あさりとベーコンの酒蒸し、いちごジャム、かぶの豆乳スープ──我が家の定番メニューだ。全部、『きのう何食べた?』に載っていたレシピで作ったもの。どれも簡単で、どれもおいしい。漫画だが、我が家では最も頼りになるレシピ本だ。
『きのう何食べた?』は、同棲している40代のゲイのカップル・弁護士の「シロさん」と美容師の「ケンジ」の日常と食を描いた漫画。普段、料理するのはシロさん。仕事を定時きっかりに切り上げ、阿佐ヶ谷の激安スーパーで底値を狙って食材を買い、手早く晩ご飯を用意。ケンジは帰ってくるなり、食卓に用意されたごはんを見て「おいしそう!」と声をあげ、「これ、おいしいね」と1つ1つをかみしめながら幸せそうに食べる。そんな日常が、淡々と描かれている。
本のレシピで初めて作ったのはいちごジャムだった。これを読むまでは「ジャム作りなんて難しいに違いない」と思い込み、食わず嫌い、もとい、作らず嫌いだった筆者だが、漫画に描かれた手順はすごく簡単で、しかも楽しそうだった。
いちごに砂糖を加え、火にかけてしばらく煮ると、いちごから色が抜け、白っぽくなる。さらに煮ると色が戻り、ルビー色になっていく。「この瞬間がキレイなんだ」。シロさんが言うから、その瞬間を見てみたくなって作り始めた。春の終わり、いちごが安くなったころにたくさん作り、消毒したビンに保存し、1年かけて食べる。今年ももうすぐ、その季節だ。
かぶも使ったことがなかった。近所の八百屋で、「これ、本当においしいから」とすすめられ買ったかぶで作った豆乳スープは、本当においしかった。煮るとある時点で急に火が通り、それより煮すぎるとグズグズになることも、シロさんの料理で学んだ。日持ちのする大根と違い、数日たつとすぐにしなしなになってしまうことは、使ってみて初めて知った。
シロさんの料理はお手軽だ。インスタントの「本だし」を迷いなく使うし、さらにお手軽な「めんつゆ」や「白だし」もよく登場する。おかずはいつも3品以上で野菜中心。「あまからすっぱい」のバランスを大切にしている。おいしくてバランスもよくて体によさそうだけど、本格的ではなく、無理しない料理だから作ってみたいと思える。和食中心で地味だから、20代のころなら惹かれなかったかもメニューだが、35歳の今、とてもしっくりくる。
インターネットには料理のレシピは山ほど載っていて、何万ものレシピから選び放題だ。でも、私にとって一番頼りになるレシピはこの本。ネットのレシピと違ってハズレなく全部おいしいし、漫画の通りの手順で作れば、バランスのいい献立を手早く用意できる。
はやく次の巻が出て、新しいレシピを教えてくれないかなぁと、首を長くして待っている。
レビュアー
1978年、兵庫県生まれ。京都大学教育学部卒。IT系ニュースサイトITmediaの記者、Webベンチャーnanapiの編集者を経てIT・Web分野を中心に取材、執筆するフリーライター。ITを切り口に、人の心、そして社会の有り様にまで踏み込み、取材される側の信頼を獲得してこそ書ける記事を執筆する。また、時に見せる体当たり記事の潔い姿でも名高い。著書『ネットで人生、変わりましたか?』(2007年、ソフトバンククリエイティブ)も刊行している。Twitter @yukatan