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「この石田三成、乱世駆け上がってみせましょう」小うるさい三成の出世物語
そういえば、“関ヶ原で敗れた人”だった
「その人の結末」をすっかり忘れて読める歴史ものが好きだ。命の短さや結末だけが人間の物語ではないし、ましてや値打ちが下がることなんてないと実感できるからだ。そして、読みながら「あーあれね!」と、うろ覚えだった歴史上のマイルストーンに出合うと嬉しくなる。つまり「どうなったか」じゃなくて「どう生きて、なにが起きたか」に集中できるのが好きなのだ。さらにちょっとだけ自分たちに通じるものを見つけるともっと楽しい。
『ミツナリズム』はそういうマンガだ。ポップなのにコッテリと“石田三成”の働きっぷりを味わえる戦国コメディ。そう、「関ヶ原」なんてうんと未来の話。彼には、彼にしかできない仕事が山ほどある。
「やればできるものだな 滅茶苦茶忙しかったけど」。この軽快な本音が好きだ。わかるよ、異様にタイムラインが短い仕事をやり遂げたときってこうなるよね。
好き嫌いがバッサリ分かれる男・石田三成
『ミツナリズム』は天正10年から始まる。織田信長が死に、柴田勝家と羽柴秀吉が激突寸前だった頃だ。戦国時代ど真ん中。
羽柴秀吉に仕える“石田佐吉(のちの三成)”は、なんというか、とっても細かい男だ。そして誰の前でも真っ直ぐ。
カリスマ性抜群のボス・羽柴秀吉から「派手な勝ち方が必要」と戦略について打診されるも……、
管轄外のジョブであることと、もっと向いてる人材がいますよとバッサリ。太鼓持ちキャラではないし、のべつまくなしに「自分が自分が!」というタイプではないのだ。じゃあ、この男はどこで輝くのか?
1社に1人はほしい男・石田三成
石田三成は合戦における裏方担当だ。
馬は? 兵の食糧は? 武器は? ルートは? そろばんと筆を手に見積もりを立てまくる。辣腕の段取り王。そしてとっても細かい。
組織にこういう人はいた方がいいんだけども、同僚からは「めんどくせえ」と思われるタイプだ。(本作は語気や内容に合わせて吹き出しの字体がこまめに変えられている。楽しい。三成ばりに細かい!)
そんな彼を「気に食わねえ」と思う人間だって当然いる。
前線で戦って手柄を立てるオラオラ系の“福島市松”とは度々激突する。水と油、お互いボロカスに言い合って面白い。が、福島は天敵ではなく同じ組織(羽柴軍)に所属する仲間だ。
若干失礼ながらも戦略会議で「なるほど」と思ったら市松に賛成することも。……なんだろう、戦国時代の武将たちの物語なのに、令和のお仕事最前線が目に浮かぶ。
そう、本作を読んで笑いながら、私たちは自分の仕事を思い出してしまうのだ。
かっこいい。これはカリスマ経営者に仕える非常に優秀な部下の小気味いい物語だ。石田三成、現代でも抜かりなく出世しただろうし、サバサバしすぎて軋轢を生んだだろうなあ。
緊急ミッション「美濃大返し」
1巻では「やればできるものだな 滅茶苦茶忙しかったけど」と石田三成に言わせた緊急ミッション「美濃大返し」が描かれる。
経営者が示したビジョンはかっこいい。ターゲットも、成功で見込めるインパクトも明確だ。唯一、スケジュールがヤバい。本当に実現できるのか? 段取り王・石田三成の猛烈なマネージャーっぷりを見てほしい。前線で戦うだけが戦争じゃないことがよくわかる。
ここまで「仕事」を軸にご紹介してきたが、本作はやっぱり戦国コメディだ。最後はこんなほろ苦い場面を引用したい。
柴田軍の武将“佐久間盛政”。賤ヶ岳の戦いに敗れた佐久間は、切腹を選ばず処刑された。この佐久間の態度が若い石田三成には理解できない。そしてストレートに質問をし、佐久間の強い答えに「なるほど」とつぶやく。ここでやっと私は関ヶ原を思い出した。「ああ」と胸が熱くなる。やっぱり、どうなったかではなくて、そこに至る物語がめちゃくちゃ面白いのだ。
- 電子あり
明智光秀の三日天下も終わり、次に覇権を握るのは柴田勝家か羽柴秀吉か、という時勢。後に関ヶ原の戦いにて西軍を組織し、敗れ去ることになる若き日の石田三成は、主君・秀吉の足袋の破れを気にしたり、火鉢の火力の弱さに文句を言いながら日々を過ごす。そして大谷吉継とともに、基本的には戦の裏方に回る三成は、イケイケの福島正則や加藤清正と揉めたりもする。石田三成が小うるさく主張すること、それが「ミツナリズム」!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。
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