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2023.08.15

レビュー

女子校の教師生活6年目、想像以上に面白い。職員室では浮いてるが教室では人気者!



なんと19歳の新星マンガ家による週刊連載デビュー作である。実際に読んでみると「弱冠19歳にもかかわらず」とか「19歳とは思えないほど」とかいった注釈を添える必要はまったくなく、十分に達者で垢抜けていて、なんの予備知識がなくても楽しく読ませるマンガである。一方で、描くこと自体に溌溂とした楽しさが溢れているような作風には思わず「若い!」「元気がいい!」などの感想が漏れてしまう。

確かに「現役に最も近い世代の作者が描く、女子高ライフのリアリティ」に迫った作品であること、それが本作の大きな魅力になっていることは間違いない。

舞台は埼玉県立兎山女子高校。主な登場人物は、2年1組の担任教師・水戸耕平(31歳)、そして圧倒的個性と生命力で彼を日々翻弄する生徒たち。水戸に度を越した片想いを抱く二次元・BL好きの牧田寿莉、男子よりモテる女子高のアイドル・阿部雅、運動大好きなパワーを文系クラスで持て余す吉川明音、己の可愛さと行動力をフル活用する斎藤奈琉、いつも寝ている鈴村かな穂、常に何かを食べている松野優美……慣性の法則のごとく、それぞれの個性が予想外の運動と接触を繰り返し、いつの間にか作り上げた奇想天外なシチュエーションで日常を彩っていく。



「とある女子高の日常」を描いた群像劇的コメディといえば、近年では和山やま『女の園の星』という偉大な先行作品がある。若干ルイス・ブニュエル風味の入ったシュールな語り口が魅力の同作に対し、『兎山女子高校2年1組!!』のユーモア感覚はもっと素直で、クセがない。いや、すっとぼけた飛躍や、一筋縄ではいかないキャラの濃さにあふれた会話のアンサンブルは、ありふれたドラマに比べれば遥かにクセが強いかもしれない。だが、それを感じさせない爽やかさがあるのだ。



女子生徒たちは全員可愛く、魅力的な表情が随所に描かれている。彼女たちのそれぞれにタガの外れた個性、素っ頓狂な会話の応酬も愉快に描かれるが、その真摯なエモーションを決して皮肉や嘲弄の対象にはしない(そのあたりも『女の園の星』と共通する時代感覚という気がする)。女子高生特有のイキの良さ、真摯さゆえに急カーブを描いていく言動のおかしさを、ごく自然に礼賛し愛でるような、慈愛と距離感のバランスがすこぶる心地好いのだ。連載デビュー作にしてこのキャラクター造型力、リズミカルな掛け合い、対象との距離をしっかり構築しているのは大したものだ。



クールに見えて受け身の担任教師・水戸もまた、別種の愛らしさをまとったキャラクターである。教師としての一線を保ち(何せ担当科目が倫理である)、甘さを見せないように生徒たちと接しつつ、でも結局は彼女たちの世界に引っ張り込まれてしまう……その流れに身を任せてしまうユルさがおかしい。「職員室では浮いているが教室では人気者」というキャラクターも、そういう教師が実際に人気だったという作者の観察眼によるものだろうか。

女子たちの不可思議な生態を見つめる観察者的立場でありながら、対等な目線で彼女たちと接するように努める水戸先生。それはどこか作者のスタンスとも通じるように思える。たとえばハーレム的状況に「やれやれ」と言いながら身を置く高飛車な主人公像とは本質的に違うものであり、そこが読者に疎まれない魅力になっているのではないだろうか。男性マンガ家にも勉強になる作品なのではないかと思う。

派手なドラマ展開などなくても、女の子たちの活き活きとした表情と言動、それに大のオトナが気持ちよく巻き込まれる姿を見ているだけで、十二分に楽しい。むしろ誰もが日常的光景として見過ごしているような場面にこそ、豊かなドラマの起伏があり、突拍子もなくズレた瞬間があり、天才的な言葉の応酬があるのではないか。そういう身近な小宇宙にフォーカスし、いくらでも楽しく描けてしまう作者の、作家としての「強さ」を随所に感じる快作でもある。ありきたりな言い方で恐縮だが、今後の活躍が楽しみだ。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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