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2016.10.21

インタビュー

史上最悪の美少年殺人犯 vs. 女刑事──『ライフ』すえのぶけいこ最新作!

壮絶ないじめと戦う女子高生・歩の姿を激しい筆致で描いた『ライフ』。その作者であるすえのぶけいこ先生の最新作『ライフ2 ギバーテイカー』の1巻が発売された。高校生の時に妹を殺された女刑事・樹と、加害少年ルオトの戦いを描く本作は、連載開始から多くの話題を呼んだ。ほとばしる熱量で漫画を描き続ける、すえのぶ先生ご本人に話をうかがった。

『ライフ2』

また『ライフ』のような戦う主人公を

――『ライフ2 ギバーテイカー』ではなぜ少年犯罪と被害者家族を題材に選んだのでしょう?

すえのぶけいこ先生(以下すえのぶ) はじまりは担当編集さんから「また『ライフ』のような戦う主人公を描きませんか?」と声をかけていただいたことでした。主人公が戦う状況を色々考えているうちに『ライフ』の頃から興味を持っていた少年犯罪と被害者家族の話を描きたいと思うようになりました。事件を起こした少年たちが反省しているのかと考えた時、疑問に思うところがあったんです。

『ライフ2』
『ライフ2』

『ライフ』の魂を受け継ぐ

──『ライフ』と『ライフ2 ギバーテイカー』、どちらも芯の強い女性が主人公です。なぜ強い男性ではなく女性を描き続けるのでしょうか?

すえのぶ 昔から映画でも漫画でも、何かと必死でたたかっている女性キャラが好きでした。私は九州出身なのですが、九州には“九州男児”って言葉があるように、男性が強く主張する文化があるんですよね。男らしくてかっこいいなと思う一方で、そんな周囲の強い男性たちに対して「負けんばい!」って気持ちを子どもの頃から抱えていて(笑)。女性主人公を描き続けるのはきっと今でも私の心の中に強い女性に対する憧れと、女だってやるときはやるんだぞ──みたいな闘志が潜んでいるからかもしれません。

──『ライフ2 ギバーテイカー』では、主人公の樹が誰よりも走って動いて汗を流しながら捜査にあたっている姿が印象的です。クールな頭脳派刑事ではないですね。

すえのぶ 何かの問題に対峙したとき、頭を動かしてスマートに解決する人よりも、真正面からぶつかりにいって泥臭く戦ってしまうような人に惹かれます。作中では樹はスーツを着ていますが、イメージは土ぼこりに汚れてボロボロになったタンクトップを着て走っている感じですね。

『ライフ2』
『ライフ2』

──ただ、樹は熱いだけではなく理性的な面も持ち合わせており、『ライフ』のヒロイン・歩とはまた違った印象を受けました。樹というキャラクターはどのようにして生まれたのでしょうか?

すえのぶ 『ライフ』の時はとにかく必死で、身を削るようにして漫画を描いていました。当時私はデビューしたばかりで、読者の方が急増してゆく状況が嬉しい半面怖かった。でも自分を追い込まないと『ライフ』のような作品は描けないのでは、という気持ちもあって、殻に閉じこもるようにしてとにかくがむしゃらに描き続けていました。そしたら『ライフ』終了後、燃え尽きたように漫画が描けなくなってしまったんです。1年くらいかけて徐々に回復してゆきましたが、それでも人が苦しんだり血が流れたりするお話にはなかなか取り組めない時期がありました。今になってやっと当時のことを少し俯瞰的に見れるようになり、樹のようなキャラクターが生まれたのかなと思います。
とは言いつつ、安穏としてしまっては漫画は描けないし、ハングリー精神を手放すつもりもありません。『ライフ2 ギバーテイカー』は前作と主人公も環境も舞台も違いますが、“戦う主人公”という根底に流れている魂は同じ。あえてタイトルに『ライフ2』と謳(うた)ったのも、そういった意図があるんです。

『ライフ2』
『ライフ2』

殺人という行為を否定していく

──『ライフ2 ギバーテイカー』では敵役・ルオトのキャラクターも強烈です。

『ライフ2』

すえのぶ ルオトは未だに底が見えません。一応キャラクターづけはしているのでどう育ってきてどう考えるのかという設定はあるのですが、私自身もわからない未知の部分が多い子です。ネームは彼と対話をしながら進めていくのでライブ感がありますね。絶妙なタイミングで絶妙な良い笑顔をした時は、彼の行動は全部が全部計算ではないのかもしれないと発見があるくらいなんですよ。

──ルオトしかり『ライフ』の愛海しかり、すえのぶさんは悪役キャラを徹底的に悪役として描いてます。やることなすこと容赦がない。

すえのぶ 性善説にたって「悪者だっていろんな事情を抱えている」「実は良い部分もある」と考えたくなる気持ちもあります。でも、実際世の中には救いがないくらい酷い人というのが存在する。普段はあまり意識していませんが、私の心の根底の部分に「人間は残酷な生き物だ」という構えがあるのだと思います。だからこそ、そんな絶対的な悪に立ち向かっていく主人公を描きたいんですよね。
『ライフ2』では基本的に樹がルオトに対して“刑事として”真っ向からノーと言っていく、バトルの構造で物語は進んでいきます。「どんな理由があろうとも殺人は許さない」という信念を持って樹は戦い続けます。

──『ライフ2 ギバーテイカー』は『ライフ』の魂を受け継いでいるとのことでしたが、“ギバーテイカー”という言葉も印象的です。これにはどういった意図があるのでしょう。

すえのぶ 私がこの言葉を知ったのは、桶川ストーカー殺人事件など多くの未解決事件を追っている記者の清水潔さんのツイッターでした。《ギバー=与える者》、《テイカー=奪う者》という言葉がすごく印象的で。今、本編では樹がギバーでルオトがテイカーの意味合いが強いですが、これがひっくり返る可能性もあります。人間は誰しも誰からか何かを奪い取りたいという欲望を持ったり、共有したいという希望を持ったことがあると思うんです。対立の関係でありながら、ひとりの人間の中に同時に存在しうる二面性を表している言葉でもあると感じ、タイトルにつけました。

『ライフ2』

すえのぶ 今後も少年犯罪や被害者家族といった重いテーマを扱うことの責任は真剣に考え、真摯に向き合いながら描いていきたいと思っています。この作品を読んでこういった社会問題について少しでも考えてもらえたら素晴らしいことですが、まずは純粋に、ハラハラドキドキしながらエンターテイメントとして楽しんでもらえるような勧善懲悪ものを描くのが目標です。読者の方にもシンプルに漫画として楽しんで読んでいただければうれしいです。《命》、《生活》、《生きること》など、たくさんの意味を含んでいる『ライフ』というタイトルを大切に、私自身もそれに向き合いながら、頑張っていきますのでどうぞよろしくお願いします。

『ライフ2 ギバーテイカー』は「月刊アフタヌーン」で絶賛連載中。日本を震撼させる大事件は6年前に起こったひとつの少年犯罪から始まった。犯罪被害者である女刑事の戦いが始まる! コミックス第1巻は発売中だ。

(取材・文/松澤夏織)

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