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パンデミック、がん、老化にも役立つ「免疫」を正しくわかりやすく解説!
(著:吉村 昭彦)
「免疫学」を俯瞰で見よう
新型コロナウイルスが猛威を振るう様を通じ、感染症の恐ろしさを改めて実感した人も多いだろう。身の回りにウイルスや細菌が蔓延(まんえん)していることを頻繁な手洗いやアルコール消毒を行う日々の中で実感し、感染防御の要である「免疫」に対する関心も高まった。しかしその「免疫」とは何か、と問われれば、きちんと説明するのは難しい。
『免疫「超」入門 「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム』の著者であり、慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の教授でもある吉村昭彦さんは言う。
実は、大学医学部の免疫学の講義は、学生から最も嫌われている科目の一つなのです。用語がやたらたくさん出てきて覚えるべきことが多過ぎることから、免疫学は恐ろしく複雑で難解なもの、できれば避けて通りたいというという意識が、学生たちに植え付けられてしまうのです。
この本は、医学生にとっても難解な上に、日々の進歩が著しく最新の知見に追いつくことも難しい「免疫」を基礎から正しくわかりやすく解説してくれる一冊だ。読みやすく平易な文章で、私たちの体の中で何が起きているのかをスッと理解させてくれる。図を用いたり、理解を深めるためあえて専門用語を使わない箇所もありながら、人体のメカニズムについては深く掘り下げて説明されており、飽きることなく一気に読み進められる。
ウイルスをはじめとする病原体は、どのように感染を起こし、免疫はどのように働くのか。その仕組みだけでなく、これまではあまり免疫と関係がないとされてきた「がん」「脳神経疾患」「認知症」といった病気との関係についても取り上げ、現在進行中の研究の最前線にいたるまで、免疫学の「今」を俯瞰で見せてくれる。
「免疫」をカギに病をひも解く
本書の1~3章は、病原体と免疫の歴史に始まり、新型コロナウイルス感染症と人類の攻防を通じて「免疫はどのように病原体を認識し、どのように排除するのか」という免疫の基礎を解説する。このパートは、全世界がその恐ろしさを実感した新型コロナが題材となることで「自分ごと」として知識が吸収されていくように感じた。また、「プラズマ細胞」「インターフェロン」「炎症性サイトカイン」など、ニュースや雑誌で見聞きする言葉の意味も理解することができ、それが4章以降の理解を深めてもくれる。
さらに、新型コロナウイルスワクチンについても「結局、効果はどの程度続くのか」「何回打てばいいのか」から、一部の人に起きた激烈な副反応はどのような仕組みによるものか、といった情報にも触れられる。
吉村氏は「一人一人が免疫学を学び、自分の頭で合理的に判断することが重要」と言う。「重症化を防ぐ」利点(ベネフィット)がある一方、副反応のようなリスクもあるワクチンについても、そういった姿勢が求められるだろう。
後半では、免疫が自分を攻撃する「アレルギー」のメカニズムや、さまざまな病気と免疫の関連について語られる。「免疫」とは関係の薄いイメージの認知症や脳梗塞、がんなどの病気や、「老化」が免疫という視点からひも解かれていく。
必ずしも「不治の病」とは言えなくなった「がん」については、再生医療と免疫学の融合により、さらに明るい未来を見ることができるのでは……そんな希望が感じられる。
また、ノンフィクションや実話をもとにした映画や、“悪魔憑き”が登場する有名ホラーの登場人物を例に、「原因不明」と考えられていた精神疾患が自己免疫疾患だった可能性が挙げられる。さらに、日中に強い眠気が出現して眠り込んでしまう「ナルコレプシー」も怠けグセではなく免疫疾患であるという。
こういった例もまた「意外で面白い」だけでなく、「治らないもの」と考えられていた病が「治せるもの」になりえる大きな希望ではないだろうか。
免疫疾患であることがはっきりすれば、対処の方法は見えてきます。(中略)治療するには原因がわかることが重要なのです。
「免疫」を身近な知識に
現代の生命科学・医学は、免疫への理解なしに語ることはできないという。初めに触れたように、「免疫学は幅広く、覚えることも多くて、理解が大変」なのは間違いない。この本を読んでいても「こんなものにも免疫は関係しているのか」と驚くことが多かった。しかし、この本はとにかく読みやすくわかりやすい。目の前で直接語られているかのように引き込まれる。そこには「免疫学」の面白さを届けたいという、著者の想いが強く感じられる。そして特筆すべきはその知見の新しさだ。出版直前までの最新学説までが網羅されており、「免疫」というサイエンスと、その希望の光を身近に感じることができる。
- 電子あり
パンデミックによって感染症や免疫に関する情報を目にすることが多くなり、私たちの知識も増えたように見える。ただ、そこで出てきた情報は、曖昧なものや誤った情報、感情的なものなどもあり、玉石混淆ともいえる。本書ではあらためて、ウイルスなどの病原体がどのように感染を起こし、免疫がどのように働くのか、その複雑なしくみを、基本から正しくわかりやすく解説する。
また、身体を守るための免疫が、アレルギーの原因となるなど、ときには自分に攻撃的にもなるメカニズムについて解説。免疫が低い場合についてはもちろん、過剰な場合の脅威にも触れる。後半では、さまざまな病気との関連、特にがんとの関係について、期待される免疫療法を軸に展開する。
さらに、免疫は、老化と脳にも深く関わっているという研究が進んでおり、今後の医療への応用も期待できる。認知症や脳梗塞などを、免疫という視点からひもといていく。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019
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