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美と食の天才、北大路魯山人のやきものの全貌に触れる【展覧会開催中】
■不世出の大芸術家・魯山人が生み出した陶芸とは
グルメ漫画『美味しんぼ』に登場したり、テレビドラマのモデルになったりと、マルチアーティスト北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)の名は、昭和の「美と食」を語るときにはなくてはならない存在です。名料亭として語り継がれる「星岡茶寮」を舞台に活躍した魯山人の、今年は「没後60年」。
篆刻(てんこく)から書、料理、陶芸、絵画、漆工芸……。自然礼賛を貫き、厳しい美意識で総合芸術を完璧に追い求めた巨人、北大路魯山人の作品約120点を中心に、同時代の陶芸家たちの作品、古陶磁の名品など総点数202点の展覧会『没後60年 北大路魯山人 古典復興―現代陶芸をひらく―』が、8月25日(日)まで千葉市美術館で開かれています。
そこで魯山人の代表作品を中心に、その技法や特徴を『美と食の天才 魯山人 ART BOX』(黒田草臣著)を参考に鑑賞してみました。※書籍掲載の作品は、本展に出品されていないものもあります。
染付と色絵で涼しげな魚藻文が描かれた鉢。もともとは中国・景徳鎮で焼かれた器を収集した魯山人が、その形に倣って作陶したもの。1883(明治16)年、京都・上賀茂に生まれた魯山人の50歳代の作品です。「料理と食器が一致し、調和する」のを心掛けた魯山人が、名器に学び次々と器を作り出していたころのもの。
魯山人作鮑形鉢と並ぶ巻貝形の向付は、明代の景徳鎮窯のもの。
黒、金、銀の対比が美しく、現代にもそのデザインが広く親しまれている「日月(じつげつ)椀」。漆黒の漆に丸く切った金箔と銀箔を交互に置いて、太陽と月を表しています。薄い木地に和紙を張って漆を重ねる「一閑(いっかん)塗り」の技法で、微妙なしわができてそれぞれの箔の凹凸が温かみを感じさせます。
織部の向付や湯のみ。織部は桃山時代から大胆なデザインのものが多いのですが、魯山人はさらに、三角、傘型、しのぎなどの形状を好みました。「のぞき」ともいわれる深向付の絵付にも創意工夫があふれています。
織部の浜を堂々と歩く蟹の躍動感。小さいながら魯山人晩年の代表作とされる平向(ひらむこう・浅い平型の向付)です。名古屋の料亭八勝館は、材木商の別荘として建てられ、1925(大正14)年に料亭旅館になりました。魯山人が正月を過ごしたこともあり、「魯山人料理の心を今に伝える料亭」とも言われます。
下図の俎板(まないた)皿も八勝館に伝わったものです。
細い線を伴った太い線は「子持ち間道(かんとう・縞の意)」と呼ばれる、魯山人が得意とした模様。ノコギリ状の高台が特徴的です。ノコギリ状の高台は、「紅葉長皿」にも用いられています。
皿は幅45.3cmとおおぶり。
【紅葉長皿】
鉄絵で描かれた流れの波、色絵による紅葉の散り具合や銀彩の露、竜田川の風情を勢いよく描き、四方を鋭角的に鉋で削り取った。畳付は俎板によく見られる鋸目状。
京都から琳派が江戸に移入されて粋や通といった感覚を加味したかのような妙技となった。
【右/赤呉須(あかごす)コマ筋湯呑】
粋な縞模様の湯呑。昭和14年頃の作品。本焼きされた湯呑を轆轤台に載せ、回転させながら独楽筋を描いた湯呑。一対の器でも大小によって縞模様が違う。このような小品からも、人を楽しませようとする魯山人の粋な心が読み取れる。
【左/そめつけ吹墨火入】
白抜きされた「竹林」(右)は雪景色を思わせ、「武蔵野に虫の図」(左)は夕日が沈むさまを思わせる。どちらも吹墨(ふきずみ)により浮き上がる。自然の美しさを深く愛し続けた魯山人なればこそ、このような的確な描写力を持っていたのだろう。
【伊賀四方平鉢「伊賀様」】
松灰や栗皮灰を掛けたりして、むき出しにして登窯で本焼した。明るい細かな信楽土を使うことでビードロ釉独特の濃淡が美しく出た。こうした平たい器も魯山人の独創で、四方平鉢と名づけた。今では器づくりのアイテムとしてポピュラーになったものだが、それまでの食器にはまったく無かった新しい器づくりをしたのだ。深めに抉り取ったところにたっぷり掛けた灰釉が溜まる。 元・棟方志功所持。志功は魯山人に敬意を表してこの鉢を「伊賀様(いがよう)」と名づけ、「昭和三五年五月朔佳宵祥刻」と箱書している。
初対面の場で、まるで子供のように、まるで恋人でもあるかのように抱き合って喜んだという魯山人と棟方志功。終生変わらぬ友情を持ち続けました。
展示会場では同時開催の所蔵作品展で、交流のあった棟方志功の作品も展示されています。
染付、色絵に始まり、青磁、白磁、信楽、伊賀、粉引、刷毛目、唐津、萩、志野、織部、黄瀬戸、瀬戸黒、金襴手、備前、金銀彩に至るまで幅広く作陶し、魯山人芸術の大きな比重をしめることとなった陶芸。
語りきれない破格の才能で私たちを魅了する不世出の大芸術家。そのやきものの全貌に触れると同時にその時代の陶芸家たちの成果にふれることもできるチャンスをお見逃しなく。
没後60年 北大路魯山人 古典復興―現代陶芸をひらく―
会期:2019年7月2日〜8月25日
会場:千葉市美術館
住所:千葉市中央区中央3-10-8
http://www.ccma-net.jp/
1943 年神奈川県生まれ。明治学院大学経済学部卒業。渋谷㈱「黒田陶苑」代表取締役。
〈主な著書〉
『極める技 現代日本の陶芸家125 人』(小学館)
『とことん備前』(光芸出版)
『器・魯山人おじさんに学んだこと』(晶文社)
『備前焼の魅力探求』(双葉社)
『名匠と名品の陶芸史』(講談社)
『終の器選び』(光文社)
『美と食の天才 魯山人ART BOX』のほか、料理、ファッション、ダイエット・美容など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。
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