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「年間1000万円支給しますから、好きなゲームを作りませんか?」という募集のキャッチコピーが話題を呼んだ「ゲームクリエイターズラボ」、米国のクリエイター向けクラウドファンディング「Kickstarter」との提携プロジェクト、そしてマンガ家と編集者をつなぐマッチングサイト「DAYS NEO」。この3本柱を軸に、2021年6月、「講談社クリエイターズラボ」が発足した。その目的と今後の展望を中心メンバー3人が語る。
鈴木綾一 / Ryoichi Suzuki
週刊少年マガジン編集部に在籍後、ヤングマガジン編集部で編集次長、投稿サイト事業チーム長を兼任。2018年に「DAYS NEO」を開設。2020年9月にスタートした「ゲームクリエイターズラボ」を主導し、2021年6月より講談社クリエイターズラボの部長を務める。
神保純子 / Junko Jimbo
これまで文芸図書第三出版部長、メフィスト編集長、with編集長を務める。ライツ事業部兼経営企画部在籍中、2019年にパートナーシップを結んだ米国「Kickstarter」との連携企画に携わり、2021年6月より講談社クリエイターズラボにて関連プロジェクトを担う。
片山裕貴 / Yuki Katayama
FRIDAY編集部を経て月刊少年マガジン編集部に在籍。2020年9月に発足した「ゲームクリエイターズラボ」に選考段階から携わり、2021年6月より講談社クリエイターズラボにて関連プロジェクトを担う。
インディゲームの世界に講談社としてどう向き合うか
鈴木 今は、誰もがクリエイターになれる時代になってきています。講談社が持っている編集力や営業力をどう活かしていけるかを考えた時、すでにいろいろな販路が確立されていた「インディゲーム」という分野を選んだのが、2020年9月にスタートさせた「ゲームクリエイターズラボ」です。当時、僕はヤングマガジン編集部に在籍しながらマンガ家と編集者のマッチングサイト「DAYS NEO」も運営していました。さらにゲームのプロジェクトを手掛けるには人を集めなければならなかった。各部署から情報収集したところ、「月刊少年マガジンの片山君は給料をすべてゲームに使っているらしい」という情報を手に入れまして(笑)。「こんなプロジェクトがあるんだけど」と話をしたら賛同してくれたんですよね。
片山 ええ。ゲームにかなり費やしていました(笑)。ちょうど第1期に集まった1263件の審査から関わらせていただきました。今は第1期の受賞者のサポートをしながら、今年9月1日から始めた第2期の募集についてはチーフとして携わっています。
鈴木 半年ごとに500万円を最大4回、合計2000万円支給して、ゲームの著作権も応募したクリエイターに帰属するという募集内容です。当初、第1期の応募件数の目標は100件だったから、その10倍以上にもなる大きな反響をいただきました。古くは「東方Project」、最近では「マインクラフト」や「アマング・アス」などもインディゲームから始まったヒット作です。
片山 インディゲームの盛り上がりは入社した2018年頃から感じていました。そんな開発の場に、マンガや小説を1対1の打ち合わせで編集していくようなプロセスを加えたら、きっとものすごくユニークなものが生まれるんじゃないかと思っているんです。
鈴木 「なぜ講談社がゲームを作るの?」という質問をよくされます。僕は15年間マンガ編集をしていましたがマンガを描いたことはない。文芸の編集者も同じです。編集者の仕事って「作る」んじゃなくて「作ってもらう」ことに尽きると思うんですよ。我々と接しながら最高のモチベーションで作品を作ってもらう。それをゲームでもチャレンジしているんです。
片山 今、第1期の7組、プラス別枠で3組、計10組の方々とゲームの開発を進めています。それぞれに〝編集者〞が2人ずつ付いています。マンガで「複数担当制」を敷いている講談社らしいところでもありますね。第1期の作品は、ある程度のところまで開発が進んでいたものを応募した方が多かったので、来年の4月頃には発売できそうなタイトルが数本あります。どれも日々内容が良くなっているので、発売後の反応が今からとても楽しみなんです。
