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『漬け物大全』読んで、聖地に行ってみた。美しすぎる&珍しいヤツ発見!
(著:小泉 武夫)
ジワジワと漬け物が人類を侵略、いや、浸透してきている。いまやどこに行っても漬け物ばかり。
たとえば東京都品川区のクラフトビールの名店「クラフトマン」のキュウリとミョウガの自家製ピクルスは、ビターな黒ビールにもバッチリだ。その客層は若く、漬け物が若者にも愛される料理になっていことがわかる。
漬け物ブーム到来か?
東京都港区にある牛丼屋の名店「なんどき屋」では、自家製のミョウガやニンジンのぬか漬けが定番メニューとしてサラリーマンの胃袋を満たしている。
日本酒や牛丼、そして海苔チーズなどのツマミにもピッタリなのだそうだ。うーん、そう考えると漬け物が合わない料理なんてないんじゃあないか!? どんな料理にも合う万能料理なのでは。
さらに長野県木曽郡には、漬け物のすんき漬けの菌を使用したヨーグルト「スンキー」も作られており、植物性乳酸菌なのに動物性の牛乳で増殖する菌として大きな注目を集めているという。漬け物からヨーグルト、その発想はなかった!
漬け物とは何なのか?
文庫『漬け物大全』(著者:小泉武夫/ 講談社)は、そんな漬け物の知見を広げるにはベストな1冊と言えるだろう。普段なにげなく食べている漬け物だが、大きく2つに分類できるという。発酵させたものと、無発酵のものだ。
微生物が酸味と旨味を生む発酵系の漬け物も味わい深くて良いが、キュンと引き締まる塩気が美味しい無発酵の漬け物も捨てがたい。そもそも漬け物の「漬ける」とはどのような定義なのか? 本書には次のように書かれている。
──漬け物が「漬かる」ということは、漬ける材料が漬け床や漬け味液の中で物理化学的、生化学的、微生物学的な作用によって適当な風味に漬け上がることである──
なんとも簡素で分かりやすい説明! 吉野家でも会席でも漬け物を食べる機会はあるが、どちらにしてもそこまで漬け物の定義を考えて食べたことはない(笑)。それだけに、漬け物の基礎から種類まで、あらゆる情報を網羅した本書は非常に興味深い。
読めば読むほど漬け物が食べたくなる
福神漬け、千枚漬け、キムチ、しば漬け、奈良漬け、わさび漬け、ハタハタ寿司、いぶりがっこ……。スタバでコーヒーを飲みながら本書を読んでいると味覚的に不思議な気分になるが(笑)、それでも熱々のご飯と漬け物が食べたくなってきた。
とことん漬け物を探求したくなった筆者は、漬け物天国と言っても過言ではない秋田県へと向かった。秋田にはいぶりがっこやハタハタ寿司をはじめ、数えきれないほどの漬け物が存在するのだ。
秋田で見た衝撃の事実
東京駅から新幹線で3時間40分かけてやってきた秋田県秋田市。大根を燻(いぶ)して漬けるいぶりがっこの製造は、秋田市内ではほとんどやられておらず、季節的にも若干ズレていたため見学できなかったものの、秋田市最大級の「秋田市民市場」には漬け物専門店が複数存在するというので出向いてみた。
魚介類や肉などの専門店は理解できるが、漬け物だけ! という専門店が集中している市場は稀。それだけ需要があるわけで、秋田県民の漬け物好きっぷりは尋常ではない。
市場内部は漬け物屋だらけ! 秋田では定番であろう真空パックの漬け物から、お店の職人が手作りでパックした漬け物、そして名店と言われる老舗から仕入れた名物漬け物まで、あらゆる漬け物が並んでいる。
しかもそんなに高くない! 安いものは100円台からから、返金しても1パック200~300円台。毎日食べる人もいるだろうから、これくらいお得じゃないとダメなのか。
漬け物の新種を発見!?
なにより驚いたのが、今まで知らなかった漬け物のバリエーション。いぶりがっこは大根を原材料とした漬け物だが、なんと、ニンジンのいぶりがっこも販売されていた。
作り方はかなり手が込んでいて、国産の大根を細めの紐で結び、天井に吊るし、桜やケヤキなどの広葉樹を燃やし続け、水分ほ抜いてシワシワにする。それを米ぬかなどを使用して漬け込み、さらに味わい深いものに仕上げるのだ。
秋田名物として全国的に有名な、ハタハタ寿司にはいくつかの老舗があり、値段や量に微妙な違いがある。市場ではほぼすべての老舗店からハタハタ寿司が入荷するため、客はそこから選んで好みのブランドのハタハタ寿司を購入するわけだ。それぞれ微妙に漬け方や食感、そして味の仕上がりが違うという。
なかでも茄子と菊の漬け物には衝撃を受けた(記事冒頭の写真)。「花っこなす」や「花ずし」と言われており、茄子と菊を重ねてある漬け物で、ブランドによっては農林水産大臣賞を受賞したものもある。
菊は酸味との相性が良いため、そもそも漬け物としてのポテンシャルが高い食材。それを茄子と重ねることで、まるで美しき花のような漬け物になるのだ。唐辛子ともち米のインパクトもあり、漬け物好きなら体験して損はない味。美しすぎる漬け物、まさにその言葉がピッタリな逸品である。
漬け物を購入して食べてみた
いくつか漬け物を購入して東京に帰り、さっそくハタハタ寿司を食べてみた。容器を空けると強い磯の香りが広がるものの、なぜか嫌じゃあない。おそらく、爽やかな酸味を感じる薫りの力だろう。
美味しいかどうか説明するだけ野暮かもしれないが、『漬け物大全』を読んだ後だけに、尋常ではない美味しさだった。そう、まさにこれは、食材に対する深い情報を得ることで、味覚として美味しさを増幅させる体験。
これはやばい。いままで漬け物に焦点を当てたグルメ生活を送ってこなかったが、これからは漬け物なしでは生きていけない体になってしまったかもしれない。どうしよう。
- 電子あり
漬け物は、加工食品の中ではもっとも古い歴史を持つものであり、人間のつくったうれしい食の文化のひとつである。塩漬けから糠漬け、味噌漬け、酢漬け、粕漬け・・・などなど、日本はもちろん、世界のどの民族にも漬け物文化が存在し、漬け物なくして人類の食卓は成り立たない、と言っても過言ではない。素材も作り方もさまざまな「漬け物の世界」を、発酵学・醸造学・食文化研究の第一人者が食べ歩き、味わい尽くした1冊。
そもそも「漬かる」とはどういうことなのか、まず化学的、微生物学的に解説。そして、日本および中国ほか各国の漬け物の歴史を概観し、いよいよ、各地の名物漬け物を探訪する。
日本列島を縦断し、漬け物天国・東北地方の「がっこ」「ハタハタ鮓」「印籠漬け」、山梨の「煮貝」、京都の「酢茎」、山口の「寒漬け」、高知の「酒盗」、福岡の「めんたい漬け」、熊本の「白うるか」、沖縄の「ジージキ」……などなどを紹介。各地各様ながら、「いかなる時代にも漬け物をないがしろにしたことはない」という日本人の食生活が浮かび上がる。
次に多民族国家・中国の搾菜・泡菜、韓国のキムチ、タイの「パクドン」、タガメの塩漬け「メンダナア」、ミャンマー名物「茶の葉の漬け物」、ヨーロッパのピクルス、ザウアークラウトなど、世界の珍味を堪能。
さらに本書では、アユ・サバ・サンマなど「熟れ鮓」の不思議な世界や、くさや・このわた・からすみといった日本特有の「魚介漬け物」までを網羅する。
レビュアー
とりあえずその場に行って確かめないと我慢できないフリージャーナリスト。南アフリカから北朝鮮まで、幅広く活動中。行った先に何もなくても、そこに思いを馳せらせる。
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