学生時代の男友達というのは、化粧をしていないころの素の自分をさらけ出せる心地よさがあります。
これが幼なじみだったらどれだけ心強いだろうと、幼なじみがいる人を羨ましく思っていました。
『ボクとわたしの10年恋』に出てくる佐原透(さはらとおる)は、小学5年生。高校1年の三藤渚(みとうなぎさ)とは、家が隣同士の幼なじみ。
透の両親が仕事で留守がちなことから、5歳年上の渚が何かと透の面倒を見ていました。
仲の良い姉弟のような2人の関係が動き出したのは、雷が鳴り響く夜でした。
6年前の雷のときは、1人で留守番をする透のところに渚が駆けつけ抱きしめてあげたのですが、今回は透が渚の家に駆けつけます。本当は、自分も雷が怖いくせに。
男の人は好きな女性に対し、守りたいという本能が働くようです。
一番近くで渚を守りたいと思った透は、長いこと心に秘めていた思いを伝えます。
透の告白に対し渚は……、
まあ、そうなりますよね。相手は小学生なのですから。
でも年下なのに年上のような口をきき、一生懸命背伸びをしている透が可愛い!! 小細工なしに、こんなにストレートに思いをぶつけられたら、愛おしくて仕方ないと思います。
好きと言われたら、段々相手のことが好きになることを心理学では「好意の反報性」と言うそうです。
弟のように思っていたからこそ抱きしめても平気だったのに、手を繋いだだけで前とは違う感情をもち始める渚。
それから2年後、渚が高校3年、透が中学1年になったとき、両親が居るのもお構いなしに、透はこんなことを言い出します。
弓道大会優勝したら
オレと付き合って!!
小学生の頃は年の差がさほど気にならなかったのに、中学に入った途端、1学年上の先輩がとてつもなく大人に見えた経験は、きっと誰にでもあるのではないでしょうか。
それが5歳も上となれば、とんでもない大人です。
逆に女の子からしたら同学年の男子すら子供に見えるので、5歳年下は言わずもがなですが、弓道大会で初めて見る透の袴姿にドキッとする渚。
この大会には、渚と同じ学校の山本も出場します。山本は高校の部で2連覇している実力者。
そして2年前も、渚に思わせぶりなことを言った相手です。
当然、透は面白くありません。
男の人は、ライバルが現れるとムキになる傾向があるようです!!
中1と高3で張り合うというのもなかなか見ものですが、進まない恋を動かすのもライバルの存在。
どこまで本気なのかわからない山本は、なかなか鋭いところを突いてきます。
透と付き合うということは、心地よい幼なじみの関係を手放すことでもあるのです。
弓道大会の結果を受け、透と付き合うのか、山本と付き合うのか、いよいよ決断を迫られる渚。
しかしここで透が出した結論は、男らしくて見直しました。
こういう態度を取られると、女の子はかえって好きになってしまうのではないでしょうか?
10年に及ぶ恋の話はまだ始まったばかり。とってもピュアな透と渚の心が、ゆっくりと少しずつ近づいていくのを見守りたいと思わせてくれるお話でした。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp