ある日、女子高生のスマホに突然表示された「生贄投票」というアプリ。生贄に選ばれた者には、“社会的”死が与えられるという──。超刺激的WEBコミック雑誌・イー★ヤングマガジンで大ヒット連載中の、反道徳×学園サバイバル『生贄投票』。スマホ依存の現代の総SNS社会と、スクールカーストを描く、江戸川エドガワ先生にヤングマガジン担当の白木氏が制作の本音に迫った。
──SNSを題材にして、死を肉体的なものではなく社会的なものに
白木氏(以下「S」):本日はよろしくお願いします。まず最初の質問ですが、『生贄投票』はどのようにして始まったのでしょうか。
江戸川氏(以下「E」):まず、ヤングマガジンで『デスペナ』という漫画を押川雲太朗先生原作で連載をしていました。その連載が終わって抜け殻のような日々を送っていたところ、エブリスタさんから『生贄投票』の原案の小説を紹介していただき、それをもとに漫画化するお話をいただいたことがきっかけです。元々は、選ばれた人が本当に死んでしまうというお話だったのですが、漫画にしていく作業の中で、担当編集の白木さんと打ち合わせ中に「社会的死」というキーワードが生まれました。「これで新しい物語を作ろう!」と2人で盛り上がったのが漫画版『生贄投票』の始まりです。
S:それまで打ち合わせがあまりうまくいってませんでした。原案はすごく魅力的なんですが何か新しい部分が欲しいと感じていて、そこに「社会的死」のアイデアがハマった感じです。この「社会的死」というアイデアはどこから着想を得たのですか?
E:今、いわゆる「デスゲームサバイバルもの」の漫画はいっぱいありますよね。例をあげれば『王様ゲーム』とか『神様のいうとおり』とか。不条理な環境に置かれたキャラクターたちが生と死の狭間にいて、システムから脱落した人間が死に至るという設定は、面白いけれど、僕の漫画で似たようなものを描いてもそういった作品に敵わないのではないかと考えました。そこで、「実際の死と同等の罰を与える」というものならどうかと考えたのがきっかけです。
S:そこで、SNSを題材にして、死を肉体的なものではなく社会的なものにしたと。
E:そうです。前に、アルバイト先の店舗の冷凍庫や洗浄機に入っておどけた写真をアップした人達がいましたよね。その結果、自分たちの個人情報をネット上にさらされて、社会的制裁を見ず知らずの人から受けていました。その様子を見て、これはすごく怖いことなんじゃないかと思ったんです。彼らが制裁を受けるかどうかは、ネットを見ている人が決めることではないのに、そういったネット上の社会的制裁が当たり前になっている。この制裁を与えられる側と与える側という構図に前から興味を持っていて、今回の漫画に取り入れたいと思いました。
S:そういった個人情報って、ずっとネット上に残ってしまいますしね。
E:それは、ある意味その人の「死」なのではないかと考えました。これをデスゲーム系漫画のキャラクターの「死」として取り入れられないかと。
S:なるほど。そういった経緯で「社会的死」が生まれたのですね。では、この漫画を通して、そういったSNSなどの怖さを見せたいというお気持ちもあるのでしょうか?
E:SNS含め、スマホの端末を介したコミュニケーション全般の危うさを見せたい、というのはありますね。
ある日、前触れもなく突然始まった「生贄投票」。なぜ? どうして? という疑問を持つ猶予もなく残酷に進んでいく。
「社会的死」とは、生きているすべての人間、誰もが持ちうる「隠しておきたい秘密」。
──美奈都に今の自分の内面を投影したら……
S:ちょっと質問を変えますが、作品の中でおすすめのキャラクターはいますか。
E:まず、主人公の今治美奈都です。生贄投票というゲームをうまく切り抜けてみんなを助けるだけのキャラクターにはしたくありませんでした。もっと人間的で、失敗をして落ち込んで、事態を何も変えられないような無力な人間として描きたいと思いました。
S:確かに、挫折するシーンが多いですね。
E:最初からこのように描こうと思っていたわけではありませんでした。ただ、描いていくうちに美奈都の内面が自分とリンクしてきたんです。僕自身、人生の中のいろんな問題を改善・解決できませんでした。美奈都に今の自分の内面を投影したら、描いていてある種の爽快感というか、シンパシーを得られました。
S:そんな美奈都ですが、幾度となく『生贄投票』に挑んでいます。スクールカーストの最下位という位置から始まりはしたものの、クラスの中での立場・役割も変わった。読んでいて楽しいキャラクターですし、僕も感情移入してしまいます。他にもおすすめのキャラクターはいますか。
E:渡邊弘樹ですかね~。
S:1巻に登場した、江留巌の腰巾着のような人物ですね。
E:そうです。はじめは江留巌という登場人物の取り巻き以外の役割は何もなかったのですが、話が進むにつれて生贄投票のゲーム性も変化していき、彼のキャラクターにもそれに合わせて深みが出てきました。人間のエゴ・欲・弱さに忠実になってきたんです。描いていて楽しいキャラクターです。
S:一番生贄投票を楽しんでいるのはかも渡邊しれないですね。
E:強い人に対してはすごく弱いですし、弱い人間に対してはすごく強気。表情も描いていて楽しいです。
S:確かに、最近特にゲスさに磨きがかかってきてます。(笑)
E:そうですね(笑)ある種活躍してほしいキャラクターです。
これ以上の犠牲者を増やさない為にも(自分の秘密を明かさない為にも)クラスメイトが一丸となって、投票を回避しようと模索するが……。
手を変え品を変え追いつめてくる生贄投票。「犯人捜しゲーム」には、今治美奈都や渡邊弘樹の名前も。
──僕自身、超常現象は信じていない
S:今後の展望について教えてください。
E:ずばり、犯人に迫ります! 王道のデスゲームもの、サバイバルものの漫画は、システムの成り立ちについて、呪いや幽霊などを使って絶望感を作り出し、ゲームとしての面白さを追求している。一方、『生贄投票』にはシステムを作りだした犯人がきちんと存在します。僕自身、超常現象は信じていないので。(笑)
S:ゲームに挑むだけでなく、犯人を探す面白さがあるんですね。
E:はい。犯人が幽霊、呪いだということは一切ありませんので、ご安心ください。
S:最後になりましたが、イー★ヤングマガジンの読者の方々へメッセージをお願いします。
E:クライマックスにむけて、生き残っていくキャラクターたちの行動、想い、裏切り、人間のエゴを明確に描いていくので、それを楽しんでほしいです。主人公の美奈都が最後に辿り着く景色、それを見て彼女がどう感じるのかを、読者の皆さんに伝えていきます。僕も楽しみながら描いていきたいと思います。
ちばてつや賞ヤング部門において佳作を受賞後、2013年より「ヤングマガジン」にて『デスペナ』(原作:押川雲太朗)を連載。現在も押川氏とタッグを組み、「近代麻雀」にて『LOST 〜失踪者たち〜』をシリーズ連載中。