9月10日に劇場版の公開を控えた『四月は君の嘘』。その作者である新川直司先生の最新作『さよなら私のクラマー』の1巻が8月17日に発売されるのを記念して、「四月は君の嘘&さよなら私のクラマー公式ツイッター」でおなじみの、担当編集エディさんとシローさんにインタビュー。映画キャスト決定時の裏話や新作にこめた先生の思いなどをうかがいました。
──序盤はなかなか人気が上がらなかった
──『四月は君の嘘』は2014年のアニメ化に続いての映画化です。連載当初から手応えなどはあったのでしょうか?
担当編集シロー(以下 シロー):担当としてはあったんですが、連載当初は人気が上がってこない時もあり、ヒヤヒヤしていました。
担当編集エディ(以下 エディ):僕たちは面白いと思ってやっていましたが、連載していた「月刊少年マガジン」という雑誌の特徴として人気が出るまでに時間がかかるんです。「マンガ大賞」にノミネートされて手にとっていただく機会が増えたのはありがたかったですね。実は映画自体のお話をいただいたのはアニメが放送されるよりも前で、映画のプロデューサーの方曰く、だいぶ前からヒロインの宮園かをり役は広瀬すずさんに!とオファーしていたそうです。すごく熱い方で、映画にかける思いの大きさを感じました。
シロー:僕はキャストが決まった時「広瀬さんかわいいね」って新川先生と盛り上がったことがすごく印象的でしたね(笑)。
──新川先生は映画にはどのように関わっているのですか?
シロー:新川先生は「つくっている人が納得しているならそれで良いです」というスタンスなので基本的にはお任せしています。時間的な問題でライバルたちとのお話を削らざるを得ませんでしたが脚本のチェックは先生もされていますし、公生くんとかをりちゃんの恋模様を中心に原作の大切なエッセンスはしっかり詰まった作品になっていると思います。
エディ:演奏シーンは専門の方が入っていて音楽と指の動きをしっかりと合わせるなど細かなところまでつくりこまれていると感じました。
シロー:音楽好きのエディさん絶賛ですもんね。
エディ:エキストラで出演させて欲しいと思いました。この頭だと目立ちすぎるからダメだったけど。
シロー:ああ、光っちゃいますからね(笑)。
エディ:主演のお二人の練習具合もすごいですよ。クランクインの半年以上前から毎日練習していて普通に弾ける部分もあるくらいで、広瀬さんはバイオリンの練習をしすぎて腕が肩より上に上がらなくなってしまったと聞きました。あと映像が本当に美しくて。
シロー:マスコミ試写にお邪魔した時、ライターの女性が顔をグッシュグシュにして泣いていて手応えを感じました。『L♥DK』の渡辺あゆ先生も泣いたっておっしゃっていて、かくいう僕もホロリときました。
エディ:他部署にクールで有名な知り合いがいるのですが、その人が泣いたって聞いた時はびっくりしましたね。
シロー:こういうとお涙頂戴映画のようですが、そもそも『四月は君の嘘』は新川先生が「エディさんを泣かす!」と宣言して始めた漫画なんですよ。その目標は達成されたんですよね、エディさん?(笑)
エディ:そうなんです。長年漫画編集をやってきましたが、きちっと絵が入っていないネーム(下描き)を見て泣いたのは初めてです。
シロー:あともう一つ、先生から最初に出されたコンセプトが、少年漫画の文法と画風の中で少女漫画をやりたいということだったんです。原作で描かれている少女漫画のような繊細な雰囲気は映画にもしっかり盛り込まれているので原作ファンの方もアニメのファンの方も楽しんでもらえる内容になっています。ぜひ見て欲しいですね。
──女子サッカーに未来はあるのか?
──『四月は君の嘘』は少年漫画で少女漫画をということでしたが、主人公は男の子でした。対して『さよなら私のクラマー』は題材が女子サッカーで、登場人物もほぼ女子です。これだけ真っ直ぐに女子スポーツを描いた漫画は珍しいように思うのですが、なぜ今女子サッカーなのでしょう?