日本のクリエイターの世界デビューを応援する意味
鈴木 まずはゲームについて触れましたが、出版の枠を超え、今まで手がけたことのないジャンルに視野を広げ、世界のクリエイターと出会いサポートしていくことができないかという話を以前から重ねていたんです。そこから「ゲームクリエイターズラボ」が生まれ、2018年から運営している「DAYS NEO」と、昨年スタートした「KickstarterNavi」、この3つを1つにした「講談社クリエイターズラボ」を発足させました。
神保 クリエイターをサポートする米国の巨大クラウドファンディング・プラットフォーム「Kickstarter」と講談社は、2019年4月にパートナーシップを結びました。Kickstarterでは年間約4万件ものプロジェクトが立ち上がり、常時3000ものプロジェクトが動いています。そんななかで、日本のクリエイターをどうサポートしていくか。才能を見出し、どんなメッセージ、どんなストーリーなら人の気持ちに訴えることができるのかを模索していく過程は、まさに講談社が長年培ってきた雑誌や本を作る経験そのものです。
鈴木 〝バッカー〞と呼ばれるプロジェクトの支援者側も、件数が多くて誰を支援をしたらいいか探しきれないところがありますよね。
神保 逆に海外の「これは素敵なプロジェクトだな」というものや才能あるクリエイターを日本に紹介もしたい。クリエイターとバッカーの双方をナビゲートするために昨年10月にWebサイト「KickstarterNavi」をスタートさせました。そういう目利きの部分も、これまで私たちがやってきたこと、たとえば女性誌でどんな服や化粧品をどう紹介するのかといったことに通じているところがありますね。
鈴木 世界ではまだ有名ではない講談社と、日本でそれほど有名ではない「Kickstarter」、お互いに補完し合うことで知ってもらえるブランディングの交換みたいなところもあります。講談社が今年発表した「グローバル戦略」とも非常にマッチしていて、単に金銭的な利益とは違う社益になるものだと僕は考えています。
神保 10月には、「いきなり、世界デビューしちゃいませんか?」というジャンル不問のクリエイター・コンテストも開始。日本の才能を発見して、世界へのデビューを全面的にサポートしていきます!
2018年にスタートした「DAYS NEO」の現在
鈴木 マンガ家が投稿し、担当編集者を選べるマッチングサイト「DAYS NEO」は、立ち上げてから3年以上経ちました。すでに800組以上のマンガ家と編集者がマッチングして、実際に連載に至ったものも90作品ほどになっています。最初は社内の編集部だけだったところから、今では、一迅社、ブックライブ、白泉社、フランスの出版社ACメディアにも参加していただいています。今はコロナ禍で持ち込みもしづらくなっているので、こういう場を作っておいて良かったなと。
片山 僕も月刊少年マガジン編集部で参加していましたが、業界内での閲覧率も高いんですよね。編集者は投稿されたマンガにコメントを付けたり、担当希望を出したりします。それを、マンガ家さんたちもよく見ている。「〇〇編集部の△△という編集者さんいいよね」という声を聞いていました。
鈴木 マンガ家さんも自分の人生を賭けるわけですから、編集者に対する理想像をそれぞれ持っていますし、内容も違います。ヒットメーカーの編集者がいいという人も、逆に自分はまだ大事にされないかもしれないからそんなにヒットを出していない編集者がいいという人もいます。
片山 デビュー前にどんな人かわからない担当者を付けられるよりも、安心して担当を選ぶことができるシステムは、クリエイターを目指す人にとって、良くできているなと思いながら接していました。
鈴木 講談社クリエイターズラボでは、「あなたはどうなりたいんですか?」「そのために何をしているんですか?」と、クリエイターの人たちの夢をヒアリングしています。「すごく共感できるし、応援もしたい」ということになれば、何をしてほしいかを常に聞きながら伴走していく。「講談社ってクリエイターを大事にする会社だよね」と感じてもらえたら、社にとっても大きなメリットになるんじゃないでしょうか。「講談社の商品を買うことがクリエイターを応援することにつながる」と思ってもらえるような、そんなクリエイターズ・カンパニーとしての講談社のブランドを築いていくのが、今の壮大な指針です。
「ゲームクリエイターズラボ」で実際に起こっている化学変化
鈴木 これは本当に偶然なのですが、「ゲームクリエイターズラボ」を始める前に、YouTubeでゲーム制作の実況放送をしているのを観ていたんです。「スマホの修理をしながらゲームを作ってまーす!」みたいな感じで、ゲーム制作を始めて3年という人のチャンネルでした。「コンテストにはこういう人に応募してもらってサポートしたいな」と思っていたのですが、こちらから連絡もとってないのに、その人が本当に応募してきてくれたんです。最終的に第1期のメンバーにも選ばれたのはうれしかったですね。もちろん内容も期待させるものでした。
片山 Hytackaさんですね。
鈴木 僕が最初に観た頃、たぶんHytackaさんのYouTubeチャンネルの登録者数は7000~8000人くらいだったと思うんですけど、今や11万人を超えていますからね。
片山 ゲーム制作実況では、もう日本のトップという感じですよね。
鈴木 応募したところから、「1次審査通りました!」とか選考の様子もどんどん上げてくれて、最終的には「講談社から1000万もらって神ゲー作ることになりました」という報告動画もアップしていただいた。今でも制作中の様子が上げられていてかなりの視聴数になっています。相乗効果じゃないけど、「ゲームクリエイターズラボ」の存在を広めてくれるチャンネルにもなってくれていてありがたいですね。
片山 「ゲームクリエイターズラボ」を立ち上げた頃、「年間1000万円支給しますから、好きなゲームを作りませんか?」というキャッチフレーズの1000万円という金額は、週刊少年マガジンで1年間連載したときの原稿料とほぼ同額だという話をしていましたよね。毎週20ページで52週連載すれば、それだけで1000万円前後かかるので、それと同じくらいの投資をしようということで。
鈴木 そうですね。ただ、今回はゲームの開発費としてお支払いしているわけではありません。Hytackaさんのようにスマホを修理しながらとか、生活のためにアルバイトをしたり、どこかの会社で働きながらゲームを作っている人たちが、いったん会社を辞めてでもゲーム制作に集中できるよねというのが、そもそもの1000万円の根拠です。
片山 使い道は完全に自由なので、実際に会社をやめられた方もいらっしゃいます。
鈴木 今までのインディーゲームクリエイターさんたちは、作っている人同士の交流はたまにあっても、発行や配信に関わってもらうパブリッシャーから直接意見をフィードバックしてもらうような機会はあまりなかったようです。もちろんパブリッシャー側もかなり技術がいることなのですが、僕らはそれとは別に、ある程度意見を求められたら言うし、何か取材がしたいということなら探してくるし、「こういうツテありますか?」というのを見つけてくるというサポートもしています。
片山 「ゲームを作る以外は全部やる」みたいなところがありますよね。テクニカルなサポートの部分も、「ここのプログラムがわからなくて」みたいなときには、こういう会社がありますよとお引き合わせさせていただくこともあります。
鈴木 そういう中で、ときには「ちょっと方向性を変えたらどうですかね?」と提案することもあります。すると「そういう意見を待っていたんですよ!」という感じの反応が多いですよね。それでまたすごく面白くなったりしています。
片山 そうですね。ゲームとして、ここを押せばいいみたいなのがすごくわかりやすくなったりするのは、ある種、編集経験の賜物みたいなところがあると思います。
鈴木 アクションにはこだわっているけど、ストーリーの構成としてはちょっと甘いなと思ったりするのも、編集者ならではの視点かもしれません。そういうところを指摘するのがもめる原因になる可能性もあります。でも僕たちは「こちらのほうがあなたの人生の目標にとって良くなるんじゃないですか」と思っているだけなので伝えますね。「じゃあ、それに乗っかったら責任取ってくれるのか?」と問いに応えるのが編集者の役割というか、もうカルマというか(笑)。
