転生してチート能力を失った主人公を襲う、少し羨ましい“前世の因縁”
転生先の世界で、勇者一行の快進撃を「奇跡の力」で支え、最後の魔王との対決で、魔王の自爆攻撃のダメージを一手に引き受けて命を落とした男である。
共に魔王を討伐したパーティ、特にトワに重すぎるほどの愛情を寄せ続けていたエルフやサキュバスの涙に見送られながら、その人生を終えたトワ。しかし10年後、トワは自らが「英雄」として語り継がれている同じ世界に、無力な赤ん坊として2度目の転生を果たす。
生まれ変わったトワは「奇跡の力」を失っており、転生直後に森の中に捨てられてしまう。さらに、捨てられて間もなく野犬に襲われ、命の危険にさらされる。そこを救ってくれたのは、次世代の夜の女王と称される美しいヴァンパイア、アストレフィア・ラインストール(フィア)だった。
フィアは自らが救った赤子に運命を感じ、「将来の旦那様」として強烈な愛情をもって育て上げることを誓う。と、同時に前世のトワに激しい愛情を向けていたエルフのセレンとサキュバスのリリスの二人は、“身体の芯の衝動”でトワの転生を感じていた。
誓婚の光輪(ブライト・オブ・エンゲージ)。
魔族の女性にのみ現れる、運命の恋人を見つけた証。
光の輪は、ときに想い人をたぐり寄せ、またときには発症した者を錯乱させる。
トワの転生から10年。修行を続けてレベルを上げ、母親であるフィアとともに王都・ルカで暮らし始めたトワは、思い出の場・冒険者のギルドでサキュバスのリリスと思わぬ再会を果たす。
そこから止まっていた時計の針が逆回転するかのように、トワの運命が動き始める。
終わったはずの英雄譚の続きが今、紡がれ始めた。
ヒロイン全員、もはやメンヘラ……。狂おしいほどの執着が行きつく先は?
この二つの要素は、現代のファンタジー作品においてもっともポピュラーな要素であり、必然的にレッドオーシャン化したジャンルであると言える。
しかし本作は、一般的な「転生ハーレムもの」とは少し異なる、大きな要素が一つある。
一般的な「転生ハーレムもの」の多くは、主人公がチート能力を駆使してヒロインたちを次々と救済し、自身の陣営に引き入れていく「能動的な獲得」のプロセスが描かれている。主人公は絶対的な強者であり、ヒロインたちの庇護者である。
しかし本作の主人公であるトワは、かつて魔王から仲間たちを救って命を散らした英雄でありながら、二度目の転生である今回は奇跡の力を失っており、無力な赤ん坊(のちに少年)として転生する。
彼はヒロインたちを「守り、救う」側の絶対的な強者ではなく、徹底してヒロインたちに「守られる側」の弱者として、世界に放り出されているのである。
本作のヒロインであるヴァンパイアや、前世の仲間であるエルフ、サキュバスたちは、全員が主人公を凌駕する強大な力と地位を持っている。主人公が能動的にヒロインを攻略していくのではなく、すでに完成された強者である人外の美女たちが、いたいけな少年に向かって庇護欲と執着を剥き出しにして迫ってくる。
この「おねショタ」的な構図を採用することで、従来の「都合よく女の子を侍らせる」ハーレム展開とは異なる、主人公がヒロインたちの愛情に呑み込まれそうになる被支配的で甘美な緊張感が生まれている。
そしてこの設定を強烈に後押ししているのが、公式の煽り文句にもある「ヒロイン全員愛が重い」という、心理描写の生々しさである。通常のラブコメにおけるヒロインの「恋心」とは、もはやレベルが違う。本作のヒロインたちが主人公に対して抱く感情は、もはや「執念」や「狂気」に近い。彼女たちの愛情の根底にあるのは、前世で自分たちを守るためにトワが死んでしまったという強烈な「喪失感」と「トラウマ」なのだ。
また、「二十年後の同じ世界」という舞台設定も特殊である。異世界転生ものの多くが過去のしがらみを断ち切る「異世界への転移」によって、都合の良い人間関係のリセットを行うのに対し、本作は前世の因果がそのまま現在の主人公にのしかかる。
かつての仲間たちが、自分を失った後の20年間をどう生きてきたのか。その地続きの時間と後悔の念がヒロインたちのキャラクターに深みを与えており、読者は彼女たちの重すぎる愛情に納得せざるを得ない説得力を感じることになる。
「転生ハーレムもの」という一見ベタなパッケージを被りながら、その内側に「喪失からの再生」と「狂おしいほどの執着」という重たいテーマを隠し持った劇薬、というと言い過ぎだろうか。お約束の展開を期待して足を踏み入れた読者も、ヒロインたちの「愛の重力」に囚われ、いつの間にかこの少し歪な関係性から逃れられなくなりかねない。いろいろな意味で「危険な作品」に感じてしまう。
仲間を守って死んだら二十年後の同じ世界に生まれ変わった件……でも俺、転生二回目なんだけど?(1)
著 : 樋野 友行
原作 : みょん
その他 : ひやしみらの








