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下克上を夢みる孤児と野盗団の統領。本格歴史小説から生まれた戦国英雄譚

カンギバンカ(1)
(原作:今村 翔吾 漫画:恵 広史)
2021.03.25
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とにかく読み応えのある漫画です!! それもそのはず、今をときめく小説家・今村翔吾さんの直木賞候補作で第11回山田風太郎賞受賞の『じんかん』が原作で、『BLOODY MONDAY』などのヒット作を持つ人気漫画家・恵広史(めぐみこうじ)さんが、がっちりとタッグを組んでいるのですから。

主人公は戦国時代の武将、松永弾正久秀(まつながだんじょうひさひで)。
大河ドラマ『麒麟がくる』では吉田鋼太郎さんが演じていたので親近感がありましたが、実はこの松永、主君である三好長慶(みよしながよし)を殺しただけでなく、将軍・足利義輝も殺害し、東大寺大仏殿をも焼き討ちにした大悪人とされる人物。さらに、あの織田信長に対し、2度も謀反を企てたことでも有名です。

その松永弾正久秀が、まだ九兵衛(くへえ)と名乗っていた14歳の時に遡って話は進みます。
孤児となった九兵衛は、弟の甚助(じんすけ)と共に奴隷として売られそうになり、その道中で野盗団に出くわします。
その野盗団の頭が、後に九兵衛に大きな影響を与えることになる多聞丸(たもんまる)。その出会いは鮮烈です。

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多聞丸に助けられた九兵衛と甚助は、彼らの隠れ家で傷の手当と食事をご馳走になるのですが、人を信用できない九兵衛は翌朝、甚助を連れて抜け出します。

しかし、すぐさま昨日の残党に襲われた九兵衛たちは、再び多聞丸たちに助けられます。
「怪我人が餓鬼(がき)二人でふらふらしてよぉ、死にてぇのか?」
そう多聞丸に言われた九兵衛は……、

多聞丸から「奪い奪われることのない場所をつくる」「俺たちはくにをつくる」と夢を聞かされる九兵衛。

「ただ今日…明日を生き延びる」ことに精一杯で、そんな考えすら持ったことがなかった九兵衛は、彼らの仲間になる覚悟を決めます。

このとき多聞丸は、いつか大名になった時に名乗る姓をみんなで考えたことを明かします。その名前こそ「松永」。

このシーンは、友情などという生っちょろいものではなく、お互いを認め合っているからこそ生まれる命を賭けた同志としての絆を感じ、うぉぉぉ!!となりました。だからこそ、この後に待ち受けている結末が美しくも悲しい。

1年後、いよいよ足軽として戦に行くことを決めた多聞丸は、最後の大仕事として追い剥ぎを決行します。
ところが逆に“野盗狩り”に遭い、仲間が殺されてしまうのです。
「1人でも多く生き延びるには…!!」と考えた九兵衛は……、

“戦国の梟雄(きょうゆう)”というイメージとは全く違って、“みんなの夢”を託された九兵衛が、松永弾正久秀へと変貌を遂げていく過程にとても興味を持ちました。

ちなみに『カンギバンカ』は造語で、漢字にすると「奸義万華」または「奸義挽歌」。“奸”と“義”"は、悪と善。これが万華鏡のように入れ替わる世の中の価値観を表しています。

コミックスは小説には描かれなかった新たな物語ですが、その違いを比べながら読むのも、これまた楽しいです。
生き続けることすら難しかったこの時代、九兵衛はどう駆け上がって行くのか、早く続きが読みたい!!と思いました。

  • 電子あり
『カンギバンカ(1)』書影
原作:今村 翔吾 漫画:恵 広史

「奪い、奪われることのない“くに”を作る」。それは野盗の少年が思い描くには、あまりに壮大で矛盾した夢だった。
時は戦国初期。繰り返される戦に民は傷つき、飢え、苦しんでいた。両親を失った14歳の九兵衛は、奴隷として売られるところを野盗団の頭領・多聞丸に救われる。乱世で成り上がり、大名を目指すという野望を語る多聞丸に、九兵衛は魂の鼓動を感じた──。下剋上に向けて2人が進む道は、はたして“奸”か“義”か……? 歴史小説『じんかん』から生まれた、新たなる英雄の物語。美麗×熱血の戦国英雄譚、開幕!【電子版特典】恵広史デジタル画廊

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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