でも、そういう意味では半年ごとに500万円、最大2000万円まで差し上げますというのは、期間が延びることが双方にとってそんなにデメリットにならない仕組みになっていて良かったなと思います。最初に1000万円だけ渡して終わりだと、期間が延びれば延びるほど開発者は困窮していきますからね。
日本から世界へ可能性が広がるKickstarterNavi
神保 講談社がマンガや小説だけでなくゲームにも意外と接点や親和性があるように、米国の「Kickstarter」も“クリエイター支援を軸に展開する”という大きなところでは講談社と一致しています。それぞれ、クラウドファンディングだったり、出版社だったり、支援する方法は違うのですが、そういう意味で同じことをやってきた2社だからこそ、パートナーシップが成り立っているのだと思います。
鈴木 マンガ家さんでも小説家さんでも、デビューした出版社って、やっぱり大事に思ってくれるし、「今は他で書いているけれど、ゆくゆくは講談社で書きたいと思っている」と言ってくださる方も多くいらっしゃいます。それと同じで、たとえば「KickstarterNavi」から世界的に有名になった人に、いつか僕らが取材させてもらいたいとなった時、「講談社の雑誌ならいいですよ」となるかもしれない。それもひとつの大きな社益なんですよね。
神保 そうですね。みなさんが思っている以上に、Kickstarterを通じた発信は世界に広がる可能性を秘めています。これからも「KickstarterNavi」では日本発のプロジェクトをもっと増やして、日本のクリエイターがより活躍できる舞台を広げていきたいなと思います! 既存の枠にとらわれない発想を持ったクリエイターの人たちに、是非うまく活用していただきたいですし、私たちも全力でサポートしていきます。
片山 マンガだって負けていません。「DAYS NEO」はプロのマンガ家を目指す人たちにとって、自分の作品を投稿できる場を提供しているほかに、いろんなコンテストも行っています。著名な原作者によるプロデュースのもと、当選者はその原作でデビューが約束されたり、青い鳥文庫で発売が決まっている作品のイラストレーターを募集したり、いろんな形で活躍するきっかけがあります。これからもいろんなチャンスを用意していくので、是非チャレンジしていただきたいですね。
鈴木 いろんなジャンルで、講談社はクリエイターさんたちのデビューの場を設けていきます。まずは、10月のKickstarterの募集にたくさん応募していただけるとありがたいですね。来年にリリースを予定している新作ゲームは、出版物の新レーベル発表のように大々的に打ち出します! お楽しみに!
ゲームクリエイターズラボ
「年間1000万円支給しますから、好きなゲームを作りませんか?」のキャッチフレーズで2020年9月に開始したインディーゲームクリエイター支援プロジェクト。これまで漫画家や小説家と構築した関係性をインディーゲームクリエイターにも提供できるのではないかという想いから生まれた。現在は第2期メンバーを募集中(2021年10月31日締切)。
メンバーに選ばれた方には、半年ごとに500万円(税抜)、最大4回計2000万円を支給。成果物の権利は開発者に帰属させる。メンバーそれぞれに「担当編集者」がつき、サポートとケアを行っている。
KickstarterNavi
米国Kickstarter社と講談社のパートナーシップにもとづいて、講談社が運営する公式ナビゲーションサイト。プロジェクトを立ち上げたいクリエイターに役立つ記事と、プロジェクトを応援したいバッカー(支援者)向け情報の2つがメインコンテンツとなっている。
2021年10月には「いきなり、世界デビューしちゃいませんか?」というジャンル不問のクリエイター向けコンテストを実施。
DAYS NEO
25誌290人の編集者と出逢えるマンガ投稿サイト。マンガ投稿者に対し、編集者が作品への感想や面白かったところ、さらに担当を希望する旨などを書き込み、そのメッセージは第三者も閲覧可能。担当希望があった投稿者は自らの意思で担当編集者を選ぶことができる。無事に”マッチング”が成立すると、連載に向けてのやりとりが始まる。これまで連載にいたった作品は90作品以上。コロナ禍のなか、新たな作品持ち込みの場として多くの作品が投稿され続けている。
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