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2019.08.20

レビュー

“幻の昭和64年”を完全再現!? 過去が未来を侵蝕する戦慄のサスペンス

人間の脳とコンピュータネットワークが直接接続され、仮想世界をダイレクトに体験できるようになった少し先の未来。
バーチャルリアリティがいまよりもっと現実に近づいた社会で、昭和64年の東京を再現したバーチャルワールドを個人で運営している「神太郎」。バーチャルワールドの主ということは、すなわちその世界の「神さま」です。

現実ではできないことをするための場所だから、自分のアバターをイケメンにしたり、女性にしたりして思うままの体験を楽しめてしまう世界において、さらに何でもできてしまう存在です。

その世界の中であれば、何だってできてしまう。
木に引っかかった風船を取ってあげるなんてのは朝飯前で、何も無いところから風船を生み出すことだってできるのです。その気になれば、もっと。




しかし、彼は自分が作った世界で、未曾有の犯罪に巻き込まれていきます。
自分の管理しているバーチャルワールドで「思いを寄せている女性に似たアバター」の危機を救うためにアバターを消去(コロ)したときから、少しずつ歯車が狂っていって……。



現在発売中の1巻は、映画で例えるならアバンタイトルです。話の導入のうまさについ見逃してしまいそうになりますが、よく読むと違和感だらけの伏線が至る所に仕込まれています。
誰がだれなのか。
ヒロインだけど舞花ちゃん怪しくないか?とか、

何でローカルなバーチャルワールドのサーバに病院関係者と見られるユーザーが集まっているのか?とか。

連載中のヤンマガで掲載されている最新話で、そのあたりの謎の糸口が見え始めているものの、まだまだこのサスペンスの秘密は隠れています。作中でこれから語られる、仮想と現実がもつれ合って歪んでいく世界に期待が高まります。

ひるがえって我々が暮らす現実の現代の世界。作品の舞台から遡ること10年の2019年では、本格的なVRの機器が家庭用ゲーム機くらいの価格で手に入るようになり、庶民の暮らしにもバーチャルリアリティの世界がグッと身近になりつつあります。
今までテーマパークなんかに行かなければならなかった体験がVRのゴーグルを被れば自宅の椅子で体験でき、VRの世界で世界中の人とアバターでコミュニケーションが取れるサービスが賑わいを見せています。先日、脳に電極を埋め込む技術の臨床試験が始まるという報道がありました。まさに現実が物語に近づいてきているのです。

いつか、こんなことが実際に起こるかもしれない、そんな視点で物語を見ていると、技術の進歩に驚きを隠せません。
物語の舞台となっている幻の昭和64年。すなわち1989年はバブルの絶頂期でした。

日本中が浮かれている、まさに幻とも言える時代。その中でもひときわ不安定だった時期が昭和64年といえるのではないでしょうか。時は過ぎ、2029年。少し先の未来を舞台にした近未来サスペンスが本作、『神さまの恋人』です。現実なのか、仮想の世界での出来事なのか。そもそも現実とは何なのか。もうすぐ訪れる時代に、実際に起こりえそうな問題を先取りする、未来予知……のような作品なのかもしれません。

・特設ページはこちら⇒https://yanmaga.jp/c/kamisama/

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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