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日本が起こしてきた戦争という歴史を忘れないことが戦争への道を歩かずにすむことなのです
(原作:横山秀夫 漫画:三枝義浩)
回天、海龍、伏竜、震洋、四式肉薄攻撃艇、桜花、梅花、剣、神龍、桜弾、タ号試作特殊攻撃機……。開発中に敗戦をむかえたため実戦配備されることがなかったものもありますが、これらはすべて太平洋戦争中に日本軍部が開発した特攻用兵器です。もちろんこれ以外にもさまざまな航空機が特攻に使われました。
けれど、このような特攻用兵器を配備することがいったい実戦とよべるものなのでしょうか。捨て身とはいいながらもそれは差し違えという発想です。それは正面からでは勝てないと知っていながら戦を止められない者の発想ではないでしょうか。戦争は政治の延長であるはずなのに、ましてや総力戦ならばなおさら政治の延長なのに、政治のひとかけらもないただの果たし合いにすら思えます。なにがそのようなことを彼ら兵士に強いたのでしょうか。
この作品は日本の敗色が濃くなった昭和19年に回天特攻隊に志願した横田さんの物語です。
昭和18年海軍航空隊に入隊した横田さんは、飛行機乗りに憧れ、厳しい訓練を送っていました。ところが翌昭和19年8月、突然横田さんたちに新兵器への搭乗志願者を募る軍令が下りました。志願した横田さんが目にした新兵器が人間魚雷回天でした。
大空を駈ける夢から一転して「魚雷の目」となることを求められたのです。そして満足な計器も装備されておらず、扱いにくい“兵器”を確実に敵艦に到達させるための訓練の日々が始まりました。しかもこの“兵器”は事故・故障による死を起こさせやすい不備なものでもあったのです。
ついに来た出撃命令……潜水艦に乗り込んだ横田さんはアメリカの航空機の攻撃を受け、やむなく帰投することになってしまいます。横田さんの運命の始まりでした。
次の出撃を待つ横田さんの前にある予備士官(学徒出陣兵だったのでしょうか)があらわれます。「日本は負けた方がいいと」言う士官に横田さんは反発します。そして自らの死の意味を問われて「祖国を守るためです!! 胸を張って死にます!!」と答えたのです。
けれどその士官はこう続けました……。
「教育がまちがっていたんだ……(略)お前は考えたこともないだろう……それが問題なんだ。お前が誇りを持って死ねると思うのは、お前が他のことを考えないように教育されてきたからなんだよ!!」
「戦争にかり出されたったひとつしかない命を捨てるなんてあまりに馬鹿げている。日本は今いろんな国にケンカをふっかけ憎しみをかっている。だから日本は負けた方がいい。負けて過去の間違いを改める必要があるんだ!!」
と。それは回天出撃前夜に予備士官が心の奥を打ち明けた遺言の言葉でもあったのでしょう。その言葉が重く心に残りました。
再出撃の日。けれど今回は横田さんの搭乗する回天は発進されませんでした。6機の回天うち発進されたのは3機だったのです。
そしてむかえた3度目の出撃命令。しかし回天の故障により再々度帰投することになってしまいます。
そんな帰投した彼らに待っていたのは上官からの「卑怯者」呼ばわりとも思える言葉でした。
「二度と帰ってくるもんか」
横田さんの悲痛な声は、けれど天には届きませんでした。再び回天の故障によって発進できなかったのです。
2ヵ月後に戦争は終わりました。多くの仲間に先立たれ、生きる目的を失った横田さんの前に戦火によって廃墟となった街の姿があったのです。
そして始まった横田さんの戦後、それは先立った戦友たちへの鎮魂の日々であり、あの日予備士官が言った「まちがっていた日本」を繰り返してはいけないという思いに貫かれた日々だったのです。
この作品はこう結ばれています。
「それがあまりに強烈な記憶であるだけに回天にかかわった多くの人達は今もなお様々な思いを胸に秘めています。しかし重い口を開いてくれた人達の誰もが……最後にこう口にするのです……「二度と戦争をくり返してはならない……」「あの回天は再び唸り音をたてることがあってはならない」と……」
「身を鴻毛の軽きにおく」とはしばしば戦記、回想記に出てくる言葉です。一見勇ましく思える覚悟の言葉もその実にあるものはなんなのか、そんなことをふと考えてしました。
同時収録されている「ヒロシマの証言者」も原爆被害の体験を隠して生きてきた女性が、ある出来事から被爆体験を語るようになった半生記です。
「このページより、被爆者の方の描かれた絵を、より忠実に再現するためカラーページとなっています」と注記された部分の衝撃は必見だと思います。
戦争はまだまだ世界中に起こっています。日本が起こしてきた戦争という歴史を忘れないことが戦争への道を歩かずにすむことだと改めて感じさせる2作品でした。
既刊・関連作品
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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