「男女の友情が成り立つか?」は意見が分かれるトピックス。多くの場合はただの友達なら同性のほうが一緒にいてラクで楽しいはず。異性といつの間にか仲良くなれることもあるけど、「友達になろう」と宣言するのはちょっと照れくさい……と、私は思う。
そういうわけで『彼は友達』の主人公“城川小桃”が“大庭くん”にしたお願いは一見、恋の告白に思えた
こんなパワーを出せるのはきっと恋心のおかげだろう。だからここから「友達」を入口にしたラブコメが始まるものだと思っていた。大庭くんは高身長でかっこいいし。
しかし小桃の主張は違う。恋愛はよくわからない。だから彼氏は別にいい。でも大庭くんと友達になってみたい、というのだ。
そしてその道のりは、むしろ恋より険しくて……?
このマンガは彼氏を作るよりずっと難しい(かもしれない)「男友達を作りたい」という小桃の小さな野望を描く。直球のラブコメのように滑り出した物語を進むうちに、思わず胸がキュッとなるような致死量の青春を浴びることになるのがたまらない。
小桃にとって大庭くんが気になる存在になったのは、男友達とあまりに楽しげにしている彼を見たから。
白目をむいて、鼻の穴を膨らませ、何かを吹き飛ばしながら爆笑している大庭くんと同じ顔で話してみたくなったのだ。
だけど大庭くんが女子に見せるのはスンとした無表情だけ。
どうしたら仲良くなれるんだろう? 女子とは友達になってくれないのかな? 悩んだ小桃がストレートに気持ちをぶつけたのが効いたのか、「友達になろう」と言ってくれた大庭くんに、小桃は大喜び。
はじめて小桃に笑顔を向けてくれた大庭くんだけど、基本的に男友達と一緒に過ごしているのは変わらず、仲良くなれそうなきっかけはなかなか訪れない。
ところで、やわらかく可愛らしい絵柄の小桃に対し、大庭くんは女子の前では固い線で無表情に、男同士でいるときは生き生きと表情豊かに描かれている。
この作画の違いによって同じページ内にいながらも、2人がまだ同じコミュニティにはいないことが直感的にわかるのだけど、マンガとしてチグハグには見えないのが絶妙だ。ストーリーを追うだけじゃなく、ページのすみずみまで見たくなる絵のうまさも、このマンガの魅力だと思う。
さて、小桃のことも友達と思ってはくれているようだけど、大庭くんにはもっとホントに仲のいい男友達がたくさんいる。いざというときの“同じ舟”には乗せてもらえなさそう……。自分はまだ大庭くんとは親しくなりきれていないことを、ひしひしと感じてしまう小桃だ。
だけど「友達になろう」は決して口だけじゃなかったようで、たまにこんな不意打ちがあるから気が抜けない。
少しずつ距離が近づく小桃と大庭くんだけど、この繊細さゆえにどうしても目を引いてしまう関係性を、周囲が放っておくはずもなかった。
男女があえて「友達のまま」でいるために気を使わなきゃいけないことは、恋愛よりもきっと多い。
小桃とはまた違う切り口から「男女の友情の難しさ」を実感しているであろう大庭くんと小桃の前に、1人の男子が現れる。
ちょっとグイグイくるタイプのこの“戸森くん”の登場によって、小桃はこれまで「友達」の名のもとに築いてきた関係性について考えるように。
『彼は友達』というタイトルにうっすら感じてきた「……でも、それは本音じゃないのでは?」という疑問に対し、作品はとても興味深い答えを示す。
自分の気持ちと向きあい、タイトル通りの「彼は友達」という関係性の本質に立ち返っていく小桃には、心の底にある本当の願いをしっかり見つめて、それを叶えてほしいと思う。
レビュアー
中野亜希
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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