夫と別々に出かけて外で待ち合わせをすると、付き合い始めの頃を思い出す。今日はなにを着ようか、靴はどうしよう。どこでなにを食べようかな。同じ家に住み、職場も同じ夫は、幼なじみのように感じる。一緒にいる時間が長ければ長いほど、その関係が心地よければ壊したくないと思う。
夫婦になっても、恋人同士でも。他人である相手を心地よいと感じるのはとても貴重で、その関係が大切であればあるほど、時々少し臆病にもなる。
小和(こより)と聖(ひじり)。ふたりは物心が付く前から一緒にいる幼なじみ。小中高大学すべて一緒で、仕事も同じゲーム業界へ。学生時代からお互いに恋人がいたりいなかったりを繰り返しつつ、親友のような何でも話せる存在でした。
大人になっても仲が良いふたり。ある日、小和は付き合っていた恋人の浮気が発覚。フラれて幼なじみの聖に愚痴をこぼしながらお酒を呑んでいると、酔った勢いで身体を重ねてしまいます。
酔いが覚めて目が覚めると、小和の隣には裸の聖が。土下座で謝る小和は、友達でいたいから「なかったことに……」と嘆願します。
酔った勢いとはいえ身体を重ねたふたり。聖は小和に「恋人になりたい」とまっすぐに気持ちを告げます。幼なじみ期間が長かったふたりが、大人になって恋をはじめる。物語は幼なじみから恋人へと移り変わっていくふたりの心や行動を丁寧に描いていきます。
人生の思い出の中のほとんどに相手がいる。心地よい関係だからこそ壊したくない。一番近くにある当たり前。欲しくて欲しくて手に入れる関係ではなく、ずっとそこにあって無意識に大切にしすぎたもの。ピュアで優しく、キュートなふたりに読者の私もキュンキュンします。
幼なじみから恋人へ。変化していくふたりを丁寧に描く
ふたりのエピソードの中でお気に入りは、小和の「お洋服決まらない事件」です。友人として出かけていたころは意識せずにいたのに、恋人になったと思うと考えすぎて服が選べなくなってしまう。恋愛初期のころ、誰しもが経験するデート前の洋服選び。相手を意識しすぎてパニックになるあの感覚。かわいいと思われたい、でも気合いを入れすぎたとも悟られたくない。
待ち合わせに来ない小和を心配して家までやってくる聖。下着姿で力なくベッドに座る小和を見つけます。どうしたのか聞くと「何を着ていっていいかわからなかったから…」と。
ふたりで照れながら、本音を話し合う。変化していくふたりの新しい見え方、接し方。戸惑いながら、心の内をさらけ出して好きな人と向き合っていきます。
幼なじみのままならずっと一緒にいられるから
小和のことはあきらめてた
聖の長かった秘密の片想いを告白するシーンです。このひとつのコマが、聖の切なさと、今、小和の恋人になるまでの時間を想像させてくれて、うるうるしました。近くにいるけど触れられない好きな人。「あぁよかった聖...…。本当によかった」と読んでいて思いました。
一緒に生きてきた時間があるから安心できる
ちなみに翌日、ふたりはもう一度待ち合わせをしてデートをします。
無事にかわいいお洋服でデートができてよかった。キラキラ笑顔の聖に癒されました。
マイペースで勢いのある素直な小和と、ゆったり優しく構えている聖。凸凹コンビだけど幼なじみとして生きてきたからこそ、全部を知っているからわかる強い絆にぐっときます。一緒にいる時間をどれだけ持てるか。どれだけ強い絆で本音が言えるか。ふたりを眺めていると、こんなに仲良しで一緒にいても、まだまだ伝え切れていない想いがたくさんあるのだと気づきます。
家族でも恋人でも。まずは信頼関係を。そして絆で繋がったら大切にするために少しずつ本音を交換する。私もふたりのような恋愛を、夫婦でも楽しみたいなと思いました。全部の時間を知っているから安心する。その尊さを大切に。幼なじみのように誰かと年を重ねたいです。
この漫画、恋愛中の人にはもちろんオススメですが、同じくらい夫婦の人・パートナーがいる人にも読んでほしいと思いました。
レビュアー
AYANO USAMURA
Illustrator / Art Director
1980年東京生まれ、北海道育ち。
日常を描くイラストが得意。好きな画材は万年筆。ドイツの筆記具メーカー LAMY の公認イラストレーター。
著書『万年筆ですぐ描ける!シンプルスケッチ』は英語翻訳されアメリカでも販売中。
趣味は文具作りとゲームと読書。
https://twitter.com/ayanousamura