とんでもない漫画が始まった――。読み終わる前から、そう思いました。
とにかく心がざわつくのです!!
高殿円(たかどのまどか)氏と蛇蔵(へびぞう)氏が原作や原案を担当し、漫画家さん達がそれぞれ異なる話を描くアンソロジーは、どれもが心理描写に重点を置いているので、心にずっしりと響きます。
第1話の主人公ジェミンは小さい頃から病弱で、迫り来る死を察しながらも自分自身に嫌気がさしていました。
なんのために生まれたのかわからないまま
なんのためにもならずに…
死ぬ──!!
せめて誰かの血肉になりたい
その願いを聞いた「神器(じんぎ)」は、ジェミンを「王の器」に選びます。
国王が死去して分裂した「弍(に)の国」は150年もの間、戦が続き荒れ果てていました。
この状況を変えるには「神器」が選んだ「王の器」が北の玉座に座り、大樹王になるしかないのです。
旅の途中ジェミンは胸騒ぎを覚え、反乱軍を率いるテグシンを助けます。
実は、「王の器」は “二人”、そして大樹王になれるのは一人。
テグシンは誰が見ても王に相応しく、「テグシンを大樹王にするために生まれて来た」と思ったジェミンは、命すら投げ打つ覚悟で献身的な働きをします。
しかし、玉座を前にして「神器」が放った言葉は……、
お互いを「半身」として認め合い、強い信頼と絆で結ばれた二人が殺し合わなければ、国や民を救うことができない。こんな残酷な選択に、心がえぐられる思いです。
第2話でも、ふたりの「王の器」が選ばれます。
口減らしのために捨てられた盲目の少年 “グ”と、生きるためなら平気で人を殺す大悪党のシン。
しかし、シンがこんな人間になってしまったのには深い理由があり、それがあまりにも残虐で同情すら覚えます。
1話も2話も、国を救うために重たい運命を背負うことになった「王の器」が描かれるのですが、ラストでは希望を感じます。だからこそ余計に切なくなるのですが……。
こんな具合で、第3話は領主さまと武闘隊の一員だった女の子が、きらびやかでありながら、嫉妬や人間の業がうごめく奥の院での話。
第4話(前編)は、悪行を繰り返し高い位に上り詰めたものの、廃棄民の集落“ゴーム”で捨て子を育てながら生き延びた男が、「王の器」に選ばれた息子を擁して再び野心に火がつく話。
どの作品も、人の生死に関わることが出て来て、かなり残酷なシーンもあるのですが、それゆえに一層心に響き、生き抜くということ、生かされているということを深く考えさせられます。
そしてこれらの世界観を見事に表現しているのが、『とんがり帽子のアトリエ』で海外でも数々の賞を受賞している白浜鴎(しらはまかもめ)氏が描く、冒頭の「承前」です。
同じ世界観なのに、アラビア風だったり中央アジア風だったり、漫画家さんが変わると絵や雰囲気がガラリと変わるところも、見どころです。
第1巻は270ページほどあり、厚さもさる事ながら、内容も重厚で読み応え十分。
「神の器 九つ」。つまり九つの国があるということなので、これからどんな「王の器」が現れるのか楽しみです。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp