月曜日が待ち遠しい
「明日が楽しみ」な日の夜って最強です。歯磨きすら楽しい。明日をまるごと楽しみに待てるのは、人生で最も美しい状態だと思います。勢いがあって、みずみずしくて、少しの傷があったとしても未来が広がっていく。旗谷澄生さんの短編集『月曜日が待ち遠しくて』に収録されている物語のみずみずしさを思い出すと日常のちょっとしたことがキラキラして見えます。
そう、日常にこそ美しい瞬間はあるのだとよくわかります。
高校に入学して半年の“南”がお昼ご飯を食べたあと、昼休みが終わる前に急いで向かった先には……、
好きな男の子“牧島”と猫が待っています。
全コマがまぶしいよ。何気ないおしゃべりや仕草からこの2人(と猫)が昼下がりの中庭で育ててきた優しくて穏やかな時間が伝わってくる。題名は『中庭には猫がいて』。しかもこの作品は1ページ目がまたいいんです。
南は友達とお弁当を食べる時間も大切にしているし(飴が転がってるのかわいいなー)、「猫見に行ってくる」と牧島に会いに行く時間も大切。そして南の友達は、南が牧島を好きなことも知ってる。
好きな気持ちはすでに存在していて、友達はそれを見守ってくれていて、じゃあこの先なにか変わるのかな? そんなうずうずしたフェーズだとすぐにわかります。
さらに牧島の人となりがすごくいい。彼は教室のど真ん中にいるタイプじゃありません。昼休みにコソッとぼっち飯で菓子パンをかじるような、昼寝したら葉っぱが頭に乗っかりまくるような男の子。
こういうちょっとした会話のテンポが気持ちいい。しかも意味がある。
半年経っても友達は南だけ、そんな倍率1倍男子の牧島は、ある出来事をきっかけに環境がガラッと変わります。
陽気な教室のセンター集団に混ざってる! 南のゲンナリな顔……ここも会話が全部おもしろいなあ。南の友達の程よいテキトーさがかわいい。
髪型どころか呼び名まで「マッキー」に変わってる。南だけが牧島の名字をアレンジして「牧」って呼んでたのに! まさか、南が大切に愛(いと)おしんできた牧島のオンリーワンな美点が教室で炸裂して倍率が跳ね上がる? 毎日楽しそうなマッキーこと牧島、ああ、中庭の猫を一緒にかわいがってた南との時間はどうなっちゃうの?
よかった! 誘った! 猫も元気!
でも以前のようには話せなくて……、
ま、牧島……! 牧じゃなくてマッキーな俺に突き進んじゃうの……?
……と、熱っぽく語ってしまったけれど、これ44ページの短編なんです。日常のアップダウンと教室の中で巻き起こる小さなドラマがギュッとつまってる。それなのに余白もたっぷり感じる。南の揺れる心に自分の気持ちを重ねながら読んじゃう。
この密度の高さと心地よさは他の作品でも同じです。
叶わぬ恋をする写真部の女の子と、その女の子に告白した後輩のお話『恋は四角く切り取って』。
饒舌(じょうぜつ)なコマだなあ。ズキンとする。
高校デビューした女の子と、そんな彼女にいじわるなことを言ってしまう男の子の『永久不変のきらきら星』。
この高校で彼女の中学時代を知っているのは彼だけなんですよ……。
付き合って3ヵ月の彼氏とのふわっとした関係に悩む『きみだけに春が来る』。
転校生がめちゃめちゃ可愛くて、なによりいい子で面白くて友達になりたい。でも彼氏とも仲が良くて……ああ、いっそ悪い子だったらいいのに! わかるよ……。
どの短編も日常の心の揺れを高密度で描きます。ドラマチックで引力がとても強い。なのにふんわり優しくて、これぞ少女マンガなキラキラをお裾分けしてくれるあかるい1冊。これからも旗谷澄生さんのいろんな作品を読みたいです。楽しみにしています。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。