シロー:『君嘘』の連載が終わった時、新川先生から「思いっきり動きのあるものを描きたい」という話があったんです。先生ご自身が仕事場でいつも海外サッカーやJリーグを流しっぱなしにしているほどサッカー好きなのでサッカーものをやろうかということになったのですが、男の子を描くと自分に似てウジウジしちゃうから女の子を主人公にしたいと(笑)。あとは『四月は君の嘘』の前に『さよならフットボール』という男子に混じってサッカーをしている女子の漫画を描いていたこともあって、女子がサッカーを続ける困難さを知っていましたし、それを応援したいという気持ちがあったようです。
エディ:執筆にあたって高校女子サッカーやクラブチームの取材をさせてもらいましたが、環境が男子と雲泥の差でした。東京のクラブチームでさえ更衣室もないような河川敷で練習していたりして。
シロー:クラブチームといってもお金が沢山あるわけでなくて商店街など皆で応援している感じだったりします。
エディ:ある有名校に取材に行った時、スカウトが来ていたんです。話を聞くと「日本にいても未来はないから卒業したらアメリカに行かないか」という誘いで。
シロー:有名校にいるくらいだから皆めちゃくちゃ上手いんです。でもこの中の何人がサッカーを続けていけるのか、プロになって食べていけるのかと。なでしこリーグでプレイしている選手の中でもプロ契約をしている人は一握りで、レジ打ちをしながらやっている人もいるくらいですから。
弱小高校の女子サッカー部で青春をかける選手たち。しかし現実は甘くない。
シロー:と言いつつ、難しい問題提起をし続けたいわけじゃないんです。先程お話したように、あくまでもサッカーに情熱を傾ける女の子たちのスポーツ漫画を描きたいと先生はおっしゃっているので、入魂の試合シーンは必見です!
エディ:敵チームの久乃木学園の選手が放った無回転シュートはすごいですよね。スポーツの一瞬が切り取られた感じがあった!
刺すように鋭いシュートを読者も体感出来るワンシーン。「新川先生の絵が動きがあるということは知っていましたが、これはやられました!」
エディ:あと、男子サッカーは個人のプレイによる部分も大きいけれど、女子サッカーはフィジカルのぶつかり合いが少ない分連携で魅せる部分も多くてパスサッカーの楽しさを感じられるなと思いました。その中でチームの色があるのも見所だと思うんですよ。とにかくキャラクターが多彩で彼女たちのやりとりがとても面白い!
シロー:『四月は君の嘘』の初期から比べると格段にキャラクターを描くのが上手くなった!! 絵見ちゃんは今でこそかわいいですけど、一番最初にラフを見せてもらった時ヘビ女かと思うくらい怖かったですから(笑)。
エディ:かをりちゃんもなかなかデザインが決まらなくてねー。今は全然そんなことない。毎回新しい子が出るたびに、「あ、かわいい」っていうファン目線で見てしまうんです。
──いわゆる男性ウケするかわいさだけでなく、10代の女の子が一瞬見せる爽やかな色気、女子だけでいる時にでるガサツさなども描かれていて、同性から見てもリアルだなと思いますし好感が持てます。
シロー:女子高生らしい言葉遣いやノリといった日常パートの青春感もとっても楽しいですよね。『さよなら私のクラマー』を読んで、あらためて女の子を描くのが上手いな〜と思いました。上手すぎて新川直司=女性説が出たくらいの方ですしね(笑)。
エディ:先生曰く「その人の一番カッコ良い姿を描いてあげたい」のだそうで、それは『四月は君の嘘』から一貫しています。僕は、先生が「君たちは美しいんだよ」と言っているように感じるんですよ。負けたチームのキャプテンが泣きながらボールを蹴っているシーンとか本当に美しくって。
頑張った先に未来がないとしても、二度と戻ることがない今を懸命に。
──この先輩はいわゆる脇役ですが、そういったキャラを含め、ひとりひとりしっかり描いていくということですね。
エディ:『君嘘』の読者の方が熱狂した感情を刺激されるカッコ良いシーンが『さよなら私のクラマー』にもたくさんあります。皆カッコ良くてかわいいし、魅力的なので一人は推しメンが出来るはずです。
──「自分がこの子が好き!」と話したりするにも楽しいですね。
エディ:ちなみに僕は久乃木学園の2年生・梶さんが好きです。美人さんなんですよ〜〜。
シロー:僕は『さよならフットボール』の主人公だった恩田さんです。恩田さんに関しては先生の狙いもあって、出てくることをずっと秘密にしていました。昔からのファンの方へのサプライズとか、読者の方が驚くような伏線を張るのが先生はお好きなのでそんな楽しみもあると思います。
──とても楽しみです! 最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
エディ:インチキっぽくて競馬雑誌ばかり読んでいる深津監督を含め、登場人物全員に物語があります。これからひとつひとつ描かれていくので、真剣にスポーツするかわいい女子たちを応援しながら女子サッカーに情熱を傾ける人々の物語を読んでもらえたらうれしいです。
シロー:『四月は君の嘘』のファンの方も楽しめる青春感がありつつ熱血が入った漫画だと思うので、男の子も女の子も、年齢問わず楽しんでいただけると思います。是非『さよなら私のクラマー』、そして『さよならフットボール』も読んでいただけたらと思います。
(文:松澤夏織)
完結から1年半、待望の短編集8/17(水)発売!! 『四月は君の嘘 Coda』
全5編が収録された“珠玉の短編集”! あの感動が、ふたたびよみがえる──。