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2022.03.20

レビュー

西郷隆盛による西南戦争前夜の帝都──山田風太郎の「明治もの」が漫画化!

これこれ読みたかったのはコレ、お見事でございます!! というのが、読んだ直後の率直な感想です。
『甲賀忍法帖』『魔界転生』など、数々の名作を生み出した山田風太郎生誕100周年を記念して発売された『警視庁草紙 風太郎明治劇場』。

正直に言うと、原作の『警視庁草紙』は主役級の登場人物がたくさん出て来て複雑に絡み合うので、ぜんぜん頭が追いつかない!!
ところが東直輝先生は、この複雑な世界を見事に漫画で描き切っています。
もう、お見事!! としか言いようがありません。

時は明治の初め、「警視庁」が産声(うぶごえ)をあげようとしているころ。
巡査の油戸杖五郎(あぶらどじょうごろう)は夜中の墓地で、牡丹が彫られた人力俥(くるま)に乗った女と出くわします。

そこに残された「血の足跡」を追うと、ボロ屋に脇腹を刺された男の遺体が……。
奇妙なことに内側から血の付いた目貼りがされており、誰かが侵入した様子はなく、男がくるまっていた布団はびっしょり濡れている。
しかもこの男、「岩倉具視暗殺計画」の嫌疑をかけられたものの、疑いなしで無罪放免になったという。

下手人(げしゅにん)として油戸巡査が捕らえたのは、隣に住む噺家の三遊亭圓朝(さんゆうていえんちょう)でした。

当時の警察は、薩摩・会津・仙台藩の流れ者たちの組織で、世間の評判も今ひとつ。
そこで圓朝の濡れ衣(ぎぬ)を晴らすために腰を上げたのが、元八丁堀の同心・千羽兵四郎(せんばへいしろう)でした。
兵四郎は、頭良し・腕良し・育ち良しの同心でありながら、大政奉還で江戸幕府が瓦解するとお役御免となり、今は芸者の間夫(ヒモ)。

これに「半七捕物帳」でお馴染みの元御用聞き・神田三河町の半七親分と、その子分の髪結床(かみゆいどこ)・冷酒(ひやざけ)かん八が、事件の謎解きに挑みます。

こうして出来たばかりの警視庁と、それを快く思わない元同心たちとの攻防が始まるわけですが、この漫画には原作にない語り部が登場します。
それがなんと、犯人にされそうになった三遊亭圓朝。

実在の圓朝は、あまりの巧さに嫉妬され、圓朝がやろうとする演目を先にかけられる嫌がらせが続いたため、誰もやれない創作落語を次々と作った名人中の名人。

その代表作の1つが「怪談牡丹灯籠((かいだんぼたんどうろう)」で、その中の一席“お札はがし”が、この事件とリンクするようになっています。

このように『警視庁草紙』には、実在する人物が多数登場します。
征韓論に破れ東京を後にする西郷隆盛、西郷と対立した岩倉具視、大久保利通、そして江戸城無血開城の立役者である山岡鉄舟、日本で最初の大警視・川路利良など。

こうなると本当にあった出来事なのか、作りごとなのかの見分けが付かず、歴史や人物を探って行くと、思わず唸ってしまいます。
その調べる手間を省いてくれるのが、漫画だけのオリジナル「講談新聞・号外・風太郎明治紳士録」。
こりゃなんとも粋な計(はか)らいじゃぁござんせんか!!

この新聞は紳士録だけでなく、「人力車」が明治2年に3人の日本人によって発明されたこと、「駕籠(かご)」は上下に大きく揺れ、頭はぶつけるわ尻は痛いわで、乗る方も難儀な代物(しろもの)だったという話まで詳しく載っています。

実は「江戸東京博物館」(改修のため2022年4月より休館)で、展示物の人力車と駕籠に乗ったことがあるのですが、まさにこの通りで「講談新聞」の信憑性(しんぴょうせい)は疑う余地もありません!!

さらに漫画版『警視庁草紙』では、涼しげな顔をした千羽兵四郎や圓朝に対し、この時代らしい猥雑でギラギラした油戸巡査たちとの絵のギャップ、さらには浮世絵やちょっとエッチな春画まで出てきて、明治の黎明期をどっぷりと楽しむことができます。
とにかく、隅から隅までどこを見ても飽きさせない、見所がいっぱいの作品だと思います!!

警視庁草紙‐風太郎明治劇場‐(1)

原作 : 山田 風太郎
著 : 東 直輝
監 : 後藤 一信

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レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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