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2020.01.26

レビュー

スマホアプリから生まれた正義のヒーローはオッサン? JKのしもべとなる

ただ事じゃないコメディ

読み終わったあと、なんていい「全1巻」なんだろうかと思った。そして自分の思い違いをだいぶ恥じた。『しもベえ』の世界の人々が繰り出すのは、ゲラゲラ笑えるギャグだけだと思っていたのだ。もちろん私はいっぱい笑った。



コッテリした容姿の女子高生と、



そんな女子高生に呼び出されて馳せ参じるコッテコテのオッサン。昼食どきに背脂の効いたラーメンを待ちながらゆるーく読んで笑う。そんなマンガだと思っていたし、実際そういうシーンでもこのマンガは光り輝くだろう。

でも、読み進めていくうちにちょっとただ事じゃないことに気がつくのだ。ゲラゲラ笑える世界はずっと続くのに、胸のどこかが騒ぐ。1コマも目が離せない。やがて「いい1冊だ……」と読み終わってしまった。

アプリで呼び出す「オッサン」は、ちゃんと役に立つのか?

主人公の“ユリナ”は、ある日“しもべえ”という名のスマホアプリをインストールする。こんな説明文が並ぶアプリだ。“あなたのしもべが出現!”“困った時 心の中でも口頭でも「しもべえ」とお呼び下さい”。

で、日常生活で困っちゃった時に、ユリナがなんとなく「しもべえ」と唱えると……本当に現れるのだ。ただし、現れるのは猫のロボットでも魔女でも魔神でもなく、昭和的リアリティをたたえた大柄なオッサン。



頬骨もゴリゴリだ。昭和のオッサンは、令和の女子高生の役に立つのか?

これがね、できるんですよ。例えばカフェでパンケーキを食べたあとのお会計。お金がちょっと足りない! 高校生の困り事って確かにそんな感じだ。



友達の“アキ”。お金が足りない原因を作った張本人だ。会話の端々がギャル全開で良い。630円のために「あのー、私なんだかピンチになってます」とぎこちなく念じるユリナ。そしたら!



マジで“しもべえ”がカフェに現れ、オッサンらしくズボンのポケットから小銭を取り出し、きっちり630円をテーブルに置いて立ち去る。このページの全コマが好きだ。きちっと全部おもしろい。

じゃあ、雨の時は?



めちゃくちゃストレートに助けてくれる。



しかも自分の傘は持ってない! やだな、なんかキュンとしてきた……。

恋愛では?



クソ男に二股をかけられ悔し泣きするユリナ。こんな時もしもべえは助けてくれる。しもべえがいかにしてユリナを助けたかは、読んで確かめてほしい。しもベえのことが大好きになった。

ユリナが助けを求めれば必ず現れ、ド直球な形でユリナの役に立とうと行動する寡黙なオッサン。しもべえって、何者なんだ?

たくさん笑って、とても正しい「ほのぼの」を知る

そう。しもべえとは何であるか、だ。


あまりにユリナを助けまくって(=ユリナが呼び出しまくって)、とうとうユリナのお母さんにまで認識される。っていうか家でごはん食べてるね。



不思議なアプリのチカラに悩むんじゃなくて、「こんなに見返りなしに助けられちゃっていいのかな?」と悩むユリナ。男運は今ひとつだけど、いい子なんだよなあ。



しもべえに感謝しているのに、こういう時は容赦なし。このシーンで剥き出しになるユリナの辛辣さ、なんか覚えがある……。

ゲラゲラ笑いながら、こんな風に「身に覚えのある何か」を追いかけてしまうのだ。だから冒頭でも書いたように、胸が騒いでしょうがない。でも同時に、その「身に覚えのある何か」は、私を深々と安心させる。そんなこちらのアップダウンを笑い飛ばすように事件はたくさん起こり、ユリナは必ず助けられる。しもべえは、どんな時でもユリナの呼びかけに応え、駆けつけてくれるけど……? 読み終わったあともう一度1ページ目に戻りたくなるコメディだ。「ほのぼの」という言葉が口から思わず出て「これか」と思った。ほのぼのって、こんなに面白いものなのか。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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