働いていると突然「なんで私が?」という理不尽な状況に放り込まれることがある。 上司の機嫌次第で変わる仕事量、「そういうものだから」の一言で押し付けられるおかしな慣習……。我慢して耐える? それとも正面から立ち向かう? どんな対処法が正解なのか、教えてほしいといつも思う。
『それってどうかと思います!~転職女子、ブラック企業でサバイブする~』の主人公・“昭野和子”も、飲み会で上司から「ハイヒール酒」強要というとんでもないパワハラ無茶振りをされてしまう。
そんな状況を持ち前のど根性で乗りきったら、褒められるどころか叱られた。それも一回りも年下で、同性の、助けてあげた相手から。加害者への“わからせ”まで求められる始末である。
今どき、一生懸命は不正解で「ど根性」はオワコンなのかな……。なんかモヤモヤするぞ!
しかし反発し合うかと思いきや、直後になぜか2人が手を取り合う様子を見ることになるのがこの漫画の楽しいところだ。
昭和生まれの和子と令和育ちの和加那。正反対の価値観の2人は同じブラック企業で出会った。お互いに譲れない部分を持ちながらも、ともに理不尽に立ち向かう姿を見せてくれる。
昭和の最後に生まれた和子は35歳。厳しい時代を生き抜く中で身についた「ど根性」が、自他ともに認めるアピールポイントだ。
恋も仕事も前向きに頑張りたいと思っているのに、思わぬ落とし穴にハマってしまう。
冷静に考えれば、和子のほうが慰謝料をもらう側だと私は思う。それ以前に「おかしいな」と気づける瞬間だってあったはず。でも、和子は疑ったり試したり、戦うこともしなかった。根性がある人特有の打たれ強さをこんなところで発揮してしまっているのが痛々しい。
和子がそれでもポジティブでいられるのは、キラキラのスタートアップ企業に正社員として採用されたから。恋がダメなら仕事で頑張ればいいじゃない! 新天地となるおしゃれなオフィスには、活気ある同僚たちが待っているはずだけど、ここにもヤバい空気が流れていて……?
やる気満々の和子の隣で微妙な顔をしているのは、和子と同時に入社した“令崎和加那”だ。
令和を生きるZ世代の和加那はタイパ・コスパ至上主義。
会社の人と勤務時間外に飲むなんて時間の無駄。それが自分の歓迎会でも、キャンセル代を払ってさっさと帰りたい。ドライな性格だ。
真逆の価値観の持ち主である和子がなにかとグイグイ来るから飲み会の前にも揉めたし、
和子に連行されてやむなく出席した飲み会のあとにもこうして揉めている。話の噛み合わなさがすごい。
しかし、和子を「ズレてる」「痛々しい」「時代遅れ」などとボロクソに言う和加那だが、それは和子を嫌っているからではなさそう。
だって、あれだけの言い争いの後に和子の家に引っ越してきてしまうのだから。
どう見てもブラックな会社にうっかり入ってしまった2人だが、すぐには会社をやめられない理由がそれぞれにある。特に和子の状況は、冷静に考えるとかなりの「詰み」だ。
そんな和子の状況を「タイパがいい。ラッキーだ」と慰める和加那が私は好きだ。昭和世代の和子とは全く違うアプローチではあるものの、ドライな物言いの中になぜか心を軽くしてくれる優しさを感じる。
「ど根性」「タイパ・コスパ至上主義」が、それぞれ何を大切にしているかといえば「感情」「ロジック」になるだろう。ロジック重視の和加那はある意味和子よりも世慣れており、だから和子が目を背けていた現実も、こうして言語化してくれる。
ヤバいヤツしかいないこの会社。要領が悪く、どんくさくても、和加那の話が多少なりとも通じる相手は和子だし、タイパ・コスパを超えた部分を揺さぶってくるのもまた和子だけなのだ。
同じように仕事に手ごたえを感じているように見えて、じつはその向き合い方はまるで違う2人。しかし腹の底で考えていることは違っても、ともに戦うことはできる。この会社でサバイブするのか、イチ抜けなのか、それとも……? この先彼女たちがどう出るのか、楽しみだ。
レビュアー
中野亜希
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
X(旧twitter):@752019