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仕事をおそれることはない。答えはいつも目の前にある。
物理学にははっきりとした〈仕事〉という定義がありますが、人間の営みとしての〈仕事〉はどう定義すればいいのでしょうか。(ちなみに物理学上の仕事の定義は、物体に加えた力と、それによる物体の位置の変位の内積によって定義される物理量ということです)
ある人にとっては仕事はイコール生きがいであることもあるでしょうし、またある人にとっては(やむを得ないということまで含めて)生活の手段でしかないという人もいると思います。
多分、人の数だけ、あるいは、その人が従事した仕事との関係の持ち方の数だけ仕事観があるような気がします。だから仕事観がどこかそのままそれを語る人の人生観になる部分が多いのではないでしょうか。テクニックとしての(だけの)仕事術というものはどこにもないのではないでしょうか。
この本も松本大さんの人生観を色濃く反映しているものだと思います。松本さんの人生観(それはそのまま仕事観なのですが)のキーワードはクレディビリティです。
「クレディビリティ(信義、信頼、信用のこと)さえあれば、人を説得することもできるし、人もついて来てくれる。自分がもし困ったことになっても、誰かが手を差し伸べてくれます」
このことを土台として松本さんはすべての決断をしてきたのです、大手金融会社を辞めた時もそうでした。
とても真摯な松本さんの姿勢は人間(=仕事)の限界についての考え方にとてもよくあらわれています。限界のありかたを「バーティカル(垂直)」と「ホライゾンタル(水平)=テリトリー」の2方向に分けてこういっています。
「世の中を全般を見てみると、ホライゾンタルな限界についてはある種の誤解をしていて、自分は何でもできると思っている人が、決して少なくありません。でも、そういう人に限って、バーティカルについては自ら限界をセットしているからです。本当はその逆で、ホライゾンタルについて自分の限界を知ることは、大事なこと。でも、バーティカルについては、つまり自分でできることについては、どんどん先に伸ばしていく」
松本さんは、自分自身に対してもクレディビリティをつらぬいているからいえる言葉でだと思います。
この本にもさまざまな仕事の仕方へのアドバイスがあふれています。たとえば
「ベストよりベターを目指せ」
「目標を遠くに置くようにしろ」
「情報収集には好奇心が欠かせない」
であったり、アイデアとエクスキューション(「結果まで行く」という意味を込めています)との関係やその価値についても傾聴するに値する言葉が満ちています。仕事に必要な判断力についても、判断のスピードを速め
「判断の回数を増やしていけば、それだけ正答率もアップしていきます。したがって、会社を少しでも正しい方向に導いていくためには、経営者が、判断回数をどんどん増やしていく必要があります」
という自ら実践している方法を私たちに紹介しています。とりわけ
「シンプルかつ普遍的な価値観を持ってビジネスに臨むこと」
という基本をぶれることなく持ち
「向き不向きは、実際にやってみないことには、わからないものなのです。まずは、歩き出してみることが大事です」
もちろん「じぶんの足のサイズに合った靴を履くことが大切」と、これも自分自身に対するクレディビリティの持ち方ではなのではないでしょうか。仕事を超えて、生きることを考えさせてくれる一冊でした。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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