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蘇った死者を葬る葬式屋「アンダーテイカー」。生と死が交差するダークファンタジー

アンダーテイカー(1)
(著:新挑 限)
2023.12.27
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これは楽しい。小学生にしか見えない男の子と腰痛持ちのおじいちゃんがコンビを組み、墓場から蘇った死者=「蘇体」とバトルを繰り広げる痛快アクション! 明解なストーリー&コンセプト、魅力的なキャラクター、パワーと勢いに満ちたアクションという少年漫画の王道エッセンスが見事に揃った快作だ。

対蘇体専門機関に所属する“戦う葬式屋”=アンダーテイカーを名乗る主人公、杉沢ヒロム(少年)と大道寺ロウタ(老人)は、『モブサイコ100』の師弟を遥かに凌ぐ歳の差コンビ。だが立場も精神年齢も対等で、会話もマブダチ感覚。一体どういうことなのか?という謎から読者を引き込んでいく設定がうまい。さらに、ほぼ100%の確率で相手を油断させる見た目に反し、キメるところはキメて、パワフルな戦いぶりを披露してみせるところが実にカッコいい。ちなみに彼らのネーミングにも、心霊スポットマニアならビビッとくることだろう。

死者たちは、未練、執着、怨恨といった負の感情を背負って現世に蘇り、生者の寿命を吸い取っていく。それを圧倒的な生命力と戦闘力でイキイキと成仏させていくアンダーテイカーたちの活躍はなんとも清々(すがすが)しく、ダイナミックなアクション描写が痛快さに拍車をかける。火葬、土葬、納棺といった葬儀のモチーフを散りばめた必殺技もバラエティに富んでいて面白い。グロすぎないクリーチャーデザインもいい塩梅だ。死という重い題材を扱いながらも、陰鬱さや陰惨さに引きずられない適度な「軽み」も本作の美点である。

同じ組織に所属する同業者……スコップを手に「穴葬術」を操る副葬長・マノン、強力な「納棺術」で敵を圧倒するサドっ気のありそうな葬長・雨雀(うじゃく)など、多彩な脇役陣とのアンサンブルも目に楽しいが、やはり最も魅力的なのは主人公コンビのキャラクターだ。

「大ちゃん」「ヒロ」と呼び合うふたりがなぜ祖父と孫のような姿になったのか、彼らの運命を変えた3人目のキーパーソンとは誰なのか……切ないドラマ性をはらんだ過去を匂わせるディテールが、読者を惹きつけてやまない。そんな彼らが互いのハンデを補い合いながら、対等なバディとして活躍するリアルタイムのアクションが何よりもワクワクさせる。老骨にムチ打ちながら戦う大ちゃんの姿はジジイ好きにはたまらないし、ヒロくんはその外見を利用して激カワ小学生コスプレまで披露してくれる。今後の回想パートも気になるけれど、それよりも現在進行形の凸凹コンビの活躍をずっと見ていたいと思わせる、なかなかに得難い名コンビの誕生である。

もちろん「宿敵」の存在も少年漫画には欠かせない。はたして彼らは因縁の対決を迎えることができるのか? ふたりは本来の姿に戻ることができるのか? 大ちゃんの老体はそのときまでもつのか? 今後の展開から目が離せない作品が、またひとつ増えてしまった。

  • 電子あり
『アンダーテイカー(1)』書影
著:新挑 限

死後に蘇り人の寿命を糧とする者、“蘇体”。
蘇った死者を葬るべく、ある機関が組織された。
人は彼らをこう呼ぶ。戦う葬式屋、「アンダーテイカー」と――。

生と死が交差する、ダークファンタジー開幕!

既刊・関連作品

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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