年下小説家に「猫」として飼われる男
猫の前でだけは別人、という人はいっぱいいます。ふだんはどんなにクールでも、猫の前でだけはもう聞いたことのない声を出して、見たことのないような表情で猫をウニャウニャ撫(な)でまわす。可愛がられるのがお前の仕事だよと言わんばかりにトロトロに甘やかし、猫は猫でそれを「はいはーい」と受け入れる。いいなあ、完璧だ。つけいる隙がないよ。
『猫になりたい田万川くん』の“田万川(たまがわ)くん”を飼いはじめた“來生(らい)”もそんな完璧な世界を目指しているのでしょうか。
えっ、マジ猫なの? 人間じゃないかな?
「お迎え、この子にします」
田万川くんは、ある高級ホテルで働く真面目で繊細なホテルマン。日夜お客さまからの強烈なワガママに応えようとがんばっているけれど、なかなかうまくいかなくてお悩み中。
そんな田万川くんの癒やしは保護猫カフェ「ニャッスル」でのボランティア活動です。
足繁く通い、せっせとボランティアしつつ、猫を思う存分吸い込む日々。でも、猫を吸っても吸っても献身的で肩に力が入りがちな田万川くんの仕事がうまくいくわけでもなく……。
ほんと、猫みたいに誰かに甘えられたらいいのにね。
そこに現れるのが人気若手小説家の來生。
閉店ギリギリの保護猫カフェに切羽詰まった顔で飛び込んだ來生が見たものは……?
猫に埋もれた田万川くん。そして、運命的な出来事があって、こうなりました。
來生は田万川くんをお迎えするというのです。猫カフェのご主人もあらあらあら~?とか言いつつ田万川くんをトライアルで送り出しちゃう。トライアル期間中に猫(田万川くん)と來生(飼い主さん)との相性を見極めてね、ということらしい。いいシステム。
タマになった田万川くん
こうして田万川くんは來生が暮らすオシャレなタワマンへお邪魔することに。もちろん田万川くんは「こんなのおかしい」って散々思っています。でも來生のことが放っておけなかったんです。
抵抗しつつもどんどん來生のペースでいろいろ進んじゃう。“タマ”というのは來生が飼っていた愛猫の名前。タマと來生は特別な関係だったようで、あの世に旅立ってしまったタマの不在が來生には辛くてたまらないのです。で、そこで田万川くんに出逢ったというわけ。
すごい! 甘えベタな田万川くんがおとなしくなっていく……! 誰にも甘えられない頑固者の田万川くんなのに、來生は何をしたの?
どうも來生には特別な才能があるようです。すごく気持ちいいから素直に甘えちゃうらしい。こうして田万川くんの猫化は着々と進みます。しかも! まるで神様が2人を応援しているかのようなアクシデントにより、田万川くんは來生のマンションで本格的に生活することに。
來生はあくまで田万川くんを徹底的に猫扱い。たしかに家賃を入れてくれる猫はいないね。
「俺の猫でしょ?」
來生の部屋で寝起きする田万川くんは、私たちの期待以上に猫と化していきます。
役に立ちそうで立たないけれど飼い主にとってこれ以上ないはげましをくれる猫。完璧。そして來生も立派な飼い主っぷりを発揮します。
田万川くんの住処(タワマン)を用意するのも、おいしいご飯を作るのも來生。そんな飼い主の鑑のような來生の望むがまま、田万川くんは甘やかされていくのです。
田万川くんのささいな点をすべて拾っては「猫みたい」と猫判定を出しつづける來生。それにしても、こんなに田万川くんを猫にしてテロテロに甘やかしてどうするの? ここで私は猫と飼い主の関係を思い出すのです。
これこれ、いいよね。自分の猫だけがくれる癒やし。自分だけが飼い主に与えてあげられる癒やし。2人のあいだに特別な深いつながりが生まれます。ところで、これ以上の関係に発展する可能性は……? 実は2巻の予告がものすごいことになっているので、期待して待っています!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。