『惨殺天使ピコマル』第1話の衝撃が忘れられない。予定調和のヨの字もないのに最後はキレイに着地して、その着地の仕方すら予想外で思わずウワ~と声が出る。もう大好きになった。ちなみに第1話以降も毎回必ずウワ~と言ってしまう。そんななのに題名にうそ偽りがまったくないところもすてきだ。ピコマルは惨殺し、そしてこれ以上ないくらい天使。
ということで、このレビューでは衝撃の第1話のことは最小限にとどめ、選ばれし天使こと“ピコマル”の魅力について語る。
下級天使のピコマルはモチモチボディの持ち主。人間でいうと7歳くらいの男の子で体重は食パン45枚分くらい(まあまあ重たいね)。とてもかわいい。しかも非常にいい子。
かわいくていい子の生き物に大抵の人間は優しいので、みんなピコマルに親切。ピコマルも彼らからの善意を全身で受け止め日々ゴキゲン。
ピコマルは人間が暮らす下界のことはあまり詳しくないため目に映るすべてのものが新鮮。最近は駄菓子屋の親切なおばあちゃんが食べさせてくれた「しょっぱん(食パン)」がお気に入り。
人間のふところに飛び込み、ニコニコと行動を共にし、かわいがられるピコマル。そんなかわいい天使に与えられた使命は「人間の品性を抜き打ち調査」することだった。
どういうわけか人間たちはピコマルを前にするとエグい本性をあらわにするのだ。
おばあちゃん、どうか何も言わないで。口元が不穏すぎるよ。おばあちゃんは最近見つけて密かに繰り返す「遊び」のことをピコマルに話してしまう。しょっぱん食べさせながら話す内容か?と困惑するくらい、とても品性下劣な「遊び」だ。
するとピコマルは……?
思わずおばあちゃんの首をスパーン! で、惨殺後もメソメソ泣いている。ピコマルは人の本性を引き出す天才であり、泣き虫なのだ。
ピコマルによる人間の品性の抜き打ちチェックと処罰。これが毎話続く。人間が抱える罪のバリエーションが無限大(&本当にありそう)で飽きない。ちなみに罰は斬首のパターンが多い。ピコマルの力加減がちょっと強すぎる気もするが?
ピコマルを世に送り出した“女神様”は「あなたの主観で罰しまくれば良いのです」とのことで、ピコマルを丸ごと信頼しゴーサインを出しっぱなしの状態!
しかもピコマルは別に「首をはねてやるぞ~」とも「性根を暴いてやる」とも思っていないところがおかしい。天使らしく、愛と信頼と善から入るスタイルだ。
ある日のピコマルは“ヒロキ”の審判のために現れたはずなのに、どういうわけかヒロキの深夜残業に付き合っている。これはヒロキがデスクの引き出しに入れていた“しょっぱん”をピコマルが食べてしまい、そのお礼も兼ねての行為。律義でおひとよしな天使なのだ。
ヒロキが激務に追われる理由は、同僚の“サトウさん”の仕事を何かと手伝っているから。サトウさんは「優秀な男性って憧れちゃうな」とヒロキをおだてまくって甘えている。え、好きなの?
ロクでもない給湯室トークでサトウさんの本音を聞いてしまうヒロキとピコマル。あまりの内容に顔面蒼白のピコマルは……!
サトウさんに天罰を下してしまう。サトウさんの行いはピコマルの主観的には「死!」だったらしい。
たしかに「なんてこと……」だよね。とはいえピコマルは主観で罰しまくるのが使命だもんなあ……なお、この後にもう一名追加で斬首されてしまう。
違法かどうかは関係なく「この人間、ひどい!」と思ったらピコマルは惨殺を即選択する。そんなピコマルの判断基準は私のセンスとも合っているので毎話「しょうがないな」と思う。
全然ダメな相手を殺しちゃったあとでも、必ずピコマルは深く傷つき涙する。悪人から施された親切を全身で受け止め、それを愛してしまっているのだ。むちゃくちゃ凶暴な天使なのにピュアすぎてどこか切ない。
ちなみにピコマルの左耳はちょっぴり欠けている。これはペナルティの名残で、ピコマルが犯した罪の詳細も本作は明かしている。ぜひ読んでほしい。私は笑ったよ。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori