はかけがえのない宝物だよ」

など、著者である青色イリコの実体験をはじめ、取材に基づいた5つの実話を収録。
読むと虹の橋を渡ったあの子に会いたくなる、今飼っている子に感謝を伝えたくなる、そんな優しい愛の物語。

レビュアー

ほしのん イメージ
ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009

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