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映画化連発! 荒木源の最新作『人質オペラ』はリアル・テロ群像劇

昨年公開された杏さん主演『オケ老人!』などのヒット映画の原作を書いているのが荒木源さん。「映画化連発作家」とも呼ばれる荒木さんの最新小説『人質オペラ』が5月に刊行される。
日本人女性が海外のテロ組織の人質になったことをきっかけに、人質の家族や官僚、政治家、メディア記者などが絡み合ってクライマックスへと突き進む、設定はヘビーだが軽やかさのある群像劇だ。本作も映画化されるのか? などを担当編集者と共に語った。

2017.05.10
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すでに「映画化したい」との声が!

水口 この題材は荒木さんが長く温めてきたもので、小説のプロットを聞かせていただいたときにすごく面白いと思い、ぜひ単行本にしましょうとお話させていただきました。

荒木 いつの頃からか、「ウケ」が何よりも大事な世の中になりましたよね。テレビなどのメディアはもちろん、政治の世界も「ウケ狙い」で物事を判断しがちです。海外のテロ組織に日本人が人質に取られた場合でも、「人命は地球よりも重い」と考えるか、「自己責任」と突き放すかは、それが国民にウケるかどうかで判断されてしまうのではないか。それが良いか悪いかを言うつもりは私にはありませんが、そういう現象に関心があって小説にしたいと考えていたんです。

水口 荒木さんは元新聞記者ですから、リアルな情報を収集するのもお手のものですよね。

荒木 知り合いのメディアの人間からも話を聞いて、いろいろ参考にしました。こういう状況なら首相はどう考え、官房長官はどう動くかといったことを取材したうえで、キャラクターを作っていったんです。外務官僚や警視庁の捜査員が考えそうなことも一定のパターンがありますが、この小説の中ではあえてパターンに当てはまらないことをさせたりしています。

水口 小説だから書ける、というところもあるのかもしれませんね。

荒木 そこが難しいところで……。私が新聞記者を辞めて小説を書こうと思ったとき、最初は「ノンフィクションを捏造すれば小説になる」と思っていたんです。新聞記事は全部ノンフィクションですよね。続きものの記事になると、短編小説くらいの分量になったりもする。新聞記者としてそれまで書いてきたようなものに想像で肉付けをすれば、簡単に小説が作れる。そう思って書いたんです。

水口 ところが……。

荒木 まったくうまく行かなかった。現実に乗っかって書いた場合、想像したものをひとつでも入れてしまうと、途端に破綻するんです。小説というのは、一から全部作らなければいけないんだと思い知らされ、愕然としましたね。どえらいことを始めてしまった、と(笑)。小説に登場させる新聞社の名前ひとつ考えるのだって大変なことなんですよ。

水口 登場人物の名前なんかも同様ですね。

荒木 そう。作家のどなたかが「登場人物の名前を半分考えれば、もう小説はできたようなものだ」と言っていた気がします。名前を考えてその人物のイメージがだいたい形作られたら、物語の方向性もおのずと決まってくるわけです。

水口 今回は登場人物が多いから大変でしたね。

荒木 少ししか登場しない人に関しては、名前をつけずに肩書だけにするという方法もあったのですが、そうするとやっぱりリアリティが出ないんですよね。全員に名前をつけるほうが、大変でも私には向いているようです。

水口 本作では、事件のさなかの官邸が何度か出てきますが、リアルに官邸の動きを描いたエンタメ作品としては、最近は映画『シン・ゴジラ』が話題になりました。

荒木 あの映画の製作陣は、めちゃくちゃ取材したようですね。総理執務室のビジュアルも、綿密に取材して作ったとか。大きな嘘をつくときには、小さなことをきっちり固めなければいけないというのは、みなさんおっしゃることですけれども、私も今回、そういうことを意識して執筆に当たりました。

水口 荒木さんの小説が原作になった映画は、2010年公開の『ちょんまげぷりん』、2015年公開の『探検隊の栄光』と『オケ老人』でこれまで3本あります。『人質オペラ』以前に刊行した小説は計7作ですから、映画化打率は4割超えです。本作をすでに読んでいただいた人の中には、「ぜひこれは映画化したい。でも、僕につくような予算じゃ無理だ」とおっしゃった方もいまして。

荒木 私の小説がいくつか映画化されてきたのは、安く作れる内容だからではないかと私も思っているんです(笑)。もし、『人質オペラ』が映画化されたら、それだけが理由ではないんだなってことだから嬉しいです。本作を映画にするとしたら、総理執務室を作り込まなければいけないし、人質を巡るシーンは、さすがに現地ロケはしないと思うけれど、イスラムの地に見える場所で撮影しなければならない。これは結構おカネがかかりますよ(笑)。

「嘘」と「本当」の曖昧な関係が私のテーマ

水口 でも、場面展開も多彩で、映像化に向いていますよね。本の装丁も、映画をイメージしました。カバーの絵をお願いしたのは、三谷幸喜監督の映画『ラヂオの時間』(1997年公開)のポスターなどで知られる村田篤司さん。『人質オペラ』を読んでいただいてお願いをしたら、「ぜひ」とおっしゃってもらえて。この絵は、登場人物それぞれの思惑が複雑に絡み合う群像劇の雰囲気がよく出ています。

