バレてることがバレてはいけない!
「バレてない」と思っている秘密は、まあまあな確率でバレてたりする。そして、秘密を知ってしまった側が、バレてることがバレないようにとめっちゃ気を遣うこともある。そんな苦労をしてくれるのは、たいてい優しい心の持ち主だと思う。『バレてる!カクテルナイト』の主人公“大地陸”も優しい男子高校生。終始「マジいいやつだな~」とホカホカしながら読んだ。いいやつが大集合したポップなマンガだ。
街のみんなに愛される“正体不明のヒロイン”が何者であるかを、陸だけが知っている。
みんなのピンチに駆けつける“カクテルナイト・バレンシア”。バレ様の正体は謎に包まれている。が、陸にだけバレてる。
陸だけはめちゃくちゃよく知っている。だって、いつも隣にいる“友達”だから。
でも、なんで他のクラスメイトにはバレンシアの正体がバレないのだろう。
バレンシアは戦乙女。つまり女の子。そして学校にいるのは……、
男の子! え、性別どっちなの!? 本作には「バレンシアの正体」以外にもバレてはいけない秘密がたくさんある。あー、知らんフリするのってラクじゃない!
初恋の人、だけど親友、そして戦乙女
ストレスに取り憑かれた人間が“ストレスマン”となり街を襲う時、秘密の魔法少女・カクテルナイトたちが現れる。
大暴れするストレスマンをボコボコに倒すんじゃなく、祓って元の姿に戻すのが彼女たちの戦闘スタイル。ポップでかわいくて優しいヒロインたちだ。
そんなだから街のみんなは当然カクテルナイトが大好き。
電車の吊り広告に登場するくらい社会でおなじみの存在。愛し愛されな良い関係。しかも4人もいるので推しも見つけやすい。で、主人公の陸は、自室にバレンシアの巨大ポスターを貼るくらいのバレ様推し。しかもバレ様にちょいちょい助けてもらって、言葉を交わして、なんなら初恋の相手でもある。この初恋は続行中だ。
だからこそ陸は「目の前にいる俺の友達、バレンシアだ!」と悟ってしまうのだ。
そう、バレンシアの正体は“天上空”。陸と同じ学校通う高校生で、スポーツ万能なイケメンとして知られているけれど、とある事情により、男のふりをして学生生活を送っている。
ぷりぷりしたお尻(本作はお尻がほんとかわいい。お尻好きあつまれ!)が表す通り、めっちゃ女。つまり「カクテルナイトであること」と「女であること」の2つが陸にバレ済み。無防備な空に陸は毎日ひやひやしっぱなし。
当の本人は「バレるわけない」と思ってるし。
陸はバレンシアに恋をしつつ、同時に、空のことを親友として心から大切にしている。
だから読んでてしみじみ幸せになる。
たとえば、陸と空が恋バナをすれば、陸は正直に「俺の好きな人は、カクテルナイト・バレンシアだ」と空に告げる。だって、バレてるとバレちゃいけないし、自分の気持ちに嘘をつくこともできないから。とことんいいやつ!
陸の告白を聞いた空の反応はこちら。
バレてるバレてる! 自他ともに認める王子様キャラで生きてきた空は、陸が語る「バレンシアのかわいらしさ」を聞けば聞くほど、とまどいます。つまり、本作で秘密を抱えて挙動不審になっているのは陸だけじゃなく空も同じ。
「テストで100点とれなかったらバレンシアへの恋心をあきらめろ」と謎の揺さぶりをかけてみたり。
本当に陸のバレンシアへの恋心をあきらめさせたい? (やっぱりお尻がかわいい)
と思ったら、テスト勉強を応援してみたり。
なんてド直球な応援なのだろう。こんなにストレートな表現なのに、なんかめちゃくちゃ屈折してる! 名シーン。
恋と友情と「バレてる/バレてない」のせめぎ合いはめちゃくちゃ忙しく、ややこしい。いっそ全部バレてくれ! と思うけれど、空はみんなの憧れのヒロイン“カクテルナイト・バレンシア”だもんなあ。
バレンシアの名前を叫ぶ陸の声に応えて変身する戦乙女、かっこいい。カクテルナイトとして末長く活躍してほしい。うん、バレちゃだめだな、やっぱり。
なお、本作には陸にすらバレてない秘密がいっぱい隠されている気がする。おそらく読者にはもっとバレてるだろう。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。