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エネルギー源は世界各地にいるともだち(と旅とお酒)! フレンドシップエッセイ

世界ともだち部(1)
(著:週末北欧部 chika)
2023.04.09
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「私たち、ともだちになろう」

「この人と私は“ともだち”なんだ」と気がつくと妙にうれしくなりませんか。とくに大人になってこの感覚が湧いてくるとなんとも幸せな気持ちになります。

仕事や家庭のあれこれから人間関係が広がって、SNSの友達申請もたくさん受け取って、いろんな人との接点もふえるけれど、「今日からともだちだー!」みたいな境界線はないし、ふと「このビール、あの子も好きだろうな」なんて思い浮かべて、やっと、ホワイトエールのジョッキを片手に「ああ、彼女は私のともだちなのだな。元気かな」と気がつきます。ちいさい芽みたいなんですよ。だからそっと大事にしたくなる。


大人のともだちは、高校の教室に集まるクラスメイトではないから、毎日どころかしばらく会えなくなってしまうことも。でも大きな存在なんです。

『世界ともだち部』は、そんなホロッとあたたかい“ともだち”のエッセイマンガです。題名の通り、世界各国のいろんなともだちが登場します。



フィンランド人の、もちろん血はつながっていないが、すっごくお兄ちゃんな“お兄ちゃん”。


中国で暮らしているモーリシャス国籍の“ウーパールーパーさん”。彼女と街を歩けばすべてがおもしろくなっちゃう。



韓国の“キツネさん”とは、「これからもずっと側にいたいんだよね」って宣言をして大切に友情を育てています。そう、友情って育てていくものなんですよね。ちょちょっとつまみ上げて手に入るようなものじゃない。

作者は北欧とビールと一人旅をこよなく愛するchikaさん。本作に登場する赤い三角の帽子をかぶったまんまるいカモメがchikaさん本人です。

chikaさんは北欧が大好きすぎて北欧移住をした人物。夢の叶えかたがダイナミックでキュートなんですよ。「フィンランドで寿司職人になろう!」って目標を立てて、日本で会社勤めをしながら寿司学校に通って、本当に寿司職人になってフィンランドへお引っ越ししました。こちらは『かもめニッキ』という作品でくわしく綴られているので、ぜひ読んでみてくださいね。明日もがんばろって思えるいいマンガです。

ダイナミックでパワフルで前向きなchikaさんと、彼女のともだちとの思い出がつまった『世界ともだち部』も、やっぱりしみじみ元気が出てくる作品でした。

私のはんぶんは、ともだちでできている。

これこそ大人の友情だわと思ったエピソードを紹介します。chikaさんが「私たち、ともだちになろう」って宣言してまで大事にしたかったキツネさんとの友情。



キツネさんの「友情は、お互いに努力しないと続かない」にドキッとする。『世界ともだち部』は友情を長続きさせるヒントがいっぱいあるんです(chikaさんはこれを「友情の水やり」と表現しています。たしかに友情って植物みたい)。

でね、キツネさんは本当にかっこいい人なんです。chikaさんが自分の人生や生き方に深く悩んだとき(いつも前向きな人にも、そういう瞬間はあるんです)、キツネさんは日本と韓国をつなぐ国際電話をたどって、こう語りかけます。



あなたの頑張りは、自分のためだけなんかじゃないよ、あなたの人生も、あなただけのものじゃないよ。それを想像すると私も泣いてしまう。



家族やパートナーだけが自分の人生を分かち合う存在ではないと気がつくと、人生の風通しがよくなります。

「何それいいね!」

こちらの旅行記もしみじみ心に効く内容でした。“ヤンバルクイナさん”とのツバル旅行は、それはそれは想定外で……!




「びゃっ」がかわいい。たしかにこれは飛び上がっちゃうな。水もふんだんには使えないし、何かと不便。でもヤンバルクイナさんはポジティブに受け入れています。


私の普通は、あなたの普通とは違うかもしれない。だから何が起こってもビックリしない。そしてそんなヤンバルクイナさんのスタンスは、chikaさんとも私とも「まったく一緒」ってわけじゃないんですよね。だから「あなたはすばらしいよ!」って思うんです。

そして、私から見たchikaさんのとくに素敵なところは、こちら。



「滑走路で星を見ながら寝てみない?」に「何それいいね!」ってすぐにワクワクするchikaさんがすごく好きです(他にも「大賛成!」ってリアクションもよかった!)。ともだちとの思い出がふえる楽しい呪文のようだな。私も言ってみようっと。

そうそう、WEBサイト「&Sofa(アンドソファ)」で連載中のこちらの作品、私は「おねがい! 紙の単行本をぜひ手に取ってほしい!」と、かなり大きめの声で言いたいです。装丁がめちゃくちゃかわいくて、あちこちめくったり、いろんな角度から眺めては「かわいいなあ」って撫(な)でてしまう。ていねいにラッピングされた贈り物や、遠くに暮らす友達からのお手紙のような本です。

  • 電子あり
『世界ともだち部(1)』書影
著:週末北欧部 chika

私のはんぶんは、ともだちでできている。
だから私は、前を向いていけるのだ。(本文より)

フィンランドを好きになって10年以上。フルタイム就業+寿司学校通いという修業期間を経てついに北欧移住の夢を叶えた「週末北欧部chika」。

信じられないくらい忙しくて、寿司修業先で泣きそうになったり、英会話レッスンで言葉に詰まったり……そんなくじけそうになる瞬間も、「がんばればできる気がする!」
と謎の前向きさを保てていた理由は、「世界各国にいるともだちのおかげ……!!」

自分と似たともだちとは同じ楽しみを共有し、異なる考え方を持つともだちには感化されることが、また自分らしさのひとつになっていく――。
喜びとひらめきを与えてくれるともだちとのエピソードをつづる、前向きフレンドシップエッセイ!

『世界ともだち部』に登場するのは、たとえばこんな友人たち!
・「兄」「妹」と呼び合うフィンランド人のともだち・ハリネズミさん
・「こんな人になりたい!」と思い続けている心のヒーロー、ノルウェーの歌手5人組
・はじまりは一目惚れ! わたしの“はんぶん”だと感じる韓国人のともだち・キツネさん
・大学時代の寮で、眠れない夜に発足した「インソムニア部」
etc…

コミックスだけで読める描きおろし漫画も収録!

【大人気SNSアカウント「週末北欧部」とは……】
北欧が好きすぎて、会社員として働きながらフィンランドでの就業を目指して寿司学校に通い、ついにその夢を叶えてしまった人。
前向きで、何かを愛することが上手な著者のエッセイは優しくてエネルギッシュな読み心地。
(自画像のにこにこしたおもちのような生物は、カモメがモデル)

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori

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