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今から英語以外の外国語を学ぶ日本人必読の書。現役外交官が外国語習得術を伝授!
(著:中川 浩一)
ふつうの会社では、入社時の配属先が個人の希望通りになるとは限らない。社会人なら誰でも理解しているだろうそんな「会社の論理」が、外務省という「ちょっと特別そう」に見える組織でも同じように適用されている、というのは新鮮だった。入省前の秋、著者は人事課からこんな電話を受けたという。
「中川さんには、アラビア語をやってもらいますので、よろしくお願いします」
(中略)思いがけない朝早くからの電話を、私はにわかに信じることができませんでした。
なぜなら、外務省では、入省する際に専門語学が割り当てられることになっており、第5希望まで書いて人事課に提出するのですが、私はどこにもアラビア語とは書いていなかったからです。
てっきり、大学などで培った専門的な経験を買われての配属決定かと思っていたので、この展開には申し訳なくも笑ってしまった。むろん、その後の努力を見込まれての配属だったのだろう。でもこの時の著者は、アラビア語がどの国で話されているのかも知らないレベルだったというから、決める方もなかなかにふるっている。
本書によればアラビア語は、主語に伴い文法が変化するだけでなく、名詞の性ごとに活用の違いもあるそうだ。文字は28と少ないものの、次の文字につながると形が変化してしまうし、発音も難解。しかし一番のハードルは、新聞などで使われる書き言葉のフスハーと、日常会話で使うアンミーヤという話し言葉の2種があることだという。この2つは「まったく別途の語学として勉強する必要がある」くらい、異なるらしい。つまり、1つの言語を習得するために、2通りの学習が求められるわけだ。
聞いているだけでも気が遠くなってしまうアラビア語学習だが、実のところ本書は「アラビア語の通訳者になるため」に書かれた本でもなければ、「アラビア語について解説」した本でもない。では何の本かといえば、先述の通りまっさらな状態から始まった著者の外国語習得の体験を、語学全般に対する「効率的な勉強法」として、1冊にまとめたものなのである。
そのため第2章以降はアラビア語に限らず、外国語学習そのものについて、さまざまな角度からの助言と方法論が続いていく。特に注目したいのは第3章と第4章。外国人と話す時には、まず「日本語で話す内容を考えてから外国語に置き換える」勉強法を推奨している。自分が、自分のための通訳になる……といった感じだろうか。
その上で、こんな提案も挙げている。
では、インプットとアウトプットのバランスはどのくらいが良いのでしょうか。これまではアウトプットの割合が多くても2割、下手すればゼロに近かったのではないでしょうか。しかし、これからは、インプット5割、アウトプット5割を目標に学習しましょう。
(中略)とにかく「アウトプットのためにインプットする」という考え方を徹底しましょう。
そして、勉強の仕方としては、これまでにも述べたとおり、何を話すのか(アウトプットするのか)からスタートするのです。
インプットはリーディングやリスニングを、アウトプットはスピーキングを指している。言語をコミュニケーションツールとして使うとき、自分が相手に何を伝えたいのか、そのことを前提として外国語を学び始めること、それこそが「使える語学」にたどり着くための第一歩だと、著者は力説する。
全体を通して印象に残るのは、著者の不断の努力と観察眼、そして改善力である。かつてぶつかった数々のハードルを、いかにして眺め、分析し、より良き手段で越えてきたのか。その道のりは語学の指南書としてだけでなく、ビジネス書として読んでもヒントになることがあった。そして何より、「こんな風に働けたら楽しいだろうな」という、社会人の先輩としての良き背中が、そこにはあった。読後にはどこか励まされる気持ちと、背筋が伸びる気持ち、その両方をきっと味わえることだろう。
- 電子あり
世界最難関のアラビア語を24歳になってから始め、天皇通訳、総理通訳まで務めた現役外交官が、苦難の道のりの中で編み出した秘伝の外国語習得術を惜しみなく伝授!
グローバル社会で外国語を武器にしたいビジネスパーソン、英語を一からやり直したい日本人必読の書。
第1章 総理通訳への苦難の道のり
第2章 外国語習得のエッセンス
第3章 「ネイティブ脳」より「日本語脳」
第4章 「インプット」より「アウトプット」
第5章 外国語習得の具体的メソッド
第6章 通訳のすすめ
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。
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