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封印された悪魔の欠片を捜す「不死の少女」──書店員絶賛作家の最新作!

フラウ・ファウスト
(著:ヤマザキコレ)
2016.07.09
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ゲーテの『ファウスト』は、錬金術師ドクトル・ファウストの伝説(民話)を下敷きにしたものだと言われている。

錬金術は卑金属を金に変えることを目的とした試みである。むろんそんな目標は達成できるはずもないのだが、まあやっていたことは化学の実験のようなものだったから、ドクトル・ファウストが生きていたとされる15〜16世紀では錬金術はまだ正当な学問と考えられていた。伝説のもとになった史実のファウストも博学の徒であったのだろう。

今回紹介する『フラウ・ファウスト』は、ファウスト伝説を下敷きにした作品である。作者は『魔法使いの嫁』(通称「まほよめ」)で人気を博すヤマザキコレ。『まほよめ』は現代イギリスを舞台とする人間の少女と魔法使いの交流を描いたファンタジーだが、『フラウ・ファウスト』はアクション要素のあるダーク・ファンタジーである。
舞台となるのは中世ドイツ風の架空の国。物語の主役となるのは少女ヨハンナ・ファウスト。悪魔メフィストフェレスと契約した知識欲の塊だ。その内容については、1巻の裏表紙に書かれた惹句を見てもらうのがいいだろう。

 ──封じられた悪魔を探し続ける
   少女・ヨハンナの不死と禁忌をめぐる
   ダークファンタジー、開幕!!──

『フラウ・ファウスト』は封じられた悪魔を探す話だ。
ストーリーの柱となるのは、100年前に五体を刻まれ各地に封印された悪魔メフィストフェレスの解放である。彼の悪魔と契約したヨハンナ・ファウストは、メフィストフェレスを復活させるため、封じられた身体の一部を回収する旅を続けている。
だがヨハンナはその身に呪いを受けており、様々な制約に縛られている。たとえば彼女はメフィストフェレスの身体が封印されているような教会建築には1人で入れず、誰かに内側から招いてもらう必要がある、といった具合に。

第1話「おとぎ話の男」では、ヨハンナは本泥棒として追われていた少年・マリオンを助ける代わりに提案を持ちかける──「新月の夜 その場所の 扉を開けて くれればいい」──

問題はその手の制約だけではない。『フラウ・ファウスト』の世界では教会が強い権力を有しており、異端審問官たちがヨハンナを付け狙っている。悪魔の復活は阻止しなければならないというわけだ。ヨハンナは異端審問官ロレンツォと相棒のヴィートの目を盗みながら、メフィストフェレスを助けなければならないし、ときには自ら戦いの場に身を投じる。

身体の一部を回収して旅をする、といえば手塚治虫の『どろろ』を思い出したりもするのだが、そもそもファンタジーでは強大な力を持つものを分割して封じるのはお約束のようなもの。本作はファンタジーの王道を踏襲しつつ、立場が違う者同士の駆け引きが楽しめるつくりになっている。


『フラウ・ファウスト』は不死と禁忌の物語だ。
先ほどの説明で引っかかった方もいらっしゃるだろう。ヨハンナの相棒たるメフィストフェレスは100年前に刻まれている。となればかの悪魔と契約したヨハンナもまた100年以上生きていることにならないだろうか。
そう。彼女は悪魔と契約した結果、人間のスケールを超えた時間を過ごしている。
それゆえ意外なところに知人がいるもので、ヨハンナは彼女らの手を借りつつ教会から身を隠しながら各地を転々とする。わたしたち読者はマリオンの目を通して、行く先々に残る彼女の痕跡からヨハンナの過去に触れていくことになる。
だがこれは『ファウスト』をもとにした物語なのだ。ヨハンナの過去が幸せな記憶で埋め尽くされているとは考えない方がいい。彼女の扱う知識は語学・歴史・数学・錬金術と多岐に渡り、その中には『フラウ・ファウスト』の世界では禁忌とされるものも少なくない。村を飢饉から救うための特殊な穀物しかり、錬金術を題材にする以上避けては通れないホムンクルスしかり……。

知識は毒にも薬にもなる。
もちろんヨハンナほど聡明であればそのことはよく知っているだろう。だが彼女はあまりにも強欲だった。メフィストフェレスとの契約の経緯は2巻収録の第4話「悪魔と踊れ」に詳しく描かれているのでここでは語るまいが、悪魔との契約という一大イベントもヨハンナの本質的な部分にあまり影響を与えなかったのではないかと思う。彼女はそれ以前から常人離れした知識への欲望を有していた。

力強い言葉に魅せられる。
メフィストもその魂に惹かれたのだろうか。凡人には持ち得ない情熱をみなぎらせるヨハンナは、高潔で素直な魂の持ち主として映るのだろうか。『フラウ・ファウスト』には複数の悪魔が登場する。その誰もがなにかしらの理由で特定の人間に惹かれ、そばに控えている。

食べるためなのか、それとも苦痛を与えて愛でるためなのか……悪魔の考えは読めない。原作でファウスト博士がどうなったのかを考えると色々と妄想がはかどるが、想像をより深めるような材料はこれからも出てくるだろう。残る身体の回収と今後の展開が楽しみでならない。

【ヤマザキコレ初絵本付き!】『フラウ・ファウスト』特装版は通常版と同じく2016年7月7日発売中!

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レビュアー

犬上茶夢

ミステリーとライトノベルを嗜むフリーライター。かつては「このライトノベルがすごい!」や「ミステリマガジン」にてライトノベル評を書いていたが、不幸にも腱鞘炎にかかってしまい、治療のため何年も断筆する羽目に。今年からはまた面白い作品を発掘・紹介していこうと思い執筆を開始した。

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