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2020.03.20

レビュー

中毒者続出の不道徳ラブコメ。歪で純粋なこの愛を終わらせことができない──

この「入れ替わり」は、どこへ転がるんだろう

こんなに心が忙しい「入れ替わり」ってあっただろうか。1話読むごとに「ウワァァ」と顔を覆ってしまう。こわれものがパリパリ割れる音が聞こえてくる。

自分と違う境遇の誰かに入れ替わる物語は昔から多い。たいてい以下のような要素を含みます。

・ある日突然、他人の人生を体験できる。
・入れ替わってしまったことが周囲にバレそうで焦る(たまにバレる)。
・なんだかんだで自分を見つめ直す。

入れ替わりは、他人の世界越しに自分を知る冒険譚だと思う。『この愛を終わらせてくれないか』も、ちゃんと上記の王道ルートをなぞります。でも私が知らない獣道でした。




「愛されない地獄」と「愛される地獄」が入れ替わったら? 目を覆いたくなるような痛い瞬間ばかり。なのに綺麗でしょうがない。



このマンガはどっちに転んでも痛くて綺麗。でも先が怖い。だから続きが待てない。

私の神様は同じクラスにいる

主人公の“八河柚”にとって、人気若手女優の“速水瞬”は神様。



速水瞬のグラビアが載った雑誌を発売日に即ゲットして「尊い……」と見つめる日々。しかも速水瞬は柚のクラスメイトでもあります。



神様と崇める存在が、自分と同じ制服を着て、自分と同じ教室に。夢みたい? いや、これが地獄なんです。私だったら心がもたない。

なぜなら、柚が注ぎつづける「愛」は、とうの本人である速水瞬にまったく伝わっていないから。せめて画面越しなら諦めもつくけれど、同じ空間にいるのに、自分の思いの行くあてはない。空気は湿っているのに喉は乾ききった状態です。しかも、そんな柚の視界には“ある少女”がいつも入ってきます。




“世木幸子”。いつも速水瞬の側にいる女の子。顔がかわいくて、明るくて、速水瞬が一番頼りにしている子。対する柚はクラスで浮いた存在で、速水瞬に触れることすらできません。世木幸子は柚とは正反対の存在なわけです。



柚は世木幸子が憎くて憎くてしょうがない。鬱屈が鬱屈を呼ぶよ……。

で、そんな対照的な2人が入れ替わってしまうんです。とある事件で世木幸子への憎しみがピークに達したとき、柚の肉体は昏睡状態に。そして柚の意識は、なぜだか世木幸子の体に宿ります。

うれしい、でも息ができない

柚は、世木幸子として「私の神様」である速水瞬と行動を共にします。



泣くほど嬉しいことがいっぱい。柚の反応が全てかわいい。

ところが柚は大きな矛盾に苦しみます。まず「柚自身」です。



速水瞬が世木幸子に親しく接すれば接するほど、柚の嫉妬がどす黒く膨れ上がります。でも柚は心に決めています。



この殉ずるような顔……自分が手に入れた世木幸子という「特等席」を何が何でも守りたい。それは自分のためでもあり、速水瞬のためでもある。そう言い聞かせるわけです。胸がヒリヒリする。

そして、柚を引き裂くもうひとつの矛盾は「速水瞬」そのものです。柚にとって速水瞬は神様。友達じゃないんです。



だから、入れ替わり後も柚はあくまでグラビアを拝みます。世木幸子のスマホに残っているであろう速水瞬のプライベートな写真なんて絶対見ない。見ちゃいけないし、見たくないから。

柚は速水瞬が何を思っているのかを知らないし、想像できません。恐れ多いし、知るのが怖い。でも速水瞬の側にはいたい……!

やがて柚は、かつて世木幸子が言った「誰かに愛される地獄」を知ることになります。



ファンとしての自分と、世木幸子としての自分。神様としての速水瞬と、少女としての速水瞬。ふたつの自分とふたつの速水瞬に溺れそうな柚を、美しい速水瞬はどう変えてしまうんでしょうか。この作品に出てくる全ての女の子に向かって祈りたくなります。終わらないでほしいし、終わらせてほしい。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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