今日のおすすめ

『黒博物館 ゴースト アンド レディ』が劇団四季により舞台化! その見どころに迫る

2024年5月、「モーニング」にて連載されていた『黒博物館 ゴースト アンド レディ』が、劇団四季の手によりオリジナルミュージカル化されます。本記事では4月3日に行われた「稽古場見学会」における演出・出演候補キャストたちのコメントなどを元に、同作の見どころについて紹介します。

2024.04.19
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

19世紀の大英帝国を舞台にした愛と冒険の一大叙事詩

『黒博物館 ゴースト アンド レディ』は、『うしおととら』『からくりサーカス』などの大ヒット作を生み出した藤田和日郎氏による大英帝国伝奇アクション「黒博物館シリーズ」の第2作。
19世紀半ばのクリミア戦争を背景に、近代看護の礎を築いた“ランプを持った淑女”ことフローレンス・ナイチンゲール(フロー)と、イギリスのドルーリー・レーン王立劇場に棲みつく芝居好きなシアターゴースト「グレイ」が繰り広げる、愛と冒険の大活劇です。

原作の物語はスコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)の犯罪資料館「黒博物館」に、一人の老人が訪れたところから始まります。彼が見たがった展示物は「灰色の服の男」(グレイ)と呼ばれるゴーストが劇場に残したと言われている「かちあい弾」。二つの銃弾が奇跡的な確率で正面衝突し、ひしゃげたまま一体化したものです。老人は黒衣の学芸員に頼みます。その「かちあい弾」の由来について語る代わりに、自分の願いを聞いてほしい、と――。

『黒博物館 ゴースト アンド レディ』

黒博物館を訪れた老人の中から「グレイ」が現れる――。

じつはその老人には「灰色の服の男」こと「グレイ」と呼ばれるゴーストそのものが憑いていました。黒衣の学芸員はそのゴーストの口から、看護婦として世界の医療事情を一変させた偉人、フローレンス・ナイチンゲール(フロー)と、ゴーストであるグレイ自身、二人が歴史的大事件「クリミア戦争」の裏で繰り広げた大活劇を知ることになるのです。

人はいかにして癒されるか、人を癒すことができるか

ミュージカルの演出を務めるのは、スコット・シュワルツ氏。ブロードウェイ、オフ・ブロードウェイ、イギリス、アメリカ、ヨーロッパ各国で数々の作品を手掛け、多くの芸術賞を受賞。ミュージカル『ノートルダムの鐘』(2016年劇団四季初演)でも演出を務めた、世界トップクラスのアーティストです。

スコット・シュワルツ氏

『ゴースト&レディ』演出:スコット・シュワルツ氏

スコット・シュワルツ氏は語ります。 「2019年の来日時に本作の舞台化を(劇団四季に)ご提案いただき、いただいた単行本(上下巻)を帰国の機内で読んで、瞬く間に夢中になりました。あのナイチンゲールの物語を、幻想的なゴーストを通して語る。現実とファンタジーを一体化し、エキサイティングな一大叙事詩として成立させる、そのアイデアに圧倒されたのです。帰国の飛行機を降りた直後にメールで『やりましょう!』と回答したことを覚えています(笑)」。

さらに本作の魅力について、スコット氏はこう続けます。

「本作のテーマの一つは、人間はどのようにして癒されるのか、人を癒すことができるのかということ。二人の旅路は『男女が出会って恋をし、別れてまたくっついて……』というような、通り一遍のラブ・ストーリーではありません。物語の冒頭では、二人はそれぞれ相手を想うこと、人を愛することに対して抵抗を感じています。その二人がときに戦い合い、ぶつかり合い、また離れてお互いを想うなかで、いかに相手を愛しているかということ、自分は人を愛することができるんだ、ということに気づいていく。全編を通して過酷な環境を共に乗り越えやっとそこに辿り着く、まさに一大叙事詩なのです。原作漫画のファンの方にはもちろん、原作を知らない方でも、また、フローレンス・ナイチンゲールを知らない方でも、十分に楽しめるエンターテインメントとして作り上げたい、と思っています」。

「絶望を知らない愛」が生まれ、育っていく

フローとグレイの出会いは、19世紀半ばのドルーリー・レーン王立劇場。いつものように客席でくつろぎながら観劇に興じていたグレイの下に、フローが訪れます。
フローが発した言葉は「私を取り殺してください」。
自分が命を落としてから100年近く、舞台を観ているだけで退屈していたグレイは、フローの言葉に戸惑いつつも「今は殺さない。フローが人生に絶望したそのときに殺してやる」と約束します。

『黒博物館 ゴースト アンド レディ』

常にどこか芝居がかった大仰なグレイの立ち振る舞いも、物語の大きな魅力となっている。

高貴な家に生まれながら、神の啓示を受けて「看護婦として病人を救うこと」を人生の目的と決めていたフローですが、そのときは猛反対する両親を説得することができずに、自暴自棄になっていました。しかし、グレイとの約束により「絶望したらグレイがいつでも自分を殺してくれる」と信じることで、少しずつ「己の使命のために生きる力」が湧いてきます。

傲岸不遜な両親を説得して、環境の悪辣な病院をたて直すべく看護婦として働き始めるフロー。現状を追認する病院の古株たちは、力強く理想を掲げるフローを疎ましく感じて拒絶しようとします。フローはそうした人たちを相手に、一歩も引かずに戦います。そんなフローの思いを成就させるべく、グレイは幾度となく思わず手を貸してしまいます。

『黒博物館 ゴースト アンド レディ』

相手を取り殺すつもりで憑いたはずが、いつしかフローを守り、手助けするように。

その後、舞台はクリミア戦争へ。フローはスクタリ野戦病院の非常に劣悪な環境を救うべく、志ある看護婦団とともに現地へと向かいます。グレイも「戦場ならばこの女も絶望するはずだ。その瞬間に殺してやろう」と同行。そこからグレイ自身の生前の過去の因縁も絡み、フローとグレイの二人にとって、あまりに過酷かつ劇的な運命の歯車が回り始めるのです。

劇団四季・稽古シーン

第2幕第4場「裏切りの人生」(稽古風景)。ここでグレイの生前の因縁が語られる。幾度となく裏切られ続けた人生の中で、グレイは人を信じることができなくなっていた。

作品を通した二人の変化・成長に注目してほしい

主人公の一人、フローは、谷原志音さんと真瀬はるかさんのダブルキャスト。谷原志音さんは『ライオンキング』ナラ、『リトルマーメイド』アリエル、『ジーザス・クライスト=スーパースター』マグダラのマリアなどを演じてきました。

『ゴースト&レディ』フロー役、谷原志音さん

『ゴースト&レディ』フロー役、谷原志音さん

谷原志音さん
「原作は、普段漫画を読まない私でも引き込まれて、最後まで一気に読んでしまいました。偉人であるナイチンゲールがものすごくチャーミングに、人間臭く描かれていて、自分としても共感する部分が多いので、演じるのがすごく楽しみ。冒頭では『自分を殺してほしい』から始まる彼女が、物語が進むにつれてどんどん変わっていく。その変化を演じるのがすごく楽しいんです。観てくださるみなさまも、きっと同じ気持ちになってくださると信じながら日々、稽古をしています」。

真瀬はるかさんは『キャッツ』ジェリーロラム=グリドルボーン役で四季の初舞台を踏み、『ウィキッド』ではグリンダ役。『リトルマーメイド』にも出演しています。

『ゴースト&レディ』フロー役、真瀬はるかさん

『ゴースト&レディ』フロー役、真瀬はるかさん

真瀬はるかさん
「原作を読んだときに驚いたのは、絵の持つ力というか、特にフローに冠しては目の描かれ方がすごく特徴的な作品だなと。そしてフローが、その描線の力強さと同じくらい勇敢な魂を持って突き進んでいく姿が魅力的で、読み始めたらノンストップで読み切ってしまいました。衝撃の出会いでしたね。この作品では、フローはもちろん、グレイも、敵役も含めたそのほかの登場人物たちもみな、それぞれの信じたいものを信じて人生を歩んでいる姿が描かれています。気づいたら私は『進んじゃいけない人生なんてないんだ』という、肯定感というか勇気をこの作品からもらっていました。フロー自身も迷いながらも、力強く進んでいく。そんな彼女の姿に共感してもらえるように頑張りたいです」。

そんなフローとともに壮大な「命と絆の物語」に巻き込まれていくゴースト・グレイを演じるのは、金本泰潤さんと萩原隆匡さん。金本泰潤さんは『ライオンキング』エド役で四季の初舞台を踏み、『キャッツ』マンカストラップ役、『美女と野獣』ビースト役などを歴任。スコット・シュワルツ氏の演出は『ノートルダムの鐘』カジモド役として経験済みです。

『ゴースト&レディ』グレイ役、金本泰潤さん

『ゴースト&レディ』グレイ役、金本泰潤さん

金本泰潤さん
「原作を読んだときは、発想の素敵さに魅せられました。世界的な偉人であるナイチンゲールが多大なる功績を残した裏には、こんなゴーストがいたんじゃないか。そんな発想自体がすごいと思います。フローとグレイの、単純な恋仲ではない『バディ』のような関係も魅力的で引き付けられる。僕自身、稽古が始まったころは、『グレイはこの作品で何をしたかったのか』をずっと迷っていました。でも、きっとグレイは『自分の過去を認めて背負い、人を信じ、この先を生きていく』ことの大切さを、この物語を通じて学んだんだと思う。そう気づくとしっくり来て、演じやすくなった気がします。SNSなどの影響で『総監視社会』になっている昨今『自分が信じた道を生きる』ことの大切さを教えてくれるような作品になると思います」。

萩原隆匡さんは『コ―ラスライン』グレッグ役、『ウエストサイド物語』ベルナルド役、『アラジン』ジーニー役、『ライオンキング』スカー役など、数々のビッグタイトルでメインキャストを演じてきた俳優です。近年は『バケモノの子』などの振り付けも手掛けています。

『ゴースト&レディ』グレイ役、萩原隆匡さん

『ゴースト&レディ』グレイ役、萩原隆匡さん

萩原隆匡さん
「原作を読んだときは『やっぱり昔から何か新しいことをやろうとしたら、邪魔をする人がいるんだな』と感じました(笑)。あのナイチンゲールも、そういう人に苦しめられていたんだなって。また、グレイのカッコよさに引き付けられました。所作からたたずまい、セリフ回しや行動原理に至るまで、全てがカッコいい。『男の理想』のように感じました。物語は厳格な家に閉じ込められていたフローと、劇場にずっと閉じこもっていたグレイが出会い、お互いに影響し合い、また周囲からも影響を受けて成長していきます。狭い世界に閉じこもらずに、人に影響を受けるということは、すごくいいことなんだなと。そういう二人の成長を、生で感じていただけたら嬉しいです」

『ゴースト&レディ』ポスター画像

劇団四季『ゴースト&レディ』チケットは絶賛発売中です。ネット予約は「SHIKI ON-LINE TICKET」。原作の『黒博物館 ゴースト アンド レディ』(上・下)も好評発売中です。

構成/文:奥津 圭介 撮影:安田 光優(講談社写真部)

  • 電子あり
『黒博物館 ゴースト アンド レディ 上』書影
著:藤田 和日郎

ロンドン警視庁の犯罪資料館「黒博物館」に展示された“かち合い弾”と呼ばれる謎の銃弾。ある日、それを見せてほしいという老人が訪れたとき、黒衣の学芸員は知ることになる。超有名な「お嬢様」と、「もうひとり」が歴史的大事件の裏で繰り広げた、不思議な冒険と戦いを……! 藤田和日郎の19世紀英国伝奇アクション超待望の第2弾、ここに開幕!!