学園ものBLゲームの悪役令息・“アーサー”に転生した普通の男子高校生・“田中”が、自分の生命と名誉を守るべく悪役に徹する『愛してほしいのは俺じゃないのに! ~BLゲームの悪役令息に転生したのに嫌われなくて困ってます~』は、タイトルの通りアーサーが全然嫌われない。嫌われようがないのだ。
BLゲーム『ラブファンタジア』の主人公・“クリス”にいじわるをするべく茂みからニュッと現れたアーサーだが、表情から性格の悪さが少しも感じられない。そう、彼はとてもいいやつだった。
せっかく貴族に転生したのだし、いいやつのまま生きていけばハッピーなんじゃないかと思うが、そうもいかない事情があった。
ゲームの主人公のクリスが、どの“攻略キャラ”と結ばれるかによって、アーサーの運命は変わる。よりどりみどりの攻略キャラだが、アーサーに用意された末路のバリエーションは散々で、処刑されたり監禁されたり陵辱されたり……! 美形悪役の宿命だろうか。で、いくつもの悲惨なエンドのなかで一番マシなのが「“第一王子・ルーカス”と主人公がくっつく」結末。これならアーサーは敗北宣言をすればいいだけ。もともとBLゲームで大優勝するつもりなどサラサラない田中にとって、敗北宣言なんて痛くもかゆくもない。
だから田中ことアーサーは、クリスとルーカスをくっつけようと暗躍する。
ちなみに転生前の田中は、『ラブファンタジア』の熱心なプレイヤーではなかったが、一応は世界観や各キャラクターを知っていた。彼の姉がゲームのファンで、なんだかんだ遊んだことがあったのだ。姉に言われたからといって素直にBLゲームで遊ぶ弟は、いいやつだと思う。
もし田中の姉が転生していたら、誰と誰をくっつけるかなんてチョロい話だったかもしれないが、転生したアーサーはあやあふやな知識で学園内を駆けずり回り、クリスとルーカスを全然くっつけられない。このうまくいかない感じが楽しいBLコメディだ。
仲を取り持つつもりがクリスの中でルーカスへの好感度が下がりまくり、逆にアーサーが好かれている! アーサーのお人好しなところが純朴なクリスには刺さるらしい。
アーサーには、クリスががんばって焼いたクッキーを「汚らしい!」と捨てることなんて無理。しょうがないからパクパク食べてウッカリ「おいしい」と口走り、がんばって「まずいですわよ」と凄んでみせるが、学園のみんなから見ればただのクッキー好きの変人でしかない。かわいい。
悪役貴族のアーサーと主人公のクリスとのカップリングなんて、そもそも存在するのかも不明。さあ未来がどんどん怪しくなっていく。でもアーサーは、この学園生活が意外と楽しいらしい。
従者・“エドガー”がいつも自分のそばにいて献身的に支えてくれる。アーサーはそんなエドガーにどうしようもなく心引かれていく(アーサーのとがった口先がかわいい)。
触手に襲われ尻に卵を産み付けられそうになるといったBLゲーム的ピンチもちょいちょい発生するが、エドガーと一緒なら乗り越えられるかも。ということアーサー自身も、他のキャラクターと同じくゲームのシナリオから逸脱していく。
悪役貴族のアーサーがお人好しなおかげで『ラブファンタジア』の世界は毎日カオスだ。ただ、アーサーが知っているゲームのシナリオ通りにコトが運ばないだけで、そもそものBLゲームらしさはまったく損なわれておらず、あちこちで恋が勃発する。生徒も先生も総動員。
本来ならクリスからルーカスに思いを寄せるはずなのに、クリスに塩対応されたルーカスのほうがクリスにドキドキ!
新キャラも続々投入されるが、こちらも展開がゲームと全然ちがう。ラブの矢印が信じられない方向に伸びていく。
“ヒューゴ会長”とクリスがくっつくとバッドエンドだが、彼がエドガーとくっつくのはもっとイヤ……!
さらに『ラブファンタジア』で一番のビッグイベント「魔法学園剣技大会」も、出場しないハズの人が参戦したり、勝ってほしい人が勝ってくれなかったりで大変!
それぞれのキャラクターが自分の恋のために戦う。そしてアーサーも理想のエンドのために応援するべきなのはルーカスだと知りつつも、自分が心から応援したい男のことが頭から離れない。BLゲームのお約束を守りつつピュアな恋も描くコメディだ。ちなみにアーサーは嫌われない男の筆頭だが、他のキャラクターもみんな嫌いになりようがないくらいチャーミングだ。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori