タイトルだけ見れば、「ああ、グルメ漫画派生の新ジャンルね」と思う人もいるだろう。だが、そうじゃない。そこじゃない。
この漫画の見所は、"お嬢様×激辛グルメ"が引き起こす官能描写にあるのだ。
良家の子息令嬢が通う恵辻学院の中でも、万願寺・ヴェトーラ・アンジェラ千景は、ひときわ輝くお嬢様。フランス人の母親譲りの金髪と、天使のような微笑みを持つ彼女は、6ヵ国語を操り、乗馬も嗜むという才色兼備。
つまりは、“誰もが振り返る完璧過ぎるお嬢様”であり、我々庶民が、中2の頃にイメージしていたであろう、「汚れなきお嬢様」設定そのままの主人公だ。
神聖なるお嬢様の千景さんは、他愛もないことで自分を責める。
「美術のモデルを務めた際にくしゃみしたから」
「アリさんの列を乱してしまったから」
等々。
そして、そんな自らに罰を与えるために、激辛料理を食す。そう、「銀河系スープカレー」「煉獄チャーハン」「暴虎ラーメン」等、お嬢様から数万光年彼方にあるはずの、庶民たちの激辛グルメを!
オーダーしただけで周囲の客がドン引きしたり、ガスマスク装着で調理しなければならないような、そんな激辛グルメを前にしても、彼女が臆することは一切ない。いや、むしろめっちゃ冷静に解説してるし……。
「二度とこの罪は犯さない」と誓いを立て、凛とした優雅な食べ姿で臨む千景お嬢様は、
はふはふしながら耳まで赤く染め、じわっ……と汗を滲ませる。真っ赤なスープに唇をぷるぷるさせ、真珠の涙をふるると浮かべる。
そして、きれいに完食した後に、信心深く呟(つぶや)く。
「マリア様、罪深き私めをお赦しください!」
と。
そう、この漫画の見所は、"汚れなきお嬢様"が耐えて耐えて激辛グルメを完食するまでの、麗しくも官能的な姿なのだ。
そんな背徳的な姿を描いても、「エロではなく、官能」という品性が保たれているのは、彼女に憧れているクラスメイトの志田さん視点で描かれているからだろう。
毎回、ちょっぴり際どいモノローグも入るが、「女子高生」「庶民」「同クラ友達」という3つの属性のおかげでセーフ! お嬢様を汚すことなく、安全圏から見守っていられるこの安心感は、仲良しの志田さんあってのものなのだ。
「辛い」は、「からい」だけじゃなく、「つらい」とも読める、Wミーニングな言葉。そして、「辛さ」は味覚ではなく、痛覚で感じるもの。
激辛グルメのつらい痛みに耐えるお嬢様をひたすら観察するこの漫画は、「純粋無垢なソフトSM」という新境地を切り開いた!?
本日の一言:「激辛グルメ界でドストエフスキー越え」