何があってもあなたが好き
ていねいな言葉と情熱的な仕草、うるんだ瞳、そして“ある呪い”が描くのは、「何があってもあなたのことが好き」。アツい。『彼氏時々彼女』は1ページ目から最後まで目が離せないマンガです。
すごく正統派なんです。まず“秋月穂高(あきづきほだか)”が“獅子崎千颯(ししざきちはや)”に「好きです。付き合ってください」と告白するところから始まります。
ハイ、かわいい。とくに瞳がものすごいよ、ずーっと見ていたい。千颯は学園のマドンナで、どこにいても注目の的。そんな高嶺の花は穂高からの告白を受けて……?
快諾! やったね。それにしても千颯は口元も立ち姿もかわいい。でも、穂高と千颯は、お互いの姿を見る前に恋に落ちていました。
日没後の学校で停電が起こり、閉じ込められた二人。あいにくスマホも手元になく、顔も名前もわからないまま、教室で電気の復旧を待つことに。
最初は言葉なんて交わせず、衣擦れの音だけ。真っ暗闇だと耳が鋭くなるんですよね。そして唐突に始まったしりとり。たしかに暇つぶしにピッタリ。そして、しりとりは人柄が出るゲームでもあります。
ワードチョイスや攻め方に人柄が出るんです。そして穂高は千颯の声色を「いいなあ」と思ったり。この二人の他愛もない雑談が私は大好きです。ずっと聞いていたい。
見事なまでに心地良い。こういう他愛もない会話の集積こそが恋そのものなのだと思います(恋愛映画の名作はだいたい雑談がおもしろいんです、それと同じ楽しさが本作の停電エピソードにはあります)。
やがて電気がついて……!
停電前と停電後じゃ世界はまるでちがう。尊い。もうここで成仏して解散してもいいくらいだよ。……でも、この「姿を見る前から恋に落ちる」ことが、これから紹介する“獅子崎家の呪い”に効いてくるのです。
キスとかお嫌いだったりしますか?
暗闇でのおしゃべりをきっかけに穂高は千颯と付き合うことになります。やがて「はじめてのキス」の瞬間が訪れるも、未遂に終わります。
千颯の様子がちょっとおかしい。何がいけなかったんだろう?
「キスとかお嫌いだったりしますか……?」とていねいに尋ねる穂高がいじらしい。
そんな穂高の思いやりに対して、食い気味にキスへの前向きな気持ちを表明する千颯! 千颯いわく、キスによって「大事なものが変わってしまうかもしれない」ことが怖いそう。怖いから一旦はお預け。でもそんなのは長続きしないわけです。お互い好きで好きでしょうがないし。そしてついに……!
この瞬間にたどりつくまでに本当にいろいろありました。ああ感無量。でも二人が唇を重ねると不穏な気配が立ちこめ……、
千颯がずっと恐れていたことがとうとう現実になってしまいます。大事な穂高はどう変わってしまった?
少女になってる(そしてかわいい)!
“少女”になってもあなたが好き
はじめてのキスで文字通り世界が変わってしまった穂高。これは千颯の血筋に代々受け継がれてきた呪いによるものでした。
キス1回につき結構長い時間、穂高は少女になってしまいます。
今までキスをしたことがなかった千颯にとって、そんな呪いがまさか本当にあるなんて信じられず、あと穂高を大好きでキスがしたくて、試してみたら呪いがちゃんと発動してしまったわけです。
穂高に申し訳ないし、もう恋人でもいられない。穂高の前から立ち去ろうとする千颯を穂高は引き留めます。だって千颯のいない世界になんて戻れないから。
何があっても千颯が好き。少女の姿で千颯を抱きしめると、少年のときよりも顔が近いことに気がつく穂高が愛しい。やがて穂高は腹を決めます。
キスだけで女性に変異してしまうなら「それ以上」はどうなっちゃうの……?という不安はあるけれど、それがなんだっていうんでしょう。
ところで、穂高の少女タイムにはいろいろクリアしないといけない問題があります。たとえば大きな胸。ノーブラのままだと生活がちょっと大変かも。ってことで、ちゃんとしたブラジャーを買いましょう。試着は千颯が手伝ってくれます。
少女同士だけど、なんだかとてもドキドキする。ここが本作のものすごいところなんです。
「どんな姿でもあなたは最高」で、さらに「少女になったあなたも好き」にまで踏み込みます。新しい世界の恋が始まってます。最高。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori