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2026.08.05

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食って呑む。ただそれだけ──。がんばりすぎないおっさんの飯漫画『四十路福田の俺ご飯』

中年サラリーマンは何を食べて生きているか

おじさんもお姉さんも男子高生もみんな毎日なにかを食べているはずだが、「今日、私はこれを食べました」とわざわざ教えてくれる人はいない。なので、スーパーやコンビニのレジ待ちで、周りの人の買い物カゴが目に入ると「今日はうなぎなのかな」や「ハーゲンダッツいっぱい買ってるな」といった感じで、誰かの暮らしの気配が察せられて楽しい。

『四十路福田の俺ご飯』は、題名のとおり41歳男性“福田”の日々の食事が描かれる。福田が作ったり食べたりするのは、自分一人のための日常的な食事だ。本作はこのデイリーさが細かくて楽しい。

例えば第1話は、福田が帰宅後にひとっ風呂浴びるところから始まる。彼は仕事を自宅に持ち帰っていた。つまり、まだ全然「おつかれさまでした!」ではないのだ。
もしも彼が20代だったら、景気づけにグイッとビールを飲んでから残りの仕事をやっつけたかもしれない。でも福田は40代の中間管理職だから、責任と反比例するようにアルコール分解処理能力は落ちている。たぶんこのタイミングで一杯飲んだら寝ちゃうのだ。

でも空腹は放っておけない。日中は会議や研修やセミナーでカレンダーがびっしり埋まり、中途半端に電子化された書類と全然電子化されない紙の書類とが混在する事務作業も山積みで、時すでにクタクタだから何か栄養を入れないと残りの仕事なんて無理!

ということでご飯タイムだ。時間はかけられない。まずは冷やご飯を温め、鯖缶も温める。
鯖缶を乱暴にまるまる全部使わないあたりに大人の成熟を感じる。温かいご飯に鯖缶はさぞおいしかろう……と思ったら、続きがある。
梅昆布茶とほうじ茶、それから梅干しをのせて、袋サラダから水菜だけピックアップして……!
「鯖缶の梅茶漬け(ほうじ茶)」の完成! モノトーンだが彩りの良さが感じられる。福田は自分好みのおいしいものを手軽に作れる男だ。水菜は袋サラダからつまんだものだし、味つけは梅昆布茶や鯖缶で手堅く担保する。ちょうどいい手軽さ!
餃子のタネはスーパーで仕入れて、それ以降の工程は自分でやる。こちらもお茶漬けと同じく、ちょうどいい手作り餃子だ。で、思う存分焼いて、ビール……ではなく、あえてノンアルの強炭酸の飲み物を合わせる。肝臓にもやさしい。

頑張るところと手を抜くところのさじ加減が絶妙だが、仕事は詰め込みがち。
産業医との面談が毎年セットされるくらい残業をしている。元気いっぱい&残業が少ない人は、おそらく自ら望まない限り産業医面談の対象外だが、働きすぎな彼の場合は問答無用で面談の対象者。だから福田は医師の前で「いや〜」と少し気まずそうに笑っているのだ。

それでも福田の日常は崩壊していない。連日連夜コンビニのごはんでしのぐ時期もあるが、そうでなければ自炊で楽しく暮らす。なぜ彼の暮らしが崩壊していないかといえば、おそらく自分の生きる目的や、充足感を得る方法をちゃんと心得ているからなのだろう。
念願かなって手に入れた海辺の一軒家のローンもあるし、働かなきゃ。福田邸は、お風呂場の窓からも海が見えてとてもいいお家だ。そりゃ頑張るよね。

機内で飲むビールは一杯まで!

『四十路福田の俺ご飯』は、馬車馬のように働く中間管理職のおっさんが、無理のない自炊や食事やお酒を楽しむ作品だが、読み進めると福田の人となりが少しずつわかってくるのが楽しい。

福田はものすごい食いしん坊なので、中年の胃袋をいたわりつつ、おいしいものをベストなコンディションで食べる方法を探し続ける。茨城の海沿いに暮らす福田が、“めんたいランド”という名称の、なんだか大洗にありそうな明太子テーマパークを訪れると……?
撤退ラインが明確だし、かといって手ぶらで退散することは選ばない。往生際がいいのか悪いのか微妙なところだが、間違いなく礼儀正しい食いしん坊だ。

そして食への好奇心が強い。国際線に乗れば、機内食はディナーも朝ごはんもパスせずにきっちり味わう。
人生初のキヌアに興味津々。配られた朝食も「何かな〜」とワクワクしながら開けて、温かなエッグチーズサンドをていねいに味わう。そして迷った挙げ句、普段から愛飲するビールを機内でも一杯だけ注文する。好奇心旺盛だが自制心もあり、おかげで破綻なくフライトを楽しんでいる。

中年のおっさんの無理のなさと、その無理のなさで回していく日常が感じられるマンガだ。そして、なぜ彼らが「無理のない日常」を毎日頑張って積み上げているのかも本作は少しずつ描く。じんわりとした幸福感も味わえて楽しい。朝の満員電車でPCが入るビジネスリュックをお腹側に抱えて静かに立つおじさんたちの人生を想像したくなる。福田のように豊かな世界が広がっているんじゃないかなあ。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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