『空男ソラダン』単行本第2巻の発売を記念して、関西空港を拠点とするLCCのPeachで働く2人の現役男性CAと『空男ソラダン』の作者、糸川一成氏の対談が実現。「空を翔る男」の仕事について聞きました。
取材・文:長迫弘 写真:村田克己(本社写真部)
リアル空男たちが語る男性CAのお仕事。異業種から「華麗なる転身」も。
──今日は『空男ソラダン』の単行本第2巻発売を記念して、イケメンCAのお2人と糸川さんの対談ということになりましたが、まずは現役男性CAの目から『空男ソラダン』を読んだ感想を聞かせてください。
CA・山崎康嗣 男性CAの存在を知らなかったカケルくんが男性CAの存在を知って、入社試験に向け突き進む姿は、自分と重なるところですね。以前はCAになるなんて思ってもみなかった私ですが、入社試験に向けCAの仕事やPeachという会社について調べていくうちに、どんどん気持ちを強くしていったことを思い出します。
CA・谷一斗 私が特に印象に残ったのは新入社員研修のところです。同期の女の子と時には競い合いながら、時には助け合いながら……というのが本当に自分の訓練のときとかぶって、そのときの気持ちを思い出しました。カケルくんの会社は男性CAが1人しかいませんが、Peachは十数名の男性CAがいて、あまり男女で意識することはありません。それでも、やはり同期というのは良きライバルであり、良き仲間なんですよね。カケルくんと同期の八雲(やくも)さんの関係は今後も楽しみです!
糸川一成 貴重な感想をありがとうございます! ところで、お2人とも中途入社だとか。私はこの連載を始めるにあたり、新卒で入ったCAの方々の話は聞いていたんですが、中途で入った方の話はあまり聞けていなかったので新鮮でした。全く畑違いのところから入ってきて、戸惑いや恐怖心はなかったですか?
山崎 Peachはまだ立ち上げて6年の会社で、ほとんどがCA以外の職業からの転職組なんです。私は前職がサービス業(某テーマパーク勤務)だったので、そのスキルを生かしつつ、飛行機で旅行に行くワクワクドキドキを職業にしたらどうなるんだろうと思って。実際にサービス業の経験はすごく今の仕事で役に立っていますし、戸惑いや恐怖心より、楽しみのほうが大きかったですね。
谷 私の前職はマーケティングリサーチ業でした。ほとんど人と接することのない仕事で、どちらかというと自分はおしゃべりなほうなので、いろんな人と話ができる仕事がやりたいと思ってPeachのCAに応募しました。関西出身なので、本社が関西というところもポイントでしたね。
糸川 そういえば、今日の取材は成田からPeachに乗って関西空港に来たんですが、到着したときに機内アナウンスでCAさんが「おおきに」っておっしゃってて(笑)。ユニークだなと。フライト中のアナウンスも微妙に関西なまりがあって、私も関西出身なので親近感がわきました!
右:谷一斗(たに かずと)さん……
兵庫県出身。CA歴約6年。チーフパーサーの資格を持つ。少年時代にドラマ『GOOD LUCK!!』に影響を受ける。「カケルくんには、これからいろいろ困難や楽しいことがあると思うけど、がんばってフライトしてください」。
左:山崎康嗣(やまざき やすつぐ)さん…… 兵庫県出身。CA歴約3年でチーフパーサーの資格を持つ。少年時代に影響を受けたアニメは『新世紀エヴァンゲリオン』。自身が「共感する部分が多い」というカケルくんに「自分らしくフライトを楽しんでください」とエールを送る。
特別な瞬間に立ち会える仕事……。フライトログも喜んで!
糸川 圧倒的に女性が多いCAという仕事で、お客様からの反応は?
谷 そうですね。最近やっとPeachをお使いいただいているお客様には慣れていただけたと感じますが、新しい就航地に行くと「あ、男の人だ」という反応はありますね。
──『空男ソラダン』のカケルくんは離島便が中心の航空会社に所属していて、常連のお客さんとのふれあいも大切な仕事になっています。共感できる部分はありますか?
山崎 仙台とか福岡は1日複数便、飛んでいますので、そこでよく乗ってこられる方に「またキミだね」と言われることが増えてきました。徐々にリピーターの方がLCCにも増えてきたのではないでしょうか。
谷 到着地でお見送りしたお客様が出発地にお帰りになる際、再び機内でお迎えすることもあるので、旅行先の話をうかがったりすることがよくあります。旅の思い出としてフライトログ(フライトログブック=客室乗務員や機長に搭乗記録を書いてもらうサイン帳)をお預かりすることがあるんですが、前の記録で自分が乗っていた便だったりすることも珍しくないんです。
糸川 フライトログを求められることは多いですか?
