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ほしいのは忖度力ではなく読解力!【池上流】人生で一番身につけたい読解力のつけ方
(著:池上 彰)
ご存知、池上彰さんの著作だ。テレビで大活躍の池上さんといえば、難しいことをわかりやすく伝えてくれる、そんなどちらかというと「アウトプット」の人という印象があった。だが、そこは元祖敏腕取材記者、アウトプットを支える(ある種基本に忠実な)「インプット」の技術が卓越している人なんだなというのが、本書を読んだ最初の感想だ。
情報を自分自身の身体に正しく取り入れる、この力を「読解力」と定義し、この本は進行していく。
SNSなどで広がるデマや無軌道な論争がしばしば話題になる。これは、見出しを読んだだけのいわゆる「憶測」的反応や、単語を拾い読みすることによって生じる「誤解」、特定の言葉に食って掛かる「脊髄反射」反応など、社会全体の「読解力」の低下が問題となる。
池上さんは、デマが急速にパニックにつながっていく事例や「炎上」を解説しながら、ツイッターのリツイート機能を開発した人物、クリス・ウェザレル氏の「(リツイートは)人類には早すぎる機能だった。4歳児に装弾した銃を与えたようなものだ」という言葉を添える。
まず、読解力の基礎はこんなところにある。
たとえば「大丈夫」という言葉、
転んだ子どもに「大丈夫?」と聞いて、相手が笑顔で元気よく「大丈夫!」と答えたら、「そんなに痛くなかったよ」だとか「問題ないよ」とかいった意味になるでしょう。しかし元気がなく口数が少なくなった同僚に「大丈夫?」と聞くという状況では、相手がいくら「大丈夫です!」と言ったとしても、それは心配させまいという気遣いだったり、強がりだったりで、本当は大丈夫ではない、と読み解くほうが自然でしょう。
と、同じ言葉が幾通りもの「物語」になり、それに対する対処も変わっていく。
もちろん、立派な社会人の場合、目の前で実際に起っていることならその対応はなんてことないはずだ。だが、これが急速に普及してきたオンライン会議やメールでのやりとりではどうか。テレワークではノンバーバル(言葉を用いない)コミュニケーションが不足し、相手の状況を読み解く手段が限られるため、誤解や意思疎通の不全が多く、ストレスが溜まりやすい状況に陥る。
いまたしかに時間に追われる社会なのだけれど、もう一度基本に立ち返り、情報を咀嚼し、きちんと読み解く、そのことの重要性をこの本は訴えている。
では、池上さんの「読解力を伸ばすための秘訣」とはいったいなにか。
印象に残るのがこの一節、
ものごとを理解するいちばんの秘訣は、「アウトプット(発信)を意識したインプット(情報収集)」なのです。すなわち、なにごとも人に説明する前提で、問題意識を持って資料にあたり、深く理解する、ということです。
たとえば「週刊こどもニュース」のキャスターを務めていたとき、ニュースに日本銀行(日銀)が出てくると、子どもたちに日銀を説明するにはどうしたらいいだろうか、普通の銀行との違いをどう伝えたらわかってもらえるだろうか、と問題意識を持ち、その上で、日銀についての専門書を読むと、内容がよく理解できました。これが「アウトプット(発信)を意識したインプット(情報収集)」で、これを常に心がけていると読解力が上がっていきます。
さらに、文章を書いて鍛える方法、聞く力を上げる質問のコツ、説明や報告を助ける秘密のフレーズ、親子で表現力を上げる会話術などなど、解説は続く。詳細はぜひ本書で確かめてみてほしい。
東工大など理系の大学でも教鞭を取る池上さんは、理詰めの学生にあえて不条理文学を勧めたりしながら、読書に親しむことによる読解力アップに努める。
池上さんは学生たちの文学作品に対する反応などから、社会人に求められる読解力には、「論理的読解力」と「情緒的読解力」のふたつがあると整理する。
いま、実際の国語教育においては、「情緒的読解力」は軽視される傾向にある。数学や物理などの理系科目のみならず、国語にも「正解に至るまでの(最大公約数的な)ロジック」が技術として尊重される。自由な解釈や作者への情緒的共感のつけいる余地はない。こういった動きは私が受験勉強をしていた昭和の終わりあたりにはもう始まっていた。
池上さんが本書で指摘する、
センター試験などの択一式テストへの対策ともなると、まず設問を読み「常識で考えて明らかにおかしいと思われる選択肢から除外していく」という方法まで浸透しています。出来の悪い設問は、本文を読まなくても答えがわかるそうです。(中略)
このテクニックはつまり、文章の意味や著者の意図をテキストベースで読み取っていくのではなく、テストの出題者の意図を推理しているということです。これでは忖度力が身につくばかりです。
という話には、なるほどと膝を打つ。
改めて思う。いま、われわれに必要なのは、忖度力ではなく読解力なのだ。
「情緒的読解力」とは、自分とはまったく違う境遇の人、考え方が異なる人、自分がしたことのない体験をしている人に対しても共感できる力。「論理的読解力」は、相手の主張を理解する力。多角的なものの見方を身につけるための力。(本文より、要約抜粋)
副題は「社会に出るあなたに伝えたい」。学生のうちに出会っておきたかった本だ。
- 電子あり
「場違いな発言や行動をしてしまう人がいるけれど、いったいどうして?」「仕事がうまくいく人といかない人の違いは何?」「すぐ人と打ち解けられる人はどこが違うの?」などなど……その答えは「読解力」。池上先生が、人生でいちばん身につけたい生きる力=「読解力」のつけ方を伝授。
間違っているのか正しいのかわからない情報が日々、押し寄せてきます。だからこそ、自分で正しい答えを出す力が必要。社会に出たらこの力こそ最大の武器です。
世界79ヵ国・地域の15歳の若者を対象に行われるPISA(ピザ・学習到達度調査)。「21世紀に必要となる資質・能力」として読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーがテストされます。読解力はそれほど重要な力なのです。
池上流ファクトフルネス! 「何がいちばん大事か」見抜く力がつくと、自分もみんなも幸せになります。
●第1章 読解力を伸ばすと生き方が変わる
この章では、「忖度力と読解力の違い」「拾い読みの危険性」「ビジネスでの成功例や失敗例」などから、読解力がなぜ大事かわかります。
●第2章 情緒と論理ふたつを使いこなそう
大人になって高校の国語教科書を読むと、小説は「情緒的読解力=人間力」、評論は「論理的読解力=多角的なものの見方」に役立つと気づくでしょう。池上先生自身もこのふたつの力でテロリストの本音を引き出した経験を語ります。またドイツのメルケル首相や小池都知事の発言、北野武さんの仕事ぶりなどから、読解力の応用方法にびっくりするかもしれません。
●第3章 読解力にとっていちばん必要なもの
クイズ王と教養のある人の違いはなんでしょう? コロナ禍でネットにはたくさん善意のデマが飛び交いました。36度のお湯を飲めば治るなど、少し考えれば「おかしい」と気づくようなデマでした。読解力にとっていちばん必要なのは知識を生かす知恵。その知恵はどう磨けばいいのか、池上先生の相手にわかりやすく伝える技術が、ものごとを理解する秘訣でした。
●第4章 読解力はいつでもどこでも伸ばせる
読解力をふだんの「書く」「聞く」「伝える」「読む」場面で伸ばすコツを教えます。わかりやすい報告書はなぜわかりやすいか、いい質問を考えるのでも力がつきます。伝える場面では、池上先生が後輩に教えた「魔法のフレーズ」を披露。ちなみに絵文字や速読は逆効果。自然と読解力がついてくる方法がわかります。
●第5章 楽しく読解力を上げるには、やっぱり読書
人を見る目をつけたり、相手の立場になれる人になるには、読書が必ず役立ちます。ニューヨーク・ヤンキースのGM特別アドバイザー松井秀喜さんも読書好きのひとり、松井さんの人を見抜く目が球団で生かされています。どんな本があなたの才能を開くのかがわかります。
レビュアー
コラムニスト。1963年生。横浜市出身。『POPEYE』『BRUTUS』誌でエディターを務めた後、独立。フリー編集者として、雑誌の創刊や書籍の編集に関わる。現在は、新聞、雑誌等に、昭和の風俗や観光に関するコラムを寄稿している。主な著書に『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社、扶桑社文庫)、『車輪の上』(枻出版)、『大物講座』(講談社)など。座右の銘は「諸行無常」。筋トレとホッピーと瞑想ヨガの日々。全国スナック名称研究会主宰。日本民俗学会会員。
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