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笑って泣ける最強の離婚劇。傑作短編『魔王の帰還』がマンガになった! 

魔王の帰還
(原作:一穂 ミチ 漫画:嵐山 のり)
2021.11.12
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小説が原作のマンガを読む楽しみは、登場人物や場所がどんな絵になっているのか、原作通りかアレンジされているのかを比べられることですが、この『魔王の帰還』が凄いのは、原作者が書き下ろした小説の続きが見られるところ!!
小説を先に読んだ人でも、ここでしか見られない新たな結末にきっと感動することでしょう。

直木賞候補となった一穂(いちほ)ミチさんの小説『スモールワールズ』。
6つの短編の中の1つ『魔王の帰還』は、嫁ぎ先から突然出戻ってきた姉と、暴力事件を起こしたけれど本当は優しくて奥手の弟の話です。

森山鉄二は、野球の強豪校で寮生活をしながら甲子園を目指していましたが、どうしても耐えられないことがあり、仲間のために暴力事件を起こしてしまいます。
転校した高校では、金髪にピアスというヤンキー風の見た目もあり、教師すら遠巻きにするほど浮いていました。
そこへ、弁当を届けに来たのが姉の“魔王”。
「リアル巨人」とクラスメイトがざわつくほど、魔王の風貌は規格外でした。

身長188センチでトラックの運転手。どでかいペットボトル入りの焼酎を飲み、家族で1人だけ岡山弁を話す魔王。
小説を読む前は、怖い姉だから「魔王」なのかと思っていたのですが、実は名前も「真央(まお)」。

鉄二の「なんで離婚すんの」という問いに、「あのウジウジした小さい男と暮らすのは飽いたんよ」と答える魔王。
一体、どんな旦那さんなのかと言うと……、

旦那さんの名前は、轟勇(とどろきいさむ)。だから「魔王と勇者」。
この2人の様子を小説では、「んー……ひと言で言うと、作画が違うって感じ」という鉄二のセリフで表現されていたのですが、その“作画”が見られるのもマンガならではの醍醐味です!!
           
見た目の違いはあれど、微笑ましい2人の姿を知っているだけに、魔王の愛想を尽かしたような口ぶりに違和感を覚える鉄二。

実はこのお話は、魔王の離婚問題に絡めて「金魚すくい選手権大会」も描かれています。

魔王と近所を散策していた鉄二は、同級生の住谷菜々子(すみたにななこ)が店番をしている駄菓子屋の前を通りかかります。
その時、菜々子に万引きを咎められた男の子が「やりまーん」と叫ぶのを聞いた魔王は……、

ここは1番好きなシーンです。魔王の人間性がよく表れていて、菜々子の切り返しもお見事!! 噂が原因で学校でも孤立していた鉄二と菜々子が初めて会話し、少しずつ近づく瞬間でもあります。

そんな2人に、「金魚すくい選手権」のポスターを目にした魔王が、「出るぞ! 鉄二。目指すは優勝じゃ」と叫び、大会出場が強制的に決定します。
それは、心で負けてばかりいた3人にとって、「何かひとつでもいいから勝ちたい」という心の表れでもあったのです。

優勝を目指し、菜々子の店で金魚すくいの特訓を受ける魔王と鉄二。
そんな時、魔王が実家に戻って来た本当の理由を知る鉄二と菜々子。
なかなか離婚に踏み切れない魔王の揺れ動く心と、金魚すくい選手権がクライマックスを盛り上げ、最後は魔王らしい決断に心が満たされます。

小説はここで終わるのですが、魔王にとっても旦那さんにとっても、ここからが茨(いばら)の道だよな、という思いが過(よぎ)ったのも事実です。
だからこそ、後日談として書き下ろされた「最終話」が、もの凄くいいのです!!
この話はまだまだ続くという希望が感じられ、読み返す度に涙が出てきます。

このお話は、マンガから読むも良し! 小説から読むも良し! ではありますが、できれば両方読むことをオススメします。なぜなら、どちらも十分に満足できる作品だからです。

  • 電子あり
『魔王の帰還』書影
原作:一穂 ミチ 漫画:嵐山 のり

直木賞候補の連作小説集『スモールワールズ』所収の傑作短編「魔王の帰還」を、最速コミカライズ!
一穂ミチが漫画版のためだけに原作を書き下ろした後日談も特別収録して単行本化!

ある事件をきっかけに強豪校の野球部をやめ、けだるい日々を送る高校生・鉄二の家に突然、嫁いだ姉ちゃんが帰ってきた。
身長188cm、体重怖くて訊けない、名前が真央で、あだ名は魔王。
色々スケールでかすぎの姉ちゃんと、図体は大きいけど小心者の弟が、金魚すくいで共闘する!?
傷を抱えた姉弟がリベンジに挑む、破天荒で切なくて、何より熱い夏休み!

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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