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大政奉還から明治天皇崩御まで、もう一度!近現代史。明治を知ればいまがわかる。
(著:関口 宏/保阪 正康)
近現代史を一から「学び直してみたい」という願望はあるのだが、学校の教科書のような「通史もの」にはなかなか手が伸びない。年号と固有名詞をこれでもかと詰め込んだ本文と巻末年表、あの平坦な語り口……。中高生の頃に使った教科書がとにかく退屈だった。その記憶がトラウマになって二の足を踏んでしまうのだ。
こういうひと、私のほかにも案外いるんじゃないだろうか?
もし自分もそうだという人がいたなら、ぜひ本書を手に取ってほしいと思う。私のような“通史オンチ(しかも通史アレルギー)”でも、近代・明治の“通史”を楽しく「学び直す」ことのできる1冊だ。じっさい、私は司会者の関口宏氏(本書進行)と歴史研究家の保阪正康氏(本書講師)によるユニークな“実況&解説”にグイグイ引き込まれ、一気読みしてしまったのだから。
本書の“実況&解説”はぶっ通しの全47講。構成はとてもシンプルだ。「大政奉還」(慶応3年)から「明治天皇崩御」(明治45年)まで、ほぼ半世紀にわたる激動明治のエピソードや出来事を、1年ごとに時系列に並べて取り上げていく編年体スタイルである。
つまり、鳥羽伏見の戦い~江戸城無血開城~白虎隊の悲劇に至る「戊辰戦争」や「西南戦争」「西郷隆盛の最期」といった序盤の映画・ドラマ映えする場面にだけ重点を置くのではなく、中盤、終盤にも等しくページを割いている。明治の一部始終をまんべんなく、である。
また、絵画や写真、講談本、新聞風刺漫画など多彩な資料を扱いながら、政府中枢の動きにかぎらず、市井の自由民権家の活動や庶民の暮らしにも目を向ける徹底ぶりだ。
この1冊を通じて、明治日本を広い視野、長いスパンで見渡すことで、約270年間も続いた封建社会がだんだんと近代国民国家としての社会へ生まれ変わっていくその足取りを、一歩ずつ辿っていこう、という試みである。
なんといっても著者ふたりのコンビネーションが絶妙である。まず、進行をつとめる関口氏がその年に起こった出来事の話題に水を向け、保阪氏が経緯や背景について解説を始めていく……。と、そこまでは一般的な「聞き手と講師」の格好で始まるのだが、その後が関口・保阪コンビの真骨頂。保阪氏の下地固めの概要レクチャーを受けてからの、関口氏の質問攻勢が容赦ない。
あれ? でも、どうして……? (そんなことして)大丈夫ですか? “関口クエスチョン”のバリエーションはとにかく豊富だ。読んでいるこちらは「なるほどなあ」と納得しかけた解説に対しても果敢に「?」を差し込む、差し込む。すると、保阪氏から、もう一段踏み込んだ解説が加えられ、一つ一つのエピソードがさらに立体的に肉付けされていく、という具合なのだ。歴史は本来こうやって問いを立てながら学んでいくもの、なのかもしれない。
たとえば、冒頭には「大政奉還」をめぐって、さっそくこんな質問→深堀りレクチャーがあった。「慶喜の真意というのは、いったいどんなものだったのか。僕にはそこがよくわからないのですが」という関口氏の率直な質問を受け、待ってましたとばかりに保阪氏が答えていく。「むしろ朝廷や天皇を取り込んで、自分たち幕府が新たに政治を担っていくことを狙っていた」という見立てを語り、(朝廷を取り込むその前段として)「討幕派の動きを封じ込めるため」という分析を展開してみせる。新政府サイドだけでなく旧幕府側の思惑についても目線を合わせていくのである。“一つの出来事”を同時代の様々な視点から見てやろう――。そんなふたりのこだわりが滲むやりとりだ。
そうしたこだわりと同時に、両氏は“一つの兆し”に注目し、過去に起きたいくつかの出来事と関連づけながら歴史を捉えていくことにも意欲的である。とくに、東アジア(朝鮮、清、台湾)への「侵出」過程、あるいは軍部の権限強化へ向けた法整備のプロセスなどについても、前回(前年)数回前(数年前)の話を丁寧に振り返りながら、一連の流れを整理してレクチャーしてくれている。あるときには昭和の戦争との相似形をあぶり出し、またあるときには現代社会の出来事・ニュースにも引きつけてみせる。そうした眼差し自体が、歴史との向き合い方とはこういうものだと、静かに示してくれている。
本書あとがきにはふたりのこんな言葉もあった。
なぜ私はここにいるのか。
なぜ私はこの人生なのか。
この究極のテーマに迫ろうとするなら、矢張りいま、
ここに繋がる歴史に関心を向けるべきなのでしょう。(関口宏)
現在の私たちの姿、明日の姿を確かめるために読んでほしい、と痛切に思う。(保阪正康)
では、今ここに暮らす私たちは一体、どんなふうに歴史に学んでいけばよいのか――。そのヒントはもちろん、彼らによる“実況&解説”のなかに詰まっている。
- 電子あり
勝海舟、大久保利通、西郷隆盛、木戸孝允、伊藤博文ら数々の英雄たちが天皇を支え、築き上げた新国家・明治日本。
明治日本を知らなければ、現代の日本はわからない。
明治を形作った一人一人の素顔、新天皇の東京入城に沸いた庶民の姿、文明開化、岩倉使節団の珍道中に始まり、西南戦争、台湾出兵と世相は徐々に血なまぐさくなっていく。
軍部の強化に努めた新生日本は遅れてきた帝国主義国として列強の後を追い、日清戦争、日露戦争へと突入していく――。
激変に次ぐ激変、日本史のなかでもっとも面白く、生き生きとした時代の記録。
レビュアー
出版社勤務ののち、現在フリー編集者。学生時代に古書店でアルバイトして以来、本屋めぐりがやめられない。夢は本屋のおやじさん
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