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なぜ人は「ものを分けたがる」のか? 分類学を知ると世界の見え方まで変わる
(著:岡西 政典)
「分類 とは、3つ以上のものを比較して、分け(まとめ)、それらにそれぞれの階級を与える作業である」と。
本レビューにて取り上げる「生物を分けると世界が分かる」の中で、分類についてこのように定義している部分があります。本書ではまず生物を分類する前に、分類とは一体なんぞや?ということに触れ、冒頭でも触れた通り、定義を明確にしてから深淵なる分類学の世界にいざないます。
分類学は「すべての生物学の基礎」とも言える学問だと筆者の岡西政典氏は言います。
本書は生物の分類の軸にして、生物進化と地球の変遷を読み解いていく、ミクロ視点からマクロ視点へとダイナミックに移動する、世の中の「見え方」が変わる1冊です。
さて、「対象が3つ以上あると分けられる。」ということは、当然ながら2つの場合は分けることができないわけです。
たとえば、バスケットボールとアメフトのボールが目の前に転がっていた時に、これは同じ種類のボールですか?という問いを投げかけられたとします。
図)バスケットボールとアメフトのボール
イラスト:安斉将
確かにバスケットボールとアメフトのボールを「知っている」我々からすると、この2つはスポーツ用のボールであるものの、用途が違うものとして同カテゴリで別の種類に分類できますが、
・色は同じく茶色だし
・形は円形/楕円形だし
という共通点があるからこそ、「もしかしたら片方は不良品」として捉えてしまうかもしれない。と述べています。
もしこれらの2つのボールが初めて見たもので、他に似たものを見たことがないのだとすると、「もしかしたらこの中間の形があるのかもしれない」という疑問を払拭できないから判断材料が足りないということです。
この状態にもし、バスケットボールがもう1つ対象に加われば、バスケットボールとアメフトのボールは別の種類であると言えるようになると言います。そしてそのプロセスには、同種のバスケットボールを「まとめ」る作業が入るとも。
「分ける」ことは「まとめる」ことと表裏一体である、その視点から分類ははじまり、分けられたものはまた別の尺度で「階級」によってまた分類され、体系的に整理されます。例に挙げられたボールですが、最も粒度が細かいレベルが「バスケットボール」であり「アメフトのボール」ですが、それらは「ボール」としてまとめられ、それらのボールはまた「スポーツ用品」としてまとめられます。
なるほど、確かに我々が日々の営みの中で行なっている、「物事を分ける」ということを言語化すると、そういうことだったのかと膝を打ちました。
このような基本的な分類の体系の基礎は古代ギリシャのアリストテレスの時代にはすでに成立し、リンネによって今日まで続く分類体系が成立している、古代から脈々と続く「科学」なのです。
こうした分類の営みは日常生活でも、仕事の現場でも普通に行われていることでありますが、「科学的な分類」が古くからあったからこそ、一般社会に浸透しているのではないかとも思えてくるでしょう。
自然界のものを観察し、分類して、同じものが存在しているか探す。もし同じものが存在しなければ適切な命名をして、違いを比べる。そうやって長年観察や発生の経過(受精卵から赤ちゃんまで成長する過程)によって行われていた分類ですが、今日ではDNAによってなされることもあるそうです。DNA情報は科学的にも客観性、正確性が高いためより優れた分類結果を生み出すことが多く、新しい発見がなされているようです。
世界を形作るパズルのピースに「名前を付けて」それを埋めていくという壮大な仕事につながっていると岡西さんは言います。そしてそのパズルのピースはほとんどが埋まっておらず、我々が生きている間にはおそらく全ては埋まりきらないであろうと。
分類をすることで、生物がどのように生き、絶滅したのかを解き明かす手がかりにもなると言います。すると近年よく耳にする「生物多様性」が、どのように多様性を保っているのか、それは我々の生活にどのような示唆を与えてくれるのか、そんなロマンを感じられる1冊です。
- 電子あり
すべての生物学の土台となる学問こそが、分類学だ!
なぜ、我々は「ものを分けたがる」のか?
人類の本能から生まれた分類学の始まりは紀元前。
アリストテレスからリンネ、ダーウィン……と数々の生物学の巨人たちが築いてきた学問は、分子系統解析の登場によって大きな進歩を遂げている。
生物を分け、名前を付けるだけではない。
分類学は、生命進化や地球環境の変遷までを見通せる可能性を秘めている。
生命溢れるこの世界の「見え方」が変わる1冊!
地球上で年間1万種もの生物が絶滅しているという。
その多くは、人類に認識すらされる前に姿を消していっている。
つまり私たちは、まだこの地球のことをこれっぽっちも分かっていない。
それどころか、「分かっていないことすらも分かっていない」のである。
だが、分類学を学ぶことで、この地球の見え方は確実に変わる。
奇妙な海洋生物・クモヒトデに魅せられ、
分類学に取りつかれた若き分類学者が描き出す、新しい分類学の世界。
◆主な内容
プロローグ 分類学者の日常
第1章 「分ける」とはどういうことか ~分類学、はじめの一歩
第2章 分類学のはじまり ~人は分けたがる生き物である
第3章 分類学のキホンをおさえる ~二名法、記載、命名規約とは?
第4章 何を基準に種を「分ける」のか? ~分類学の大問題
第5章 最新分類学はこんなにすごい ~分子系統解析の登場と分類学者の使命
第6章 生物を分けると見えてくること ~分類学で世界が変わる
エピローグ 分類学の未来
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。
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