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戦後から高度経済成長に向かう風景

愛と暴力の戦後とその後
(著:赤坂真理)
2014.07.01
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1年ちょっと前、占いに詳しい友人が、「これからは、愛を利用する人が現れる時期に入る」と言っていたのがずっと印象に残っています。スピリチュアルなものにはまったく興味のない自分が、なぜこの言葉を覚えているかというと、それからというもの、その言葉で理解ができることが多かったからです。

このときの「愛」とは、もちろん本来の意味とも違います。では何かというと、昔、日本が発展していたときに家族の間にあったようなものではないかと思います。『愛と暴力の戦後のその後』にも「愛」が入っていますが、意味としては近いでしょう。

この本の中には、「世代間ディスコミュニケーションが広がるばかりのわが日本において」今でも「鉄板コンテンツ」なのは『サザエさん』や『ドラえもん』『三丁目の夕日』などの「戦後から高度経済成長に向かう風景」を描いたものであり、それは「日本が元気だった頃」「夢があった頃」を描いたものでもあるといいます。そしてそれは無意識に「日本が男らしかった頃」の含みがあると書いてあります。

冒頭で書いた、利用されているかもしれない「愛」は、赤坂真理さんが指摘する「日本が男らしかった頃」の制度に戻るためのキーワードになっていると思ったのです。

そう考えると、最近起きていることのほとんどが理解できます。例えば、奇しくもこの文章がアップされる今日は、集団的自衛権の閣議決定が行われますが、これはもう一度「日本を男らしい国」にしたいという表れでしょう。「日本を取り戻そう」という言葉もやはり、男らしかったあの時代の日本を取り戻そうという意味でしょう。

集団的自衛権の問題とは別に、都議会では女性議員にセクハラ野次が飛んだということで問題となりました。これも、「愛」と無関係ではありません。この一件の発端には、少子化を解決するには、日本が男らしかった頃の家族制度を取り戻さないといけないと考えている人がいるということがあるからです。かけられた野次が「早く結婚したほうがいいんじゃないか」というのは、結婚さえすれば妊娠、出産にまつわる問題点が改善されると無邪気に思っているからではないでしょうか。

でも結婚さえすれば、さまざまな問題が解決できたのは、やはり「高度経済成長期」の日本が、さまざまな偶然が重なった無敵の時代だったからでしょう。

私は、毎週、ここで本をレビューする中で、ジェンダーの本を選ぶことがかなり多くなっています。私がそんな本を読むようになったのは、地震後のことです。自分の周囲にもそんな人は増えてきました。なぜかと考えると、日本が「男らしさ」を取り戻そうとしているのを感じて、それですべてが解決するのだろうか、かつての「男らしさ」ではない「男らしさ」が現れたら、過去を取り戻そうとしたり、戦闘的な空気に向かうのを阻止できるんじゃないか、そう考えていたんじゃないかと思えるのでした。

レビュアー

西森路代

1972年生まれ。フリーライター。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般や、女性について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。

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