コミックスを手に取ると、まず表紙の半分を覆っている大きな帯が目に付く。薬局で処方される薬の袋を模して、そこにはびっしりと、使用上の注意事項や効能が書いてある。小さな文字に目を走らせると……
「現代の漫画はマニュアル化が進み、一般人が読んでピンと来るものが少ない上、出版点数が多く、何を読んでいいか、わかりにくくなっています」
「誘爆発作は、漫画離れをした人でも漫画マニアでも、読めば楽しめる良質のドラマや映画のような作品です」
「次の人は熟読しないでください。心臓に疾患があり動悸動悸(ドキドキ)が身体に悪い人。」
と、マンガ業界そのもののあり方に疑問符を叩きつけながら、作品が持つ揺るぎない魅力が堂々とアピールされていた。
新人の単行本なのに随分と挑発的な売り出し方だなあと思いながら、ページをめくる。主人公はふたりおり、そのうちのひとり・真咲が眠っている間に涙を流し、「悲しいことは何もないのにすごく悲しいの 胸が痛い 苦しい」と訴える場面から物語は始まる。実は彼女の心臓は見知らぬ老人の男・武藤とシンクロしており、毎日深夜0時から1時までの1時間、彼らはテレパシーで会話することができるのだ。武藤は心臓病を患っており、「もし俺の心臓が止まったらどうなる…? 君のも止まるぞ」と、このドラマが進んでいく上でキーとなる前提条件が提示される。まったく異なる環境に暮らす世代も性別も異なるふたりが、胸に同じ爆弾を共有しながら、絆を深めていく。
真咲は幻覚や幻聴に悩まされているが、武藤の存在を認識したその日、自宅のバスルームで女性が惨殺されている現場の幻影を見る。一方武藤は、20年前に失踪して行方がわからない一人娘・市江の影をずっと追っていた。ふたりは真相を究明すべく、容疑者の自室に侵入する計画を練るが……。とにかく終始、息をつかせぬ展開にこちらの心臓も誘爆させられそうになる。最新5巻では高速道路を逆走してのカーチェイスなど、マンガならではの突拍子もないシーンもあるが、とにかく先が気になってアドレナリンが分泌され続けることは必至。通読すると、帯の挑戦的な宣伝文句が、決して誇大広告ではなかったと思わせられる。わずか数日間の出来事を描きながらすでに5年間も連載されている本作だが、今年出る6巻がいよいよ完結巻。過激な表現の規制が強まる一方で『進撃の巨人』などショッキングな作品が大ヒットしている昨今、「何か刺激が欲しい」と考えている人には間違いなくおススメできる1冊と言えるだろう。
作者・岡村星は今作が本格連載デビュー作とは思えないほどの実力の持ち主。しかし巻末のおまけマンガでは、編集者が作成したコミックス帯に「読む前からハードル上げすぎでしょ!! もうマンガ描きたくないよう!!」と悲鳴をあげる姿が赤裸々に描かれている。骨太な作風と好対照なそのかわいらしいキャラクターに、ますます目が離せなくなってしまう。
レビュアー
ライター・編集者。特技は過去にあった出来事の日付をいちいち覚えていること。好きな焼き鳥は砂肝。