荒木 そうですね。そもそも私は群像劇が好きなんです。突出した個性の人を深掘りするよりも、全体に興味があると言うか……。登場人物一人一人にはもちろん個性があるわけですが、そういう人たちが化学反応を起こして、全体的にどういう方向へ進んで行くのか、そんなシステムの働き方みたいなものに興味があるんです。

水口 この小説では、人質事件をめぐって女性官房長官が冷徹な選択をして全体の流れが決定づけられますが、ラストシーンではまた違った一面を彼女は見せます。

荒木 今回のキャラクターの中で、私は女性官房長官が特に好きです。確かに彼女は冷徹ですが、冷徹というのはパッションの裏づけがあると思うんです。彼女はすごく仕事熱心です。ただ、日本のためにしているのか、自分のためにしているのか、線引きは定かではない。
「嘘」と「本当」の曖昧な関係は、私の大きなテーマです。『人質オペラ』の場合は、確固たる「正義」なんてものはないということを書こうとしたのだと思います。

『ちょんまげぷりん』と『人質オペラ』のタイトルが決まるまで

水口 最初に私が荒木さんにお声がけさせていただいときは、『ちょんまげぷりん』のような作品をイメージしていたのですが、今回は違ったテイストです。

荒木 『ちょんまげぷりん』は、あるシングルマザーの前に突然タイムスリップして現れた江戸時代の侍が、居候をして家事全般を引き受けるという話です。私が20年前に会社を辞め、小説を書きながら兼業主夫をしてきたその経験が反映されています。これまでの作品はそんなふうに、ファンタジーでも自分の体験をもとにしたものが多かった。確かに今回はそうではないですね。

水口 『ちょんまげぷりん』は、小説刊行時は『ふしぎの国の安兵衛』というタイトルでした。

荒木 錦戸亮さん主演で映画化されたとき、映画の制作会社がF1層にリサーチした結果、生まれたものらしいんです。

水口 いいタイトルですよね。

荒木 「安兵衛」というと、私は「堀部安兵衛」を思い浮かべるのですが、F1層には当然ピンとこない。それでは映画がヒットしないということで、タイトル変更になったんです。映画のスタッフたちが協議を重ね、侍のイメージの「ちょんまげ」に、F1層が好きなスイーツで劇中に出てくる「ぷりん」を合わせて、このタイトルになった。なるほどそういう考え方もあるんだなと思いました。
今回の『人質オペラ』は水口さんからの提案で、「これがいいと思います!」と自信ありげでしたよね(笑)。

水口 そんなことないですよ(笑)!

荒木 私もちょっとくやしいから、ほかに何かないかと考えたのですが、上回るものが思いつかず、見れば見るほどこれがいい気がして。

水口 使う言葉としては「人質」か「テロ」。あとは群像劇の雰囲気が出る言葉。「テロ」は禍々しいし、「人質」も重いけれど、「テロ」よりはいい。そこに軽やかな言葉を組み合わせたいと思って作りました。

荒木 「オペラ」という言葉を使ったことで華やかなイメージが加わって、とても秀逸なタイトルだと思っています。

水口 ありがとうございます。いよいよ刊行になりますが、そう言えば荒木さんはこの4月に主夫を「卒業」されたとか。

荒木 子供がこの春、大学生になったのをきっかけに、小説に専念することにしたんです。まるきり家事をしないわけにもいきませんが、一人になれる場所に長く行ったり、ひげを生やしてみたりしています(笑)。

水口 主夫時代は、ひげ生やしちゃダメだったんですか?

荒木 別にダメではなかったんだけど、小説家専業になった記念にしようと(笑)。生やし始めて間もないから、まだ落ち着かないけれど。

荒木源(あらき・げん)

1964年、京都府生まれ。東京大学文学部卒業後、朝日新聞社に入社。2003年、『骨ん中』で作家デビュー。他の著書に『ふしぎの国の安兵衛』(のち『ちょんまげぷりん』に改題)『オケ老人!』『探検隊の栄光』『けいどろ』『大脱走』など

『人質オペラ』書影
著:荒木源

参院選が迫るある日、日本人女性がトルコでIHOの人質になった。解放のため多額の身代金を要求された官邸と外務省は、しかしさほど慌てなかった。「人命は地球より重い」なんて昔の話。日本はアメリカの方針(=テロリストに何も与えない)に、従うまでだ。選挙までに「自己責任」の世論を盛り上げて。公安に彼女の身内を探らせれば、埃ぐらい出るでしょう──解決の算段をつけ、選挙での圧勝を目論む冷徹なトラブルシューター、官房長官・安井聡美にも、だが誤算があった。政府、テロ対策課、公安、家族をとおして、一寸先に広がる闇のような無常と希望を描いた、超快作多声オペラ!

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