山崎 多いですね。日付や往復地を書くだけではなく、簡単なメッセージを添えたりします。
谷 絵がうまい人は絵を描くことも。
糸川 LCCはレガシー・キャリアの航空会社よりサービスを簡略化していると聞いていたのですが、フライトログなども書かれるんですね。
山崎 LCCはサービスを簡略化するのではなく、基本料金には座席指定や機内食を含めずに安く提供して、ご希望されるお客様には別料金で対応するという考え方なんです。なので、お客様のニーズに合わせてできることをCAがそれぞれ考えて対応しています。その分、サービスの幅はむしろ広いんじゃないかと。もちろんフライトログは無料で喜んで!
──この仕事をやって良かったと思った瞬間を教えてください。
山崎 飛行機に乗るのが初めてとか、初めての海外旅行というお客様のワクワクした表情を拝見するときが、この仕事をやっていて良かったと思える瞬間です。そんなお客様に旅先の情報などをお話しして、楽しい旅のお役に立てたらうれしいですね。
谷 私は、空の上という非日常な場所で働きたかったのでこの仕事を選びました。そこはカケルくんと通じるところです。チーフパーサーになったとき、石垣便で高校時代の友人夫婦が偶然、搭乗してきたんです。僕を見て「もうチーフ? すごいな」と言ってくれたのもうれしかったですが、何よりもこの特別な空間を知り合いや友人と共有できるというのが素晴らしいなと思いました。
『空男』を手にしてガール&ボーイズトーク(?)が弾む糸川先生(右)と谷さん(中央)、山崎さん(左)。
現役男性CAがこっそり教える入社面接必勝法「カケルくんのような熱意は大事だと思います!」
糸川 そんなお話を聞いて、「自分もCAに挑戦したい!」と思う人もいるかもしれないんで、入社面接での必勝法をぜひ教えてください。
山崎 とにかく熱意です! カケルくんも熱意だけは誰にも負けていなかった(笑)。これ、とても大事だと思います。それと、個性も大事だと思うんで、自分らしさをしっかり主張することですかね。
谷 実は彼の面接に私も立ち会ってたんですよ。
糸川 そうなんですか! そのとき山崎さんはしっかり個性を主張していましたか?
谷 確かに何か引っかかるものはありました。「顔がめちゃめちゃ濃いな!」と(笑)。
山崎 顔の濃さは一番のアピールポイントです(笑)。
糸川 そうですね。素敵です! 谷さんからも面接のコツなど教えていただけますか?
谷 面接を楽しむことが大事ですね。僕自身、面接がすごく楽しかったことを覚えています。
糸川 具体的にどんなやり取りがあったんですか?
谷 面接官の方に「今から隣の人のファッションをほめてください」と言われたんです。偶然、私と同じ名字の女性だったんですけど(笑)、肌がきれいだったので、そこをほめたらうまくいって。ちなみにその女性は入社式のときに隣にいました。
糸川 すごい運命を感じるじゃないですか! 社内恋愛はないんですか?
谷 残念ながら僕たち2人にはなかったですね。でも、社内恋愛のない会社はないと思いますし、付き合ってる人もいるんじゃないですかね。食事会とかでそこに探りを入れるのも楽しみなんですけど(笑)。
CA「安全に妥協しない姿を描いて!」糸川「プレッシャーだけどがんばります!」
──今後の『空男』に期待することは?
山崎 主人公はまだまだ駆け出しですが、CAにはサービス以外の保安要員として対応しないといけない場面がいろいろあるので、そういう経験を通じて成長していくカケルくんが見たいです。
谷 CAは世間的に見てサービス要員という印象が強いと思いますが、実際には保安要員というところにしっかりと重点を置いています。CAが安全について妥協していないということを読者の方に知ってもらえるように描いていただけるとうれしいです。
──糸川さん、いかがですか?
糸川 いやー、現役の男性CAさんに読まれているのが最大の緊張ポイントですよ。期待を裏切らないようにがんばります!
Peachが発行するフリーマガジン『PEACH LIVE』の公式サイトでも対談記事を公開中です。『PEACH LIVE』のページはこちら
『ありんすじごく』でモーニングゼロ2016年12月期奨励賞受賞。
『ブラック企業新卒 座敷山童子の入社』で第71回ちばてつや賞奨励賞受賞。『空男ソラダン』で「モーニング」初登場&初の週刊連